続 リムはどれくらい使えるの

 このリムを知っていますか?
 先日、試合で使っている方がいたのです。とはいえ練習場に行けば今でも昔のモデルに出会うことはよくあります。ところが今回出会ったのは、傷も汚れもないまったく新品状態の弓、それも試合で大活躍だったのです。本当に懐かしい思いでした。15年以上押入れに眠っていて、今回再開したというのです。
 このリムを知っている人はちょっと古いアーチャーですが、「ヤマハEX Super Custom」というモデルです。ヤマハに限らずモデルにはそれぞれ思い出と薀蓄があるものですが、このSuper Customもそうです。
 このモデルはたぶん市販品としての、「世界初オールカーボンリム」です。1983年春に発表されたのですが、例えば世の中には「名機」と呼ばれるモデルがいくつか存在します。ヤマハで言えばこのリムのベースとなった「EX−Custom」やその後継でセラミックウィスカーのパウダーを使った世界初の「セラミックカーボン」リムなどがそうです。
 ところがこのSuper Customは当時の最高機種(定価¥70000)でありオールカーボンという性能を備えながらも、名機にはならなかったモデルなのです。その理由は、進みすぎていたのです。当時では先進すぎるモデルだったのです。
 「オールカーボン」といえば今では当たり前のように使う言葉ですが、実際には誤解や偽りもあります。カーボンリムについてですが、これはグラスリムの後継、上位機種として登場したリムであるためにこのような呼び方を一般にはします。しかし実際にはグラス(FRP)だけを芯材(最近ではここに発泡材を使ったものがありますが、基本的には木材があるべき姿です。)に貼り付けたリムはグラスリムでいいのですが、カーボンリムは芯材にカーボン(CFRP)だけが貼ってあるリムのことを指すかというとそうではありません。グラスリムに対して、ほんの少しでもカーボンが入っていれば(使われていれば)どんなリムでもカーボンリムと世間では呼んでいます。それは間違いではないのでしょうが、この部分ははっきり認識する必要があります。
 1976年モントリオールで、HOYT社が白塗りのプロトタイプリムでオリンピックを制覇しました。このリムがカーボンリムの時代を切り拓いたのです。しかし性能的にまだまだ多くの問題があり、市販品にそのまま移行できるようなモデルではありませんでした。カーボンリムが実際に商品として登場するのは、「ヤマハYtslUCarbon」が最初で、翌年にリリースされました。ここからメーカーは矢速と安定性、的中性能、耐久性を求め開発にしのぎを削るわけです。ところが当時、接着技術などの耐久性等の問題もさることながら、汎用のカーボン素材では特にネジレなどの性能面でどうしてもクリアできない部分がありました。そこでどのメーカーもグラスとカーボンのコンポジット構造を基本に開発を進めたのです。カーボン繊維の反発力や軽量からくる矢速の向上は魅力ではある一方で、グラスの低コストと品質の安定、扱い易さでバランスをとったのです。しかしアルミアローという今では考えられないくらいに重いシャフトを飛ばし高得点を得るには、弓の性能を上げる以外に方法はありませんでした。必然的にカーボンの使用比率も高まり、使われるカーボン繊維の性能自体も年々向上していったのです。
 そんな中で、カーボンやグラスをアーチェリー用に素材の段階で生産できるヤマハは、リム用に使用するカーボン(CFRP)を設計し、試作に入っていました。ここでも知っておいてほしいのは、現在どこのリムもすべてが汎用のグラスやカーボンで作られている点です。ヤマハはこの一番基になる素材をアーチェリー用に自社生産していましたが、他社は素材メーカーからアーチェリーに適するであろうと思われる完成品の素材を購入して加工しています。ここにはおのずと性能や品質、斬新性などの限界があります。
 そんな状況の中で実験室段階ではすでに伊豆田さんが考えたオールカーボンリム(木芯とカーボン繊維100%で作られたリム)の原型が、熱冷テストも耐久テストもクリアし、データ測定も終わり出来上がっていました。あとは実射テストです。
 ヤマハでは数多くのテストをしましたが、この時のオールカーボンリムは特に印象に残っています。ともかくスピードが速く、それでいて左右のねじれ感がなく安定した返りをするのです。射った後も比較的おとなしいリムでした。ところがなぜかミスが大きく出るのです。ちょっとしたリリースのバラツキが大きく的面に反映するのです。これは初めてヤマハのカーボンアローをテストした時の感覚に似ていました。そして何回かのテストでいくつかの仕様に絞り込んだ結果、最後に選んだのがSuper Customでした。ただしその後の会議では、このリムが普通のアーチャーには難しすぎることを言い張りました。性能は群を抜くが、使いこなせない、当たらなければその評価が先行するので、、、ということです。結果、世界初のオールカーボンリムが市販品として世に出たのですが、予想通り難しかったようで名機と呼ばれるには至らず、マニアックな商品として終わりました。
 あれから20年以上の歳月が流れ、すべてではないにしてもオールカーボンが普通の道具としてシャープな感覚や矢速とともに受け入れられたのは事実ですが、その半面でカーボンアローというリムの性能以前に矢の軽さで飛んでしまう道具の出現によって、オールカーボンリムとは謳っても本来の性能や矢速を追求しない、単なる名前だけの高級モデルが巷にあふれているのも現実です。(ただし、オールカーボンリムではあっても芯材に木を使うように、リム表面に繊維切れなどを抑える目的で他の素材シートを貼ることはあります。それがグラスである場合もあります。)
 出だしから話が逸れてしまいましたが、まったく使わない状態で保管されていたリムの寿命の話ですが、これもストリングが張れて、引っ張れて、放せるなら20年でも大丈夫ということです。強さも表示どおりの40ポンドぴったりだったそうです。ただし相対的に見れば、捩れ剛性や耐疲労性にカーボンより劣るグラスリムの方が長持ちは難しいかもしれません。
 今回は温度や湿度の状態が良かったのも幸いしているのでしょうが、例えば人が住まない家の方が日々使っている家より傷みが早いように、リムもまったく使わない場合は接着剤の硬化の関係もあると思いますが、最初にストリングを張っただけで突然剥がれるようなことがよくあります。これは矢にも言えることです。日々使っていると問題ないのですが、ずっと使わずに置いてあったシャフトに知らない間にヒビや剥離が起こっていることがあります。大事に置いてあったから大丈夫ということでもありません。せっかくの道具です、たまには手入れを兼ねて使ってあげましょう。その方が道具も愛情に応えてくれるものです。そして新しければいいと言うものではありません。たぶんSuper Customの方が今ある名ばかりの高額モデルより、素材も性能も矢速も、そして耐久性でもはるかに勝っているでしょう。
 (大切に使っていただいて、ありがとうございます。一緒にお使いのEXハンドルもYS-Vサイトも、すごく良い道具です。僕がテストして、世に出した道具ですから。。。)

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