リムのネジレ

 一般的に「ネジレ」と呼ばれる現象は、リムの特に先端(チップからリカーブにかけて)付近が曲がっている結果として、張られたストリングが弦溝と呼ばれるリムの真ん中(幅方向に対して)に彫られた窪みから外れてしまう傾向にあるものを言います。多くのアーチャーはこれが「ネジレ」のすべてのように捉えています。たしかに多くの場合それは正しく、もっとも気付きやすいトラブルです。もし引き戻したストリングが弦溝から外れるようでは危険であり、そこまでいけばすぐに購入したショップなりに相談する必要があります。
 しかし考えてみれば弦溝自体が、このようなリムのネジレを出さないために本来あるものです。例えばヤマハの「パワーリカーブ」と呼ばれる最新のリム構造などは、この弦溝を他のリムではできないくらいに深くすることで、発射時のリムの返りの方向性を高めると同時に、実は何よりもリムのネジレを抑えようとするものです。ですから、普通のリムであっても、「弦溝に入っているからネジレていない」とは限りません。そのようなリムは長く使っていると弦溝の片側にキズが付いてきたり、あるいはストリングハイトを高めで使用するとストリングが弦溝から浮いているために簡単にネジレてしまったりします。(逆に言えば、ストリングハイトが低い弓はネジレ難い状態とも言えます。) しかし、この種のネジレはリムを逆にひねり返したり、熱を加えることで直すこともできます。

 ではリムの「ネジレ」はこれだけでしょうか。
 「センターズレ」と言う状態があります。「センターズレ」は「ネジレ」と複合的に起こる場合もありますが、最近では単独でこの問題を抱えるリムをよく見掛けるようになりました。「センターズレ」とは「ネジレ」が片側のリム単独で起こる(上下ともネジレている場合もありますが)のに対して、「センターズレ」は上下のリムとハンドルすべてを含んだ弓全体に対して現れる状態です。(原因はハンドルにあったり、片側のリムが影響している場合もあります。)
 

 

 

 

 例えば、この写真のリムのように片側のリム(この場合は下リム)に対してはストリングがセンターを通っても、逆側がセンターを通らずに弓全体のセンターがずれてしまう状態を言います。上下のリムともにまったく「ネジレ」がないのに、なぜかハンドルのセンター(上下にあるネジの位置などで合わすとよいでしょう。)をストリングが通らない、というような現象もあります。
 これらは多くの場合、リムとハンドルの接合部分の精度に問題があります。そのため、アーチャーが自分で修正するのは簡単ではありません。これこそメーカーに修理を頼むしかないのですが、最近ではヤマハがこれを修正できる機能としてリムの差し込み部分のセンター出しのピンに、「ロケーター」と呼ばれる部品を組み込んでいます。これは非常に便利で有効な機構ですが、これを取り付けることで元々のリムの精度を落さないことを期待します。
 では、他メーカーのリムはというと、このヤマハのロケーターでいろいろテストすると分かるのですが、リムとハンドルの接点とは当然のことですが非常に高い精度を要求される部分です。昔、ワンピースボウの頃にはほとんど問題にならなかったものが、現在のようにテイクダウンボウになってからは、接合の方法と品質管理において少なからず問題を抱えたリムができてしまいました。
 まれな例ですが、ハンドル自体にネジレ(曲がり)があり「センターズレ」などの問題が発生することがあります。これは基本設計の段階での設計ミスもありますが、製造段階での品質管理や技術的レベルでの発生もあります。例えば、NC旋盤で削り出すハンドルであればデータ自体に問題がなければハンドル自体は良いのですが、センター出しのピンや後付けカップを取り付けるネジ孔を開ける時に誤差が生じる場合があります。また、金型や砂型を使ったダイキャスト製法ではそれ以外の問題も発生します。型から取り出したハンドル素材が温度が下がり完全に硬化する段階で、「引け」と呼ばれる縮みのような現象を起こすことです。この時、ハンドル形状が左右対称形であればそれほど問題はないのですが、実際にはウインドウ部分に切れ込みがあり非対称形のために片側に反った(曲った)状態で固まってしまいます。そうするとハンドルの上下のセンター位置がズレてしまい、結果的にはリムの「センターズレ」を起こしてしまいます。ただし、この問題はメーカーも承知済みであり、最初から「引け」を予測した金型の図面を設計しておいたり、出来上がったハンドルを測定して修正するなどの対応策をとっています。
 これらはすべてリムのトラブルとしてアーチヤーには認識されがちです。たしかにセンターズレはまれに、上下双方のリムにネジレがあることで起こることもあります。しかし多くの場合その原因は、すべてハンドル側にあるということです。
 もうひとつ、「ツイスト」という状態があります。これは「ネジレ」や「センターズレ」が確認できないリムであっても、起こることがあります。アーチャーが確認する簡単な方法は、ストリングを張った弓の上下の弦溝付近にシャフト(矢)をストリングに対して直角に挟み込みます。
 
 そして写真のように、上下に挟んだシャフトが平行かを見ます。基本的には「ネジレ」と同じことなのですが、リムの曲がりというより捻れた状態です。

 このようにリムのネジレと一言で言っても、「ネジレ」「センターズレ」「ツイスト」と状況はさまざまです。では、最後にメーカーを弁護するのでも、ショップに迷惑を掛けないためでもありませんが、ひとつ付け加えるなら、「これらのネジレがすべて悪いことなのでしょうか?」。
 たしかに悪いことです。もし、使用中にストリングがリムから外れるような事態が起こりうるなら、それは「安全」面から考えて決して容認できるようなことではありません。しかし、このような事態はリム自体の問題だけではなく、アーチャーのリムの扱い方や弓の射ち方によっても充分起こりうることです。また、センターズレなどは、アーチャーがチューニングする際にその基準を見失うという現実的な問題も抱えています。
 しかし、的中精度の面から言うなら、例えば上下リムの強さ(ティラーハイト)は下リムを意識的に強く作ってあるように完璧なバランスはアーチャーの誤差(ミス)をそのまま反映してしまうということがあります。下リムが強い弓は、射ち方にかかわらず必ずリムは下から返っていくように、多少のネジレは必ず同一方向からリムを返すという特徴を兼ね備えていることも事実です。
 ともかくはこの程度の予備知識くらいはもって、もう一度自分の弓を見てみるのも良いでしょう。そして、次に弓を買う時にはじっくりメーカーと現物を確認してください。決して安くない買い物ですから。

 これはトップを目指そうというアーチャーの最低限の知識としてお話しすることで、これらのことが即 クレームの対象や粗悪な品質を示すものでは決してありません。アーチャーならこの程度の知識は身に付けたうえで、自己防衛程度の対処はするに越したことはないということです。また、それによって良いものが何であるかも、見えてくるはずです。
 

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