これだけはちゃんとお願いします。 (ポンド調節、ティラー調節、そして捩れ調節の話。)

 今度、練習場か試合に行った時、置いてある弓を見て回ってください。初心者に限らずトップアーチャーも含めて多分半分以上、ひょっとしたらほとんどの弓がダメでしょう。あなたの弓はどうですか?
ストリングが上下リムのそれぞれ真ん中を通ることをセンターが通っていると言い、リムが捩れていないひとつのチェックポイントとなります。これは誰でもがするチューニングであり、最低限は必要です。問題はセンタースタビライザーの中心もストリングが真っ直ぐに通っているか、なのです。多くのアーチャーが通っていません。
 この重要性を知らないアーチャーが多くいます。弓やネジの精度やリムの品質の問題と思っている人もたくさんいます。確かにこれはメーカーに責任がないとはいいませんが、やはり最近の状況を見るとこれはアーチャー自身が注意し改善しなければならない問題ではないでしょうか。
 昔、ワンピースボウの時代は弓1本すべてが品質であり性能でした。ハンドルもリムも含めたすべてで完成度が問われたのです。それは難しくはあっても、同じハンドル同じリムの中で解決できたことでした。ところがテイクダウンボウになって、それも近年に至っては事情があまりにも複雑になってしまいました。「ユニバーサルモデル」と呼ばれるハンドルとリムの接合方法のお陰でメーカーの手を離れたところで、それらは無限の組み合わせを持つことになったのです。そうなればメーカーにもユーザーにも、ショップにも責任はあるのです。
 例えば今、誰もがする「センターが通っている」状態を作るチューニングですが、なぜこんなことをユーザーであるアーチャーが高いお金を払った後にわざわざする必要があるのか。多分考えたこともないでしょうが、もし買ってきた弓が完璧にセンターが通っているなら、そんな作業は必要ありません。ところがいつからか通っていない状態が普通になってしまったがために、アーチャーのセンター出しの作業は今では当然の行為であり義務になっているのです。
 その原因が、ユニバーサルモデルの一般化です。多くのメーカーが個性もノウハウもプライドも持たず、資金も努力も払わずに利益に走った結果がこれです。しかしこのことはさておき、では同じメーカーのハンドルとリムを組み合わせた場合はどうでしょう。状況はそんなに変わらないでしょう。センター出しは必要なはずです。確かに同様のことはワンピースボウの時にもありました。同じ長さ同じポンドの弓が数本あり、幸運にもそこから選べる状況があれば捩れのない良い弓を選んだでしょう。しかしそこにはそれ以前に、メーカーあるいはモデルに対する信頼や実績があり、物だけではない安心や品質も買っていたのです。当然メーカーもそれに応える努力を惜しみませんでした。
 ところが今は、リム単体とそこに印刷してあるロゴマークを買っているにすぎません。精度、性能、品質といったメーカーの責任と義務までもが、ユーザーにゆだねられています。
 そんなおかしな状況に立ち至った原因が、実はもうひとつあります。これが最大の原因でもある、「センター調整機構」です。結果的にこれほどメーカーを助けたシステム(構造)はないでしょう。
 その前に、「ポンド調整機構」について話しておきます。一般に言われる「ポンド調整機構」にはその構造(メーカー)にかかわらず、2つの目的(機能)があります。ひとつは「ポンド調節」。もうひとつが「ティラーハイト(リムバランス)調節」です。これらは同じ調整機構(システム)の中にありますが、決して同じものではありません。このことは非常に重要です。
 元々このポンド調整機構はティラーハイトを調節するために生まれたものであり、最初からポンドを調整しようなどという目的はありませんでした。なぜならこれはメーカーが一番よく知っていることなのですが、ポンドを調整するほどにリムの差し込み角度を変えてしまうと、弓の基本性能(設計)そのものが違うものになり本来の性能を発揮することができなくなるのです。1ポンド変更するのにポンド調整機構の可動幅でいえば約「1ミリ」の動きです。1ミリも動かせば、ポンドが変わったということになりリム本来が持つ基本性能も変化します。特に基本設計位置より起こした(締め込んだ)場合の方が性能への影響は大きくなります。
 だからこそこの機能を持つ現在であっても、メーカーは表立って表示ポンドには幅を持たせていないのです。ポンド調整はメーカー推奨の機能ではなく、ユーザーが勝手にしていることなのです。
 しかしティラーハイト調整は違います。これはメーカーにとっての生産上大きなメリットがあります。リムを製造するというのは、思われる以上に大変なことです。例えば、スキー板やテニスのラケットもカーボンを使用した同じような構造でできてはいます。ところがスキーもラケットもアーチェリーのリムほど曲げられることもなければ、炎天下から雪の中まで過酷な条件化で繰り返し使用されることはないのです。そして何よりも出来上がったままの形で使われるのではなく、成型後ストリングを張って捩れやバランスを求められるのです。これには設備や知識、ノウハウとともにリスクもコストも想像以上に求められます。ましてやマイナースポーツであれば生産数は限られ、歩留まり(成型された数から商品になる数の割合)は経営そのものを左右する要素になります。
