ベアシャフトチューニングとペーパーチューニングの一考察

 久しぶりに矢を作りました。メモを見ると前回は3月15日だったので、約5ヶ月ぶりのマイアロー製作です。
 昔、うまいころは練習用と試合用を分けて年間数ダースを使っていましたが、今はうまくもなければ、本気もないので傷んできて試合があるような時に作るだけです。冬のインドアシーズンは物置からアルミの鳥羽根を出してくるので、アウトドアでのカーボンアローは9ヶ月間、2万射弱で2ダースか3ダース程度です。もちろん使用頻度や使い方や技術によって異なりますが、矢が消耗品であることを思えば(消耗品とは思えない値段に問題はあるのですが)年間1〜2ダースの矢は少ないような気はします。
 それはともかくとして、矢はACEでもX10でもVAPでも、1ダースずつのパックの記号や重さが同じであったとしても、決して混ぜて使うべきではありません(競技者なら)。そして技術や点数にもよりますが、そんな同じ12本のパックであっても1本くらいは技術や値段やブランドとは無関係に外れる矢が混ざっていることも知っておくべきです。
 が、今回はそんな話ではなく「ベアシャフトチューニング」と「ペーパーチューニング」の思いつき話です。
 そんなわけで、矢は1パック12本を作りますが、同じように作った12本の最後の作業、ハネ貼りだけが11本で終了です。1本だけは「ベアシャフト」(ハネなし矢)ということです。この矢も数週間後には同じようにハネを貼って使うことになるのですが、なぜか作った時だけベアシャフトを射ってみるのが習慣になっています。
 そこで今日、作った矢で初めて50mを射ってきたのですが、、、いつもならそれまでと同じ矢を作るのですが、今回それまで使っていた矢がヘタな射ち方をするとハネがプランジャーチップに擦っていくのです。ハネやチューニングを変えて試していたのですがどうも納得がいかず、今回はポイントを少し軽く110グレインから100グレインに変えてみました。するとハネのトラブルはなくなったのですが、初めての経験としてベアシャフトの矢が結構ハネありの矢のグルーピング近くに刺さったのです。こんなに近くに的中することは初めてです。普通は50mになると、的に乗らないことも結構あります。
 とはいっても、射ち方が悪ければとんでもなく外れます。だからゴールドに近いからといって別にうれしくも何ともなく、「あーそっ」だけのことです。ベアシャフトがゴールドを捉えることとミスが10点に留まることとはイコールではありません。皆さんはベアシャフトチューニングとペーパーチューニングについてどの程度の思い入れと知識を持っていますか?
 45年アーチェリーをしていてベアシャフトチューニングをするリカーブアーチャーをたまに結構見かけますが、その割りにペーパーチューニングについて語るリカーブアーチャーはまずいません。不思議だと思いませんか? これは非常に大事なことですが、ベアシャフトチューニングもペーパーチューニングもどちらもコンパウンドアーチェリーから生まれた技術(理論)だという点です。そのためコンパウンドアーチャーにとってはこの2つのチューニング方法はセットのはずです。しかしリカーブアーチャーはベアシャフトチューニングについてのみ薀蓄や自慢を語り、ペーパーチューニングをすることはありません。なぜでしょう。
 これ以外にもコンパウンドにしかないものはあるのですが、リカーブアーチャーはコンパウンドアーチャーのすごく当たるグルーピングを見て、そこにリリーサーと滑車とレンズ以外に何か特別の秘密があるのではないかと勘違いするのです。そして憧れと錯覚と言い訳を抱きます。その最たるものがベアシャフトチューニングというわけです。これならできそうと思うのです。
 個人的にベアシャフトチューニングを初めて見たのは、1979年ベルリン世界選手権の練習会場でです。リック・マッキニーが30mでベアシャフトでチューニングするのを見て聞いたのが最初です。多分日本でベアシャフトチューニングが語られるようになったのはこれ以降の話です。ちなみに、コンパウンドボウが生まれたのは1969年です。
 あれ以来、練習場でベアシャフトチューニングに没頭し、ハネ付き矢と同じ的中位置を得ようと四苦八苦するアーチャーを見かけます。30mだけでなく70mでもベアシャフトがゴールドを捉えると自慢するアーチャーもいます。それを聞くと、360点のパーフェクトより凄いと感動します。ではなぜそんな凄いことができるのなら、ハネなし矢で試合に出ないのですか? 風が吹いても流れませんよ。コンパウンドアーチャーでもハネなし矢で世界チャンピオンや世界記録を出したアーチャーはいないでしょう。ハネなしまでいかなくてもそれほどベアシャフトでも同じ位置に的中するなら、もっと小さいハネを使えば風の影響を受けなくなるでしょう。。。
 個人的には、ベアシャフトチューニングを信用する以前に、ハネのある矢とない矢がまったく同じ同じ的中位置を得ること自体を信じていません。ではなぜ今日のようにたまにベアシャフトを射つのか。それは「傾向」を知るためです。左に行けばスパインが硬い、右なら柔らかい程度の自分の使うシャフトの傾向(状況)を知るためです。傾向を知ったうえでの対策は考えますが、それはベアシャフトを同じ位置に当てる努力とは違います。
 コンパウンドアーチェリーでベアシャフトチューニングとペーパーチューニングが生まれた理由はリリーサーです。この機械的発射装置のお陰でコンパウンドでは基本的にアーチャーズパラドックスが起きません。起こさないようにチューニングすることがリカーブ以上の圧倒的的中精度を得る条件です。それに対してリカーブボウは、指でリリースする限りはアーチャーズパラドックスが発生します。これはリリーサーを使わない限り解消できないパラドックスです。そしてこの矢の蛇行現象を解消(軽減)するものこそが「ハネ」(空気抵抗)なのです。
 ハネのない矢は蛇行運動を空気抵抗によって制御できないため、その動きをより先鋭化させます。そのため傾向はよりつかみやすくなります。それを知ったうえで蛇行を軽減するための道具はいくつかあります。クッションプランジャーの硬さや出し入れ、ストリングハイトの高さやストリングの太さ、スタビライザーのセッティングやダンパーの硬さ等など、もちろんシューティングテクニックもそうです。しかし矢のスパイン自体を替えないなら、空気抵抗を生み出す唯一の道具「ハネ」に勝るものはありません。コンパウンドはともかくリカーブにおいて矢は必ず蛇行して飛んでいるのです。
 ところが、矢がカーボンになりより速く飛ぶようになってから、この蛇行運動はハイスピードカメラでなければ見ることはできません。ハネの有無にかかわらず、飛翔中の矢の動きを直接確認できません。矢をはっきり確認できるのは、それが止まった的面においてのみです。だから、ベアシャフトチューニングは飛翔の空間を省いて的面だけで語れるがゆえにもてはやされるのです。ところがペーパーチューニングはその飛翔の空間そのものを紙の穴によって見せるため、アーチャーズパラドックスがあるリカーブボウでは語る必要がないのです。
 ではリカーブボウにおいて矢のチューニングはどうしたらいいのか。結局はハネの付いた矢で実際に射ってみて、飛びや的中や感覚から経験則を養うしかありません。ベアシャフトがゴールドに当たるから、ハネのある矢が10点に行くとは限りません。それと同じように、チャート表の矢が真っ直ぐ飛ばなかったり、真っ直ぐ飛ばないのによくグルーピングする矢もあります。
 ベアシャフトチューニングが悪いと言っているのではありません。ハネなし矢が当たれば、それにハネを付けたらもっと当たると勘違いすることが悪いのです。。。 (^_^)

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