ハンドルの作り方 その1 (NCについて)

 最近ハンドルの製造方法を言う時に、「NC」(エヌシー)という言葉をよく耳にするようになりました。一昔前(1980年代)までは、ハンドルの製法というと「ダイキャスト製法」と呼ばれる金型かあるいは砂型と呼ばれる砂で作った型の中に解けた金属(この場合ほとんどがマグネシューム合金が使われます)を流し込んで固めたものが一般的(すべて)でした。ちなみにアーチェリーの世界に金属のハンドルが登場したのは1972年のテイクダウンボウによるオリンピック制覇と同時でした。それまでは木製ワンピースボウが主流であり、テイクダウンらしき弓もハンドルは木製やアルミニュームで出来ていました。
 現在でも金型や砂型で作るハンドルはあるのですが、残念なことに流れはNCへと大きく変化をしています。では、このNCとはどんな技術なのかですが、これはNC旋盤やNC加工全般を指す言葉です。そこで「NC工作機械」を辞書のイミダスでひいてみると、
 
  [numerically controlled machine tool]
 数値制御工作機械のこと。NCマシンともいう。従来の手で操作する工作機械に対して、数値情報(coded data)で操作される工作機械のことをいう。
 工作機械のNC化は、1960年代に日本が世界に先駆けて開始し、その成功で、その後の世界のNC工作機械市場の大部分を制覇した。機械装置のNC化には、それに適したアクチュエーターとセンサー、ならびに制御装置の開発が必要である。その後、マイクロプロセッサ、マイクロコンピュータが制御部分の主要部として取り入れられると、高精度加工の大衆化と非熟練化が促進され、生産技術に大革命をもたらした。また、その技術は初期の産業用ロボットやその他のメカトロニクス機器に応用されるとともに、生産技術全般の高度化をもたらし、70年代から80年代の日本の産業躍進の原動力となった。
 最近注目される技術としては、曲面加工の際に、従来では階段状に駆動していたのを、なめらかな曲線で駆動する技術が開発されたことがあり、広範な応用が期待されている。
 