 少し前置きが長くなりましたが、ワンピースボウの頃なら出来上がった弓を削って調整し、ティラーハイトの差を何ミリの範囲に収めるといったことをしていました。もしそれがリムの加工ではなく、ハンドルのネジ1本で行えるとしたらどうでしょう。メーカーにとってこれほどの救いはないのです。それはちょうどネジ1本で捩れを修正できる「センター調整機構」と同じような恵みです。そんなことはないと思いますが・・・、これらの機構を弓が持つお陰でバランスの幅も捩れの幅もそれまでなら商品にならなかったハンドルやリムまで市場に投入できるのです。アーチャーにとってバランスも捩れもチューニングとしての微調整は必要です。しかしメーカーにとっては微調整どころの騒ぎではないのです。
 メジャーな弓において初めてティラーハイト調整が登場したのは、HOYTがT/D2のスタビライザーの穴を貫通させネジを取り付けマイナーチェンジした1980年頃です。これはあくまでティラーの調整です。では実際のポンド調整が可能になったのはというと、1983年のHOYT G/Mからです。それは同時にユニバーサルモデルの誕生でもありました。
 では捩れ調整機構はどうでしょう。これはメーカーにとっても偶然の産物だったのかもしれません。1980年代中頃に登場したNC旋盤によるアルミハンドル。HOYTの初期モデルRadianにはこのような機構は付いていませんが、最初のモデルらしく非常に複雑でコストのかかる形状をしています。
 そこで次期モデルAvalonで、HOYTはコストダウンを目的にコンパウンドボウの技術転用によるカップ付け方式を採用しました。ところがこのモデルはハンドルの折損に加え、アルミカップによる重量増加がネックとなりました。そして同時にこのアルミカップの取り付け精度を試行するうちに、逆にこの部分が動かせることをメリットとすることを思い付いたのです。センターが出ないことを、センターが出せることに置き換えたのです。その結果、この後の上級ハンドルにはすべてセンター調整機構が搭載されるようになり、現在に至っています。
 では、差し込み角度1ミリが基本設計に対する許容の限界と言いましたが、センター出し(捩れ調整)ではどうでしょう。
 今はなきヤマハもこれらの機能は持っていましたが、実は当初その考えはありませんでした。理由は先に述べたとおりです。メーカーとしてのプライドと自信の表れでもありました。しかし時代の流れには勝てませんでした。1982年発表のEXもマイナーチェンジでEX-αとなった時にダブルアジャストシステムを搭載したポンド調整機構を付加しました。センター調整機構も1995年のパワーリカーブから他社がハンドルに装備する機能を、「偏芯ロケーター」でリムに搭載しました。
 ここにおもしろい写真があります。左が発売当時の偏芯ロケーターで、右がヤマハ最後のモデルです。
 当初ヤマハは偏芯幅を0.2ミリに設定していたのです。これが十分条件であり、これ以上の修正を必要とするリムやハンドルは商品ではないと考えたのです。(これでもチップ先端では4ミリ程度動きます。) ところがどうでしょう。いろいろな条件や事情が重なっての仕方がない判断ではあったのですが、世紀末を前にした末期的状況のヤマハは(2002年2月に撤退を発表、同年9月に完全撤退しました。)ロケーターの偏芯幅を0.5ミリに拡大しているのです。上下を逆に振れば1ミリです。普通ではありません。これは弓を作る連中の本意では決してありません。しかし、それを必要とするか否かは別問題として、現在のほとんどすべてのハンドルに搭載されているセンター調整機構はこれ以上の可動幅を持っているのが事実です。
 ハンドルとリムの付け根がこのような状態になることはワンピースボウでは非常に稀でした。しかし今のテイクダウンのハンドルとリムの精度と組み合わせによっては、ストリングが上下リムの中心を完璧に通ったとしてもセンタースタビライザーが横を向くことは普通に起こり得るのです。リムだけでなくハンドルも関係します。現実にはこんな縦横のズレだけでなく接合面が傾いている場合もあるのです。試合場の弓を見渡せば分かるとおりです。(スタビライザーの穴が横を向いていることは、その工程から考えて非常に稀でしょう。)
 センタースタビライザーもセンターを通らなければ、リムが捩れているように見えます。リリースの時ストリングがグリップに向かって真っ直ぐには返りません。向きによってはアロークリアランスが狭まり、レストでのトラブルが起こり易くなります。
 これだけはお願いです。もし、今手にしているマイボウがセンターを通っていなかったなら、アーチャーの責任として持てる機能をすべて発揮して、ストリングがすべての真ん中に来るようにチューニングをしっかりしてください。それだけの可動範囲を持つ調整機能なら、必ずすべてを真っ直ぐ通せる位置があるはずです。そしてその試行錯誤をすることで、弓におけるコンマ1ミリがどれほどの精度なのかを実感できるでしょう。

copyright (c) 2010 @‐rchery.com  All Rights Reserved.
I love Archery