個人的な「感じ」−弓を見極めること

 個人的な「感じ」は時として「直感」の時もあります。そして意外とこの直感は当たっていることが多いものです。特に逆の直感。「これなんか変?!」とか「これおかしいんじゃない?!」の類は、結構的中するものです。「すごい!」「これいいわ!」は結構外れるので、広告や宣伝には注意しましょう。
 それはともかくとして、最近見なくなりました。例えばあなたがニトリでもイケヤでもいいのですが、家具屋さんに椅子を買いに行ったとします。買う前に当たり前ですが、いろいろ椅子に座ってどれを買うか選ぶはずです。最近はベッドでも靴を履いたままで、自由に寝っころがれるようになっています。椅子でもベッドでも、自分に適しているかを見極める必要があり、寸法やデザイン、カタログの宣伝だけを見て買うのは無謀です。
 同じように昔は、弓を弓屋さんに買いに行けばいろいろと触りまくったように思います。ところが最近はそんなこともせずに無謀な買い物、あるいは売りつけられる光景を何となく想像してしまいます。
 では弓の場合、どんな具合に寝っころがればいいいのか。この時に「実射」がもっとも重要と考えるアーチャーもいるでしょう。しかし、実射はあくまで「発射の感じ」の部分であり、ここでいう製品の「作り」や品質の「見極め」とは分けて考える方がいいでしょう。
 ではどうやって弓(ここではリム)を見極めるのか。まずはストリングを張って引いてみましょう。この時、試すリムは自分が普段使っている強さと同じくらいがもちろん望ましいのですが、あまり強いポンドのリムは避けましょう。これは後でも話しますが、リムはある程度以上の強さ(表示で40数ポンドを越える)になると、おのずと剛性が高まり本来の性質を隠してしまいます。見極めが難しくなるのです。しかし意外かもしれませんが、メーカーにとっては低ポンドより高ポンドのリムの方が、助かるのです。なぜなら、高ポンドの方がカーボンや芯材を多く使うために、ねじれなどのクレームが発生しにくくなります。それに高ポンドリムは性能とは無関係に、強さで矢が飛んでくれるためにユーザーを騙しやすく(?)もなるのです。また、練習用などの低ポンドリムは、耐久性や丈夫さ重視で作るのですが、競技用は性能としてのスピードを求められます。そのため、競技用に低ポンドリムがないのは、需要がないこともあるのですが、それ以上に素材の構成として物理的に作れないという現実もあります。
 話を戻して、見極めの方法です。まずはアンカーリング。何度かストリングハイト位置からアンカー位置までドローイングを繰り返してみましょう。次にアンカー付近でオーバードロー気味に弓をシゴクように、これも何度か繰り返します。最後はストリングハイト位置からオーバードローで引ける所まで、ゆっくりと何度か引いては戻してください。
 これで何が分かるかは、すいません。経験則の世界です。こんなことを何度も繰り返していると、全体のスムーズさや硬さの違い、立ち上がりのきつさや奥の硬さなどの違いと良さが感じられるようになってきます。
 
 次に「ねじれ剛性」をみてみましょう。簡単です。リムの先端部分をストリングがチップから外れないように握って、リカーブ付近を左右にひねっては戻します。ここで注意しなければならないことは、ねじれ剛性は高ければ(硬ければ)高い方がいいような宣伝をするメーカーやショップが多いことです。この部分の性能は実射にも反映されますが、もっとも大切なのは「適度なしなり」です。リカーブ部分はボール投げでいえば、手首のスナップであり、腕全体のしなりです。
 ガチガチの腕の振りでは、ボールにスピードが乗らないばかりか、コントロールが利きません。ある程度の剛性があれば、リムがねじれたり曲がってくるようなことはありません。硬ければいいというものではないのです。それに高ポンドリム同様に、ねじれ剛性を高めることはどんなメーカーでも簡単にできるのです。この部分にしなりと安定感を持たせることこそが、メーカーのノウハウであり実力です。ではどんな硬さがいいのか。すいません、これも経験則です。
 最後にリムの「腰の強さ」をみてみましょう。下のチップを足の上に乗せて、リム全体を上下に何度かたわませます。この時注意するのは、前のねじれ剛性もそうなのですがストリングハイトが高すぎると(あるいはリムが起き過ぎていると)リムの基本性能(性質)とは別に、腰がないカクカクした状態になることです。逆にいえば、そのようになるなら実際の使用においても、ストリングハイトをもっと下げて使わなければなりません。また最近の一部のリムは、この段階で気付きますが、ストリングハイトが高くできないような設計になっているものもあります。メーカーやショップにすれば、ストリングハイトを低くすることでねじれや曲がりのリスクを小さくできます。そして何よりも、矢速をアップさせるもっとも簡単な方法なのです。では、どれぐらいの硬さが、、、すいません、これも経験則の世界です。ただし、最近のリムは腰が「強い」というより「硬い」と言った方が良いと思いますが、ねじれ剛性同様に無駄に硬くなる傾向があります。その判断はお任せしますが、個人的には好きな感じではありません。
 最後にオマケです。スタビライザーを付けないベアボウの状態で、親指でストリングを弾いたり、足をテコにリムを跳ねてみてください。先の腰の有無を含め、リムの納まり具合がわかります。振動が一発で消える必要はありませんが、振動が残るなら徐々に自然に消えることを確認しましょう。
 これだけ寝っころがり方を覚えれば、経験則は後で身についてきます。まずはショップへ行って、ゴチャゴチャ言う前に、だまってこれらの方法をポーズを含め実践します。すると、店員さんの態度と物言いが少しは変わるはずです。リムの良し悪しの前に、店員さんの良し悪しが分かるようにもなります。その方が大事でしょう。
 もうひとつ大事なことを忘れていました。「見る」ことです。ショップでなくても、練習場や試合場で人が射っている弓を見ていると分かってきます。宣伝やリム表面のデザイン、チップの形状などに騙されてはいけません。弓全体、ハンドルからリムへの流れ。そこにつながるリム全体の形状、「カーブ」をよく見るのです。ストリングを張った引っ張っていない状態と、引いているフルドロー時の状態のカーブを見ます。ここでもっとも重要なことは、自然な「美しさ」です。直感です。本当にいいリムは、本当に美しいカーブを見せてくれます。ドローイング中にも部分的に不自然さを出さず、美しくしなっていきます。変なものはヘンです。直感と感性と経験です。これが見えるようになってくると、個々のモデルだけでなく、メーカーによって特徴があることや国によって弓作りのコンセプトが違うことなども見え出します。
 そんな直感で興味がわいて一度引かせてもらったリムがありました。その時、ちょっと本気で射ってみたいと感じたリムです。ただし、そのリム表面が茶色のデザインだったので、試合で使うまでの気はなく躊躇していたのですが、白塗りで作れるとの話。そこで知り合いに頼んで、特別に作ってもらうことにしました。 (続く)

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