耐久テスト

 形あるものは、いつか崩れる。
 それが世の常であり、アーチェリーの世界においても然りです。たとえば昔、Hoyt は「TD1」でハンドル折れ、「Gold Medalist」でハンドルの曲がり、そして最近では「Avalon」でハンドルのクラックを経験しています。ヤマハも「YtslU」でハンドル折れ、「YtslU Carbon」のリムではがれを起こしました。PSEや他のメーカーにおいても同様に、大なり小なりの問題を抱えています。
 しかし、最近では「金属疲労」という言葉が一般化したために、金属は折れないとか大丈夫といった神話を信じる人もいなくなりました。そして「Avalon」のお陰でアルミニュームハンドルも絶対でないことは周知の事実となりました。良かったのか、悪かったのかは別にしてです。
 ところがここで問題となる、あるいは問題としたいのは、それらのクレームが発生した時のメーカーの対応であり、そこに至った経緯です。クレームの処理方法と誠意、そして企業努力と理念。それらにこそアーチェリーに対する情熱と努力、愛情が現れるものです。

 ハンドルも射ち続ければ、いつかは折れます。リムもあれだけ大きな反発を繰り返せば折れない方が不思議なのかもしれません。問題はその限界をどの辺に設定するかです。ハンドルを例にとれば、折れないようにするには太くすれば簡単です。しかしそれでは重くなりすぎます。リムにしても耐久性ばかりを追いかければ、過剰品質となりコストの上昇は避けられません。メーカーとしては値段と品質との折り合いをどこでつけるかが重要な問題となります。
 では、どのような基準で弓は作られるのか? メーカーはどんなテストを行っているのか?
 そこで、世界最高水準の品質を誇る我日本の「ヤマハアーチェリー」を例にとって、メーカーがおこなう「耐久テスト」を見てみることで、予備知識としての弓の寿命や限界を知っておくのも大切なことです。
 ヤマハが対外的に公表している耐久性の基準は、
 
    @ 実射促進耐久テスト
  「弓の強さ:50ポンド基準」  ×  「耐久性:6万射以上」
 
 ここで言う、「耐久性」は弓の強さと強い相関関係にあるので、ヤマハが実際に製造・販売しているリムの「最上位のポンド数の耐久性」を基準において公表しています。それが50ポンドという訳です。
 では、50ポンドの弓を誰が射つのか。普通のアーチャーが一年間で射つ矢の数は2万本を超えれば、それは結構練習している方でしょう。週に4日以上、一日100数十本を射つと2万射を超えます。とはいえ、実射耐久テストを人間が行うのでは何年かかるか分かりません。そこで登場するのがシューティングマシン、それも耐久テスト用のマシンです。
 これを使って「26インチ引き / 40%相当の衝撃負荷空射ち」を一本のテストサンプルに対して6万回繰り返されます。
 ここで言う「衝撃負荷」とは、単純なドローイングの繰返しの静的応力負荷の反復だけでなく、実際のシューティングで弓に作用する衝撃力と同等以上の衝撃力(ショック)を与えるテスト方法を指し、「40%相当」のレベルとは、空射ちのショックと実際のシュートでのショックとの中間レベルの強い衝撃力と考えればよく、分かり易く言えば矢をつがえずに26インチを引っ張ったところから弦を放す(空射ち)動作をハンドルを固定した状態で行うのです。
 
    A 熱衝撃(熱冷クリープ)テスト
  「(−20℃/16時間 + 50℃/8時間)× 10サイクル」
  (28インチ引き/連続フルドロー状態保持)
 
 この「熱冷クリープ」は零下20度の冷凍庫と50度の乾燥炉を往復するものですが、単にストリングを張った弓というだけではなく、グリップとストリングの間につっかえ棒のようなものを入れて、28インチを引っ張った状態の形でこれらの過酷な条件に置くものです。
 
    B 耐乾・耐湿(乾湿クリープ)テスト
 
    C 耐候(耐紫外線・耐雨)テスト
 
 上記 @ A のテストは開発段階での仕様決定の重要な評価基準であり、実際にはこの2つのテストを組合わせた一連の「複合促進耐久テスト」として評価します。また、並行してそれぞれ個別テストでの評価も行われます。
 上記 B C のテストは、新素材・新製法の開発や新規の樹脂・塗料・接着剤等の使用に対する評価基準として、主に化学的な特性変化のチェックのために行う耐久テスト基準です。
 
    複合促進耐久テストの実施例
熱冷/3サイクル →  実射/2万射 → 熱冷/3サイクル →  実射/2万射 → 熱冷/4サイクル → 実射/2万射   
 
 開発段階では、「実射促進耐久テスト」を主体に、試作品/サンプル商品等が折損/破壊するまで徹底的に行う「極限耐久性テスト」を実施します。どの部分が、どれだけの使用数(射数)で、どのような「壊れ方」をするのかを徹底的に調べてデータを積上げ、この膨大なデータを基に、個々の商品について限界強度/限界寿命を高めるハウツーを設計に生かしています。
 一方、生産段階における「製品の定常的な品質管理基準」として、定期的に工程からサンプルを抜き取り、同様の耐久テストを実施します。
 
 以上、上記 @ A B C の耐久テストは、それぞれの商品が「定められた基準を満たしているか」を評価する「耐久性評価テスト」として実施されます。

 お分かりいただけるでしょうか。世界最高水準の品質は、地道なテストの積み重ねで保証されているのです。
 Avalon のクレームのような重大な問題も、本来は動的状態でのテストなり検査が確実に行われていたなら、単純な応力集中の問題として事前に発見できたはずです。また、実際にそれらのノウハウが蓄積されていたなら、もっと迅速な対応も可能だったはずです。ある意味、それこそがNC旋盤によるハンドル製作の最大のメリットでもあるのですから。

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