カーボンアローの作り方

 「グラス」と聞いて、何を思い出しますか?
 「サングラス」や「メガネ」を思う人もいるでしょう。「ガラスのコップ」を思う人もいるかもしれません。しかし「グラスを傾ける」とは言っても、「ガラス」を傾けるとは言いません。
 それでは、「グラスファイバー」と聞けば、どうでしょう?
 それなら「釣竿」や「ボート」「バスタブ」などを思う人もいるかもしれません。「グラスファイバー」で「グラス」という言葉を思う人もいるかもしれません。
 ということで、実は日本人が思う「グラス」のイメージは、少し実際とは異なるのではないでしょうか。
 なぜなら、「グラス」は「Glass」であり、「ガラス」も「Glass」です。ということは、「グラス」は「ガラス」なのです。そして「グラスファイバー」も言葉の通りで、「ガラス繊維」なのです。分かりますか? グラスファイバーは硬い固体ではなく、糸です。それも非常に細い繊維です。ガラスを溶かして糸ができます。その繊維を樹脂で固めたのが、我々が一般的に想像する「グラス」であり、釣竿やボートやバスタブ、そしてアーチェリーのリムにも使われています。この硬いグラスの素材を「FRP」と呼びます。
 「aiber einforced lastics」。FRPとは繊維をプラスチック(樹脂)で強化したプラスチックのことです。繊維入りプラスチックです。そして一般的にはその繊維が「ガラス繊維(グラスファイバー)」であるために、FRPはガラス繊維で出来ていることになっていますが、近年このガラス繊維に替わってより強度や反発力が優れるカーボン繊維(カーボンファイバー)を使用したりするようになりました。そのため、グラス繊維が入っているものを「GFRP」、そしてカーボン繊維が元になっているものを「CFRP」と正確には呼びます。
 ということで、まずはこちらをご覧ください。
        ■ カーボンリムとオレンジジュース
        ■ もう少しオレンジの話
 では、これらを踏まえて「カーボンアロー(シャフト)」の作り方です。
 世の中にはたくさんのカーボンアローがあります。しかしそれらの作り方は、2つに大別されるといっても間違いではありません。「オールカーボン」アローと、アルミニュームのチューブ(シャフト)をコアにした「アルミ/カーボン」アローです。
        ■ 有弓休暇(15)
 これらは「オールカーボン」が「プルトルージョン製法」なのに対して、「アルミ/カーボン」は「シートローリング製法」です。シートローリング製法については、他の製法を含めこちらに詳しく書かれています。
        ■ カーボン○×△(FRP)の作り方
 
 そこで今回は、世界の主流でもあり最大のシェアを誇る「オールカーボン」アローについて、「AVIA SPORT COMPOSITES INC.」の協力を得て説明します。
 但し、先に断っておきます。皆さんにそのまま見せられるもの、見せられないもの、話せること、話せないことがあります。
 笑い話のようなことですが、近年カタログに載るリムなどの説明文に、構成図や断面図が昔ほどに載らなくなったと思いませんか。メーカーの不親切と言われれば、それはそうなのですが、実はあんな図すらもマネて類似品を作るメーカーがある、最近のアーチェリー界なのです。節操がない、ノウハウがないという話ですが、カーボンアローの世界においても、そんな「Junk」から身を守る必要があります。この点を、ご理解ください。
 それではまず、プルトルージョン製法をお見せしましょう。但し、これはカーボンシャフトを作っているところではありません。ガラス繊維(グラスファイバー)を使った工業製品を作っているところですが、流れは分かるでしょう。カーボンシャフトも、このように大量の繊維(カーボンファイバー)を束ねて作ることに変わりありません。
 「ガラス繊維」(グラスファイバー)は、基本的に白い色をしています。それに対して、「カーボン繊維」(カーボンファイバー)は真っ黒な糸です。
 写真では分かり難いかもしれませんが、これらの繊維は蜘蛛の糸のような細い繊維が合わさっています。ちょうどストリングのようなものです。

