ハンドルの折損

 最近はお陰さまでこのホームページもそれなりにメジャーになったためか、個人的には嫌がらせや不愉快なメイルをいただくことはあっても、掲示板が荒されることはなくなりました。そんな掲示板荒らしで数年前「ハンドルの折損」について賑わったことがありました。覚えておられる方もいらっしゃるでしょうが、あえて「荒らし」と書いたのは、あの時の匿名の本人が実は某アーチェリーショップの方であったという事実からです。で、そのような店だからか、そのショップもなくなってしまいました。それにそろそろ時効かとも思い、書かせてもらいます。
 実はこの写真、先日(2002年5月12日)世界学生最終選考会で実際に選手が使っていた弓を写したものです。以前話題になったハンドルの改良タイプです。にもかかわらず、折損の危険が指摘されていた同じ部位に裏側に及ぶまでにクラックが発生しているのです。ここまでくると、折れるのは時間の問題です。
 
 まずご理解いただきたいのは、どんなモノでも形あるモノはいつかは崩れます。金属でできているモノでも、いつかは折れるのです。永遠、永久はありません。ただしそれがいつ、どんな形でかは重要です。女性が使うような弱いポンド数で、短いリーチでなら半永久的にもつかもしれません。しかし同じハンドルであっても、50ポンドを超える状況なら4万射で折れるかもしれません。この4万射を2年で消化するアーチャーもいれば、10年経っても満たないアーチャーもいるでしょう。折れた時に、納得か我慢か諦めか激怒か満足かの感情を含め、状況は千差万別です。払った金額や使い方や性能、点数なども影響するでしょう。
 そこで今回は感情や折損に至るまでの期間は無視します。どんな状態で折れるのか、これが問題です。「折損(折れ)」は使用不能を意味するから問題なのではありません。折損の前兆としての曲がりやネジレもあります。しかしそれは使えるからいいというものではありません。ストリングが張れても使用に耐えないハンドルは値段にかかわらず山ほどあるからです。では何を問題視しているのか? 例えばこの写真のハンドルを選手が使い続ければ、大怪我をする可能性が非常に高いのです。
 これまでにもこのモデル以外に、折れるハンドルやリムは多くありました。しかしこのようにグリップより上部で折損する場合は、グリップの中や下部とは比べ物にならないくらいに危険度が増します。折れたハンドルが眉間を直撃した選手やメガネが割れてガラスが眼に入り眼球を傷付けた選手を知っています。だからこそ、こんなハンドルを平気で使う、あるいは気付かずに使うトップ選手が今いることを知って、あえて書かせてもらったのです。
 昔、1970年代末ヤマハはYTSLU発売当初、折損に悩まされました。このモデルの折損箇所はハンドル下部です。完全なるメーカークレームでした。開発段階で問題はなかったのが、量産に入ってからマグネシュームの注入口に湯だまりができ、温度差から金属の層ができてしまったのです。この時ヤマハは全品回収の措置をすぐに取ると同時に、注入口の形状の改良やデザイン自体の変更を行いました。それだけではありません。全品のレントゲン検査までも実施しました。当然コストはアップします。しかしこの対応があったからこそ、大きな事故もなく国内のアーチェリーは停滞することなく発展し続け、世界の弓具は安全面、性能面において大きく前進しました。これは昨今の食品メーカーや大企業の不祥事と同じ、企業の倫理と姿勢の問題です。
 日本アーチェリーの黎明期、選手も役員も組織も、そしてメーカーやショップもそれぞれが憧れと自尊心、そして良識を備えていました。ハンドルの折損だけではありません。もしアーチェリーで事故でも起こせば、日本のアーチェリーが死んでしまうとの不安とともに、夢と誇りを持っていたのです。
 クラックの原因が設計にあるのか品質管理にあるのか、メーカーにあるのかショップにあるのかは知りません。あるいはそれを使っている選手にあるのかは分かりません。しかし、問題はこのハンドルが使用中に折損してアーチャーを傷付けることにでもなれば、個人もそうですが低迷する日本のアーチェリーにとって大きなダメージとなるということです。
 あの時回収されず、クレームも公表されなかったモデルの改良タイプが数年を経てこのようなクラックをさらすのを目の当たりにすると、今一度アーチャーも含めこの狭い世界にいるひとりひとりが「在り方」を考えてみる必要があるのではないでしょうか。ハンドルの持ち主のコーチには、クラックの現実と危険性についてすぐにお伝えしました。試合後選手に話されていたので、適切なアドバイスがあったものと信じています。
 最新のハンドルがすべて折れないなどとは誰も言えません。形あるものはいつか崩れます。現にネジレも折損も起こっています。
 「災難と金属疲労は忘れた頃にやってくる。」
 
メーカー・輸入代理店・販売元・ショップ等の責任はまったく別にして、アーチャーはハンドルに限らず、リムや矢、ストリングなどにクラックやへこみ、ささくれ等の異常を発見した場合は、ただちにその使用を停止してください。自分だけでなく他人をも傷付ける危険性があります。また、それらの異常や変化に気付くべくいつも自分の弓具に注意を払い、点検を怠ることのないように努めるのは、アスリートとしての最低限のマナーであり責任です。

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