バイターノックとポリカーボネートと精度

 バイター(ドイツBeiter社製)のノックは高価です。安くはありません。
 その理由として、非対称形という独自の形状は別にして、非常に高品質、高精度であるということが挙げられます。
 ホームページを見れば分かるとおりですが、バイターはもともと医療製品をはじめとした樹脂製のパーツを作る会社として1968年にスタートしています。それが1986年ころから、アーチェリーの世界に進出して来ました。個人的にバイターを知るようになったのは、この年にオーストリアで行われた世界フィールドの練習会場でワーナー・バイターなる人物(後で社長と知りました)が、ノックとそれ用のストリングに付けるノッキングポイントなるパーツを配り歩いていたからです。袋いっぱいもらって帰った記憶があります。ということで、多分バイターのアーチェリー用品の中でも一番最初の製品は「ノック」だと思います。
 ではなぜ高いのか?ですが、バイターのノックはすべて「ポリカーボネート」でできています。不透明の色のものは材質が異なるかと思い、一応聞いてみたところ、
 
>ALL Nocks are made out of the same material: POLYCARBONATE. 
 
 とバイターからの回答でした。これはバイターのアームガードなどの素材も同じということです。
 ポリカーボネートの性質や特徴については、検索していただければ分かるとおりですが、防弾ガラスや金属の代わりに歯車などにも使われる素材です。プラスチックの中では最高の耐衝撃性を持ち機械的強度に優れ、高温低温にも強く、変形しにくく炎天下でも十分対応し、加工時の寸法の安定性も抜群です。もちろんその特長を生かすには、精度の高い精密金型が必要になります。それにバイター独自の「インアウトノック」↑と呼ぶ、差し込み式(インノック)あるいはかぶせるタイプ(アウトノック)の両方を備えたノック形状などは、その製法(金型)の複雑さから考えて、他の単純な割り型の金型とは比較にならないのは一目瞭然でしょう。ということで、ノウハウや機材、金型はもちろんですが、素材費を含めコスト自体も高いというわけです。
 では他社のノックはというと、ほとんどがポリカーボネートではなくアクリルなどの一般的な樹脂です。また金型の精度自体もそれに伴うもので、同様には比較できません。
 そこで、「ポリカーボネート樹脂技術研究会」なる公式の機関に問い合わせてみたところ、、、
 
>プラスチック材の種類の判別は、ナチュラル品(着色、他材料のブレンド、可塑剤等の何ら添加も強化もされれていない)であれば、赤外線スペクトル等を使用すれば比較的簡単に判別できます。
しかし、用途、硬さ、燃焼の様子等見ただけ、触ったりする簡単な方法で見分けることはできません。
 
 との丁寧な回答をいただきました。素人がノックを見てその素材を判別することは不可能なようです。
 そこでついでに、もうひとつ聞いてみました。ポリカーボネートは「透明性」に優れるという特徴も持ち合わせているのですが、バイターを含め「不透明」な色のノックがあります。また経験的に透明より不透明の素材の方が柔らかく感じるかと思います。そこで、ポリカーボネート素材の着色やそれに伴う変化を聞いてみたところ、、、
 
>ポリカーボネートのナチュラル品は、無色透明なプラスチックです。
よって、染料による透明な着色や顔料による不透明な着色が自由にできます。また、ガラス繊維による強化やABS等他のプラスチックとブレンドしたプラスチックアロイ等も作られています。 もちろん着色、強化やアロイも加工技術が必要です。
強度や耐久性等の物性や性能は、着色材の種類や量、ブレンドする材料の種類と量、それに技術により異なります。
                                                                ポリカーボネート樹脂技術研究会
 
 とのことで、バイターの言うとおり不透明な色のポリカーボネートもあるわけですが、物性は少し異なるのかもしれませんが、、、バイターノックの値段の高い理由とノック自体の精度のことが分かったところで、、、、
 
 ノック自体の精度に問題がなかったとしても、シャフトへの取り付け精度が悪ければ高価なノックも曲がったノックと同じです。
 最近のアーチャーは、ノックはシャフトに差し込むもの(インノック)、あるいはかぶせるもの(アウトノック)と思っているでしょうが、このような形になったのはカーボンアローが登場した1980年代最後から90年代に掛けてのことです。
 それまではというとアルミアローの時代にはアルミシャフの片側(ノック側)が、最初から「テーパー」と呼ぶ尖った形状に絞り込んで作ってありました。そこにノックを接着剤で固定して使っていたのです。現在インドア競技や初心者用の矢として使われる、アルミシャフトに「ユニブッシング」というパーツを付けたり、シャフト(チューブ)に直接ノックを差し込むようになったのは、カーボンアローになってから後のごく最近のことです。
 ではその昔、テーパーにノックは簡単に誰でも真っ直ぐに固定できたか、というとそうではありませんでした。真っ直ぐノックを付けるには、細心の注意と経験が必要でした。だからこそこうやってシャフトを回しているのです。また、真っ直ぐに付けたノックでも、使っている途中で曲がってくることもあります。
 ところが近年、シャフトを回す姿を見なくなったのには理由があります。ノックはシャフトに差し込めば、必ず無条件に真っ直ぐ完璧に取り付けられていて、それが永遠に続くと勝手に思っているアーチャーだらけになったからです。確かにテーパーに付けるよりは、誰がやってもほとんど真っ直ぐに付きます。しかし残念ながらすべてが必ず真っ直ぐではありません。それにノックだけではなく「ノックピン」にも注意が必要です。ノックピンはシャフトに直接付けるノック以上に、大きく振って取り付けることができます。曲がったピンの先のノックは、必ず曲がって付いていることも知るべきです。ただし、これらの曲がりの程度は、的面での的中に影響を及ぼさない範囲であったり、アーチャーの技術やレベルによっては誤差の範囲で無視することができることも現実です。
 しかし、「イン」であれ「アウト」であれ「インアウト」「ピン」であっても、真っ直ぐに付けない理由や曲がっていることをチェックしないでいい、ということにはならないはずです。
 ともかくは、どんなノックでも真っ直ぐ付けて、試合では毎回チェックしましょう!

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