 プロセレクトのカーボンアローは、世界最高品質の日本製カーボン繊維だけを、100%使用して作られています。

 この繊維を樹脂の中で固めます。そこで団塊世代の皆さんに、質問です。「FRP」は何色ですか?
 多分、「白」と答えるのではないでしょうか。確かに白い繊維を固めるのですから、白という答えは正しいのですが、、、、実は1980年代までは、本当にGFRPは真っ白でした。その理由は、当時FRPを作る時に漬ける樹脂には「白い顔料」(着色に用いられる色材のうち、水や油に溶解しないもの。水や油に溶けるものは染料と呼ばれる。:ウィキペディア)が混ぜられていました。だから昔のリムは塗装しなくても、白いのです。(当時はまだCFRPのリムはありません。)
 ところが性能と耐久を追いかけ出したあの頃から、顔料は不純物であり繊維同士の密着や耐久性によくないという流れになります。そこで世の中は、顔料を入れないFRPが主流となっていきます。では、どんな色になるのか。樹脂の多くはエポキシ系ですが、現在のエポキシ接着剤を見れば分かるように、顔料を入れない樹脂で固めると「飴色」のFRPができあがるのです。ナチュラルな樹脂の色ということです。
 ところがエポキシをはじめとする樹脂は、長期的にみれば耐光性に問題を持っています。黄変や劣化が進むのです。しかし、それ以上に、日々の問題として白でないリムは、熱吸収が激しくなります。高温は接着の耐久性に大きな問題を発生させます。はがれや折損です。そこで行われたのが、飴色のFRPの表面を白く塗装する方法です。それが現在のカーボンリムにも引き継がれています。真っ黒なカーボンリムの温度を上げないために、白い塗装はデザイン以前に耐久性に不可欠な手法なのです。
 黒い繊維のカーボン(CFRP)は、着色できません。しかし、白い繊維が下地となるGFRPは顔料によって着色することができます。それも白に対してなので、きれいな色を付けられます。
 これはフィッシング用(弓で魚を取る)のグラスアロー素材です。特に重さが必要なので、チューブではなくソリッド(中が詰まった)シャフトです。水中、水面で見やすいように着色されていますが、これ以外にも夜でも見やすいように蛍光塗料を混ぜて作るシャフトもあります。
 ともかくは、ガラス繊維に樹脂を含浸させ、金型に通して加熱すると、GFRPです。この時の金型によって、ソリッドでもパイプでも板状でも、均一で精度の高い製品が量産できるわけです。
 後は用途に応じて裁断すれば、出来あがります。理論的には、繊維の長さのシャフトが作れるわけで、70mのカーボンアローを作ることも可能です。しかし、例えばスペースシャトル内の無重力であれば完全な球体が作れるように、やはり重力を含め種々の要因は、製品にはバラツキを生みます。
 そこでアーチェリーシャフトの場合は、重さや曲がりを完成段階で測定します。この時、精度基準に適合しない製品は排除されます。他社であればそれを廃棄するのでしょうが(12本ずつ選んでセット組するメーカーもありますが)、AVIA 社においてはそんなシャフトをスポーツカイトや玩具部品として提供することで、低価格、高品質なアローシャフトを供給できるようになっています。(実際問題として、プルトルージョン製法以上にシートローリング製法では不適格品が出来てしまいます。このコストをどうするかで製品の価格が決まってきます。)
 後はシャフトのグレードやブランド、用途に合わせて分類し、プリントを施せばアーチェリーシャフトの完成です。
 ちなみに、これは「バイター製 スタビライザー」の素材として作られた、「240」サイズのオールカーボンシャフトです。ドイツに送られます。製法と素材はアロー用と同じですが、精度は競技用アローほどには要求されません。
 AVIA 社はこのように、アーチェリーの市場においてもOEM(他社ブランド生産)製品を含め、多くの製品を供給しています。
 では、最後にこちらをご覧ください。
 このような製法で作られる「オールカーボンシャフト」は、90°まで曲げたとしても完全に元の状態に復元し、折れたり曲がったりすることはありません。(ヒビなどがある場合は、この限りではありません。)
 今回お見せできないものには、繊維の量や配置方法、繊維に掛けるテンション、樹脂の成分、硬化の温度や速度等など、多くのノウハウがあります。例えば世の中の「Junk」アローは、このように曲げれば割れてしまいます。繊維の量が少なかったり(樹脂が多い)、製法上のいろいろな問題があるためです。
 プルトルージョン製法でも表面にクロス繊維を配することもできるのですが、近年では組紐(くみひも)の原理を応用した3軸などというカーボンシャフトもあります。しかしゴルフクラブは1本が高性能であればいいのでしょうが、アーチェリーの場合は、高性能以前に12本が同じ性能であることの方がまず大切なのです。
 そしてアーチャー(素人)に確認できるのは、唯一曲がりです。しかし、実際に的中精度にもっと大きな影響を及ぼすのは、重さであり硬さであり、均一性です。
 ともかくは、ご参考までに。。。。

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