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読んでしまえば、そうなのかぁ。という話で、同じような質問はこれまでにもいろいろな方からただいてはいるのですが、なぜか今回は引っかかるのです。質問をいただいた方への引っかかりでは決してありません。この質問の背景への引っかかりなのです。 |
これはあくまで個人的な考えや経験であり、まったく逆の意見や情報をお持ちの方も多分たくさんいらっしゃると思います。ただ、個々人の納得のいく結論の手助けにでもなればと、ちょっと思い付くことを書き並べてみます。 |
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まずひっかかるのは、「ブッシングが入っているタイプ=信頼性が十分ある」のところです。これは本当でしょうか?
その前にひとつ。「信頼性=精度、耐久性等」とありますが、たしかに精度も耐久性も信頼に関わる重要な部分ではあるのですが、それを担っているのはまったく別です。精度はその製品がどこでどのように作られるかが問題であり、耐久性は素材の問題です。 |
そこでまず精度ですが、仮に非常に精度の高い熟練した技術と機械を使って作ったとした場合は、ブッシングの有無に関わらずどちらも同じ精度(ここではスタビライザーが真っ直ぐに取り付けられるということです)で出来上がるでしょう。どちらかが劣ることはありません。しかし問題は今の世の中にあるハンドルがすべてそのような品質管理では作られていないという現実です。これは高価だから精度が高いとは一概に言えません。ではそんな状況の中で考えた時、ブッシングという部品が1個ハンドルとスタビライザーの間に介在するということは、ブッシングがある方が精度が落ちる可能性が高いのです。ハンドル本体を削り出せる技術と機材があるなら、そこに直接穴を開ける方が精度の高いものができるのは当然です。個人的な経験では、この1年の間にスタビライザーのブッシング自体が曲がって取り付けられているハンドルを3本見ましたが、直接開けた穴が曲がっていると判断できたハンドルは1本もありません。 |
では耐久性です。ブッシングがステンレスで作られていると仮定するなら、ブッシングの有無はメスネジがステンレスかアルミニューム(ハンドルの素材)かの問題になります。たしかにネジ切りの精度の問題はあります。精度が良くても公差の取り方が異なる場合もあります。しかしこれが同じと仮定した場合、「アルミのネジ山はステンに比べて潰れ易い」という前提があるのでしょうか? |
これも個人的経験を言うなら、40年近くアーチェリーをやっていてセンタースタビライザーのネジ山が潰れたのを見たことも聞いたこともないのです。インチとミリのネジを間違って最後まで入れた人に出会ったことがないのがその理由かもしれませんが、皆さんはどうでしょうか? ただし、サイトやクリッカーのネジ山が潰れたのは何度も見ています。その多くはマグネシュームハンドルに直接ネジが切ってある場合ですが、それでも何本かはステンやアルミのネジ山です。この場合、センタースタビライザーと違うのは、これらのネジ径が細くネジ山も細かいということです。直径8ミリもあるネジでネジ山を潰すことはまずありません。では使用回数からくる磨耗で潰れた場面はというと、これも数年何千回とネジを出し入れしたからといってステンでもアルミでもネジ山が磨耗してなくなったのを見たことはありません。 |
ところが、ネジ自体の耐久性ではなく、ブッシング自体が緩んだり抜けたりというトラブルは結構日常茶飯事ではないでしょうか。この1年でも4回その場面に遭遇しました。内2回は試合中であり、一度はスタビライザーごと吹っ飛びました。 |
そう考えれば、ここまでのところ信頼性は精度においても耐久においても同等あるいは、「直接ネジが切っているタイプ>ブッシングが入っているタイプ