その前に矢の話です。EASTONの最上級競技アローに「X10」と「ACE」という製品があります。スパイン(硬さ)のサイズ的には異なりますが、例えば「X10-500」と「ACE-520」のように同等のスパインサイズを射ち比べた時、的中はともかくとしてサイト位置はどうでしょうか? これは全員といっていいでしょうが、「X10」の方がサイトは大きく下がります。「ACE」より矢速は落ち、弾道は高く、飛ばないということです。 |
ところがほとんどのアーチャーが最初にカーボンアローに求める性能とは、結果としての的中はあっても、その前には矢速です。速く、低く飛ぶ性能であり、それを実感するひとつの目安がサイト位置です。 |
この目安は、素人にもわかる判断基準(すいません、言葉が適切ではないかもしれませんが「素人をもっとも騙しやすい」と置き換えられるかもしれませんが)として、しばしば弓の性能を語る時にも使われます。ところが、矢において「X10」は、あえて「ACE」より細く、そして重く作られています。その理由は「断面荷重」の増大という、投影面積あたりの重量を重くすることで風に打ち勝つ力を増そうという、スピード以外の性能を付加する理由からの仕様です。(だからといって、「X10」が「ACE」より上位であり、優れる、あるいは的中精度が高いとは決して思いません。結果としての的中精度は、個々のアーチャーの使用条件や求めるものにより異なります。「ACE」を使うアーチャーが、高いお金を払って「X10」に替えた時、サイトが下がることは断言できても、点数が上がることは約束できません。「X10」も「ACE」も他のアローも、それらは単に選択肢のひとつにしかすぎません。このことは非常に重要です。) |
それでも矢はスピードだ、というのであれば、軽い矢を選ぶしかないでしょう。運動エネルギーは「m×v」で効いてきますが、エネルギーの元になる弓が同じなのですから、軽い矢を使うしか方法がありません。しかし、お分かりのように実際の的中のためには、「断面荷重」以外にも、ポイントの重さに代表される「重心位置」や矢に回転を与え、蛇行運動を収束させるための「ハネの形状や大きさ」がより重要な要素となります。 |
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そこで弓の話です。昔、今とは比べもにならないほど重いアルミアローの時代には、いかに矢を速く飛ばすかの方法として、弓が矢に伝えるエネルギーを増やすことが必須でした。メーカーの努力もノウハウもその一点に尽きました。ただし、大前提は同じ強さの弓でです。35ポンドの弓を40ポンドに替えるのではなく、35ポンドなら、同じ35ポンドでいかに矢を速く飛ばすかです。この時、お分かりだとは思いますが、35ポンドのエネルギーがそのまま矢に伝わっているのではありません。 |
同じ弓を使っても、初心者と上級者では矢の勢いが違います。リリースが取られる取られないは当然ですが、リリースの技術やスピードでも矢に伝わるエネルギーが変わってきます。これと同じことが弓の中でも起こっています。これを「弓のエネルギー効率」と呼びます。通常は弓のエネルギーの60〜70%程度しか矢に伝えることはできません。100%は最初から不可能ですが、いかにこのエネルギー効率を高めるかが課題です。 |
その時、ついつい素人は逆にそれを妨げる要因がなにかを考えます。そしてリムの重さや形状といったものが重要であるかのような錯覚にとらわれます。では冷静に考えて、雨の試合でリムに付いた水滴が矢をダウンさせましたか。タブが滑らず、リリースが取られてダウンすることはあっても、そんな些細な重さでエネルギー効率が大きく落ちることはありません。リムセーバーの重さでも、目に見えて的中位置は変わらないはずです。それにリムの重さのほとんどは、ほとんど動くことのない根元部分に集中しています。 |
では形状ですか。矢のスピードでも音速にははるかに及びません。新幹線程度です。ではリムがどれだけ移動するというのでしょう。チップの形状や大きさ、リムの断面形状、リム幅が空気抵抗に及ぼす影響など、ないに等しいのです。 |
そうなのです。玄人は子供騙しでない、矢速を向上させる方法くらいは知っています。しかし、同時に矢速だけが弓の性能でないこと、単純な矢速やエネルギー効率アップが的中精度向上につながらないことも、充分に分かっているのです。特にカーボンアローの時代になって、どんな低ポンドでも、どんなリリースでも矢が70mを飛ぶようになってからは、その重要性をそれまで以上に認識しているはずです。 |
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ヤマハがアーチェリーから完全撤退した2002年時点で、韓国メーカーの持つ技術やノウハウはヤマハやニシザワといった日本メーカーのそれから20年以上は遅れていたと断言します。(ヤマハは1959年から弓を作っています。) そして現在、少しは良くなったかと思っていたのですが、近年の子供騙しを繰り返し見せられると、日本のアーチャーが2002年から上得意様として試作品のテストにつぎ込んだお金は何だったのだろうと、考えさせられてしまう今日この頃です。。。これは近年、あのアメリカ製品においても見受けられる現実です。 |
(「ちょっとちょっと」に続く) |