 という説明が出てきます。そこでもうひとつ新しい言葉をひいてみると、
 
  「マシニング・センター」 [machining center]
 加工物の穴あけ、ねじ立て、面取り、中ぐり等の複数の加工が可能なNC工作機械のこと。MCと省略される。
 複数の加工は、NC工作機械の側面や背面に多種類の工具をストックし、必要に応じて選択して自動的に工作機械にセットできることによって可能となっている。この装置を工具自動交換装置という。このMCはわが国で開発された工作機械である。
 というように、近年アーチェリーの世界に登場したアルミニューム素材の穴明きハンドルは、最新の日本の技術から生まれたものなのです。とは言っても、お分かりのようにアーチェリー技術あるいは弓具発展の延長で出来たものではなく、このような工作機械が発明された結果、逆にそれまで主流であり完成の域に達しようとしていたマグネシュームの鋳造ハンドルを押しのけて出てきたものです。必要は発明の母、とは言えアーチャーの必要から出たというより、メーカーの必要から生まれたものなのです。
 それまでのマグネシュームを溶かして金型や砂型に流し込んで固める鋳造方法は金型や生産設備に多額の費用が掛かります。しかし、均一で安定したものを量産するにはもっとも適した方法です。また、マグネシュームの方がアルミニュームより重さや耐久、振動吸収などの面で優れています。数さえ出れば(たくさん売れれば)、数千万円の機械で一本数時間の時間を掛けて作るNCが登場する余地はなかったのです。あれほどハンドルの軽量化に努力していたのに、最近のハンドル重量ひとつをとっても明白です。
 ではどうしてここまでNCが主流になったのか。その理由はNCがコンパウンドボウの世界から登場したことを知れば理解できます。日本でアーチェリーはマイナーな競技ですが、アメリカでは釣りや狩猟と並ぶメジャーなスポーツです。しかし、その実態は100%近くがハンティングであり、その中のまた100%近くがコンパウンドなのです。リカーブボウで紙に描いた丸い輪を射つなどという連中は変人同様でしょう。アメリカでのアーチェリー人口は何100万人と言われますが、我々のような競技をする連中の組織であるNAAの登録人数は6000人程度です。ジャスティン・ヒューイッシュもジェイ・バーズもダレル・ペイスもこの中から出てきたのです。日本におけるNAAと同様の組織は全日本アーチェリー連盟であり、登録人数は12000名程度あります。この数字を見ればアメリカのメーカーにとっての商売の対象はコンパウンドであり、リカーブボウ(X10やACEもそうなのですが)はアメリカでは商売にはならないのが分かるはずです。逆に言えば、リカーブの世界では日本と韓国こそが上得意様なのです。ヨーロッパ全土を合せても日本、韓国には及ばないでしょう。
 そんな背景の中で我々のリカーブ、それもターゲットアーチェリーの世界は存在しているのです。日本で年間何本くらいのリカーブボウのハンドルが消費されていると思いますか? 回りを見渡せばだいたいの見当はつくでしょうが、例えば関東あるいは関西の学連個人戦の参加者数を考えれば分かり易いでしょう。多分関東でも500名足らずでしょうか。これは1年生から3年生までの男女の総数です。これを3で割って、全国に置き換えて社会人や高校生を含めても大した数ではありません。結局一年で日本中で何100本という数程度なのです(これからしても商売にならないのは明白ですが・・・)。1970年代から80年代前半にかけてのブームの頃は1000を越える数でした。しかし今は当時の半分でしょうか。そうなるといくら性能を追いかけて、量産に向くダイキャスト製法といっても、数千万円の金型代を投資するほど企業も愚かではありません。そこで必然的に最新の技術(アーチェリーのためではなく、製法としての)であるNCが出てきたのです。ここでもうひとつ重要な背景は、ここで言っている数字は世界のハンドルの1/10以下の数なのですが、それを支えるコンパウンドのハンドルを考えてみてください。技術革新が日進月歩であり、多種多用なハンドルが毎年登場しています。これに対応するにはなおさらNCが有利だったのです。NCは手作りのように、入力するデータを修正さえすれば一本一本違った形のハンドルを作ることも簡単にできるのです。それにコンパウンドの世界はハンドル重量をまったくといってよいほどに気にすることが不要です。
 なぜFITA(世界のリカーブのアーチェリー連盟)が半世紀にわたって参加を拒んできたコンパウンドボウとの融合(?)を決断したのか。それにはリカーブだけでの限界を感じていたにほかなりません。世界で100カ国を超える国での連盟化を維持するにはコンパウンドの力は不可欠だったのです。もう昔のようにリカーブボウの世界が単独で成り立っているという考えは通用しません。特に製品の分野においては、悪く言えばコンパウンドのオマケとしてリカーブが存在するのかもしれません。だからこそ平気で重さを気にしないNCハンドルをリカーブの世界に投入したり、耐久性が不足すればフロッピーディスクのデータを安易に修正し、形状の異なるハンドルが平気で登場してくる、そして折れたり曲がったりすればまたまたマイナーチェンジする・・・・。この点を見誤ると大きな間違いを犯してしまいます。世界の弓や矢のメーカーにとってその会社がリカーブとコンパウンドを作っているのであれば、リカーブは本気ではないのです。あくまでもコンパウンドの数パーセントにしか満たない・・・やっぱりオマケでしかないのです。

 NCは最新の素晴らしい技術です。しかし、リカーブの競技にテイクダウンボウが登場した1972年以来培ってきたノウハウ、そして目指してきた理想とは多分異なる方向に存在するものでしょう。たしかに鍛造やTPといった、他の技術やリカーブ用に開発された技術を併せることでコンパウンド用ではないリカーブ向きのハンドルを作り出すことはできます。それはそれで素晴らしいことです。
 しかし、何がリカーブのターゲットアーチェリーにとっての理想なのかを、ちょっと考えてみてはどうでしょうか? 最近なぜかハンドルの重量化が言われ、それがあたかもアーチェリーの技術に対する正論のように語られています。しかし、もしNCそしてアルミニューム素材に強度と耐久性に問題があるとすれば、メーカーは必然的に形状を大きくするしかないのです。その結果重量は増大します。この点を良識あるアーチャーには見誤らないでほしいものです。

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