ユニバーサルモデルのことで独り言

 これを初めて見た時、最初に頭に浮かんだ言葉が、「うんざり」でした。
 アーチェリーの世界は最近うんざりすることがいっぱいあるのですが、ここ何年かずっとHoytは「うんざり」し続けていました。もぅたいがいだぜ、いいかげんにしろやっ、て感じです。何に対してか。それはもちろん韓国のメーカーに対してです。
 昔、もう30年も前でしょうか、ヤマハの川上源一さんが韓国製のピアノが日本に進出しだしたことに激怒し、駆逐を命じたことを覚えています。その時は何もわかりませんでしたが、その後の状況は楽器に限らず、自動車、家電製品、スポーツ用品、そしてアーチェリーと皆さんの方がよくご存知でしょう。技術力のなさはともかく、その節操のなさは目に余ります。アーチェリーの世界だけを見ていると、決してそうは映らないかもしれませんが。
 その原因のひとつは、弓本体でいうなら現在主流となった「ユニバーサルモデル」と呼ばれる接合方式にあります。この方式を、ヤマハを追撃していたHoytが戦略的に「オープンパテント」としたことに始まります。
 もともとヤマハもHoytも独自のパテント(特許)を持ち、それぞれが互換性のないモデルで勝負をしていました。最初、Hoytは独自のテイクダウンハンドルの基準を「24インチ」としました。1972年、Hoyt T/D1で世界制覇を成し遂げた時からです。しかし1975年、ヤマハはYtslでHoytに肉薄し、1978年YtslUでついに、そしてやっと憧れのライバルに追いつくのです。その技術的な理由はいくつもあるのですが、大きな理由のひとつが「26インチ」ハンドルを作ったことです。例えば68インチの弓を例に取れば、Hoytは24インチハンドルにロングリムを組み合わせて設計を行なっていました。それに対してヤマハはHoytにはない26インチのロングハンドルにショートリムを組み合わせる仕様を基準としたのです。(66インチにおいては、どちらも24インチハンドルを基準に置いています。)理由は外国選手に対して体格の劣る、リーチの短い日本選手に適した弓作りでした。ドローレングスが短くても、ハンドルが長くリムが短いことで、十分なリムのたわみ量が得られスピードと共により高性能な弓ができるとの発想からでした。このことは重いアルミアローを飛ばす時代においては、すべての選手のアドバンテージとなりました。その結果、1982年ヤマハはEXでHoytを完全に抜き去ります。
 そこで巻き返しを計って、焦ってHoytが投入したのがGMでした。外観はEXのパクリ(コピー)と言われても仕方がないモデルです。しかしこの時、現在のユニバーサルモデルの原型となる「25インチ」のハンドルと独自の新しい接合方式を投入しました。ヤマハのロングハンドル(26インチ)と、もともとのHoytの基準となるショートハンドル(24インチ)の中間の25インチを出すことで、66インチの矢速を稼ぎ、1サイズのハンドルですべての弓の長さをカバーしました。このことは性能以上に当時のダイキャスト製法のメーカーにおいては、コスト削減には絶大な成果がありました。そしてこの段階で特許の申請はなされていたのですが、これをマイナーチェンジしたRadianから特許はなくなっています。そのためこの方式はすべてのメーカーに採用され、「ユニバーサルモデル」となります。と言えばカッコいいのですが、実際には弓を作ったこともない連中たちがこれに群がったのです。だからこそ、異なるメーカーのハンドルとリムが組み合わされるという異常な事態がアーチェリーの世界では日常化しています。多分この時点で、ここまで韓国メーカーがヤマハより優位に進出するとは予想していなかったのと同時に、複数メーカーによるヤマハ包囲網をHoytは企んだのでしょう。
 しかしその結果、ヤマハがアーチェリーから撤退に追い込まれることまでは想定外だったのです。2002年のヤマハ撤退により、皮肉なことに「世界標準」が崩れだします。最低限守らなければならないラインが、どんどん下がりだします。なんでもありの世界(業界)へと突入していくのです。Hoytが出す最新モデルを模造紙の上に置いて、それをなぞって線を引いて設計図にしたとしか思えないようなモデルや、66インチとは書いてあっても実際には短くなっているリム、ストリングハイトを低くすることで矢速を稼いでいるモデル等など、なんでもありです。それもテストもせずに、いきなり最高級モデルとして高額で販売され、翌年にはなくなったモデルがどれだけあることでしょうか。少なくともHoytおじさんの冠を掲げるメーカーのプライドとして、うんざりしていたのは分かるはずです。
 そこで今回の新接合方式の投入は、Hoytにとっての1982年以来の満を持しての賭けです。これでやっと、世界選手権でもオリンピックでも、HoytのハンドルにはHoytのリムが、HoytのリムにはHoytのハンドルが付き、チャンピオンはそれを高らかに持ち上げ、他社製品のロゴを気にすることなく広告に写真が使えるようになるのです。
 しかし現実には、100%のシェアを占める今のユニバーサルモデルに、いくらHoytの最上級モデルといっても簡単に市場が移行するとは考えていません。それが証拠に、日本の輸入代理店がどんな希望小売価格を設定するかは知りませんが、すでに出ている海外の販売価格は予想通り(個人的には予想通りですが、多くの方には予想に反してでしょう。)現行最上級モデルとそんなに変わらない価格です。もちろん卸価格がそうであるからです。高すぎればユーザーが移行しないとの戦略的価格設定です。それでいてもちろん、現行の上位モデルは残しています。なかなかの作戦です。
 そして価格以上に重要なのは、性能です。性能が飛躍的に向上するなら、高いお金を払っても許されるのかもしれませんが、、、リム付け根の支点間距離を伸ばすことは、リム全体のしなりとしての性能向上には有効です。しかし、全体長さが同じである場合は、ハンドルを短くするか、リムを短くするかしなければなりません。なかなか設計上微妙な問題です。もし新たな性能を付加するなら、基本設計も構造も角度もそして金型も変更するべきです。そのうえで新たなスペックを展開できるし、今のHoytならできます。
 にもかかわらず、これも作戦なのでしょうか。実際には支点間距離を伸ばして現行品との互換性を排除しただけで、接合方式自体には何らパテントらしいものが付加されていません。デザイナーには面白い仕事でも、設計者にとっては大いに不満が残るモデルチェンジのはずです。なんら現行品と変っていないのですから。それにもしこれで行くなら、独占のための手法が他にもあったはずなのにしていません。
 ということで、遠くない将来また、Hoytの「うんざり」が始まることでしょう。もうすでに韓国では模造紙の上に乗っているのですから。。。
 
 ところで「フォーミュラRX」は、今はなき日本のニシザワアーチェリーが商標登録していた名機の名前です。Hoytも何でもありですかぁ。もぅたいがいだぜ、いいかげんにしろやっ。うんざりだぜ。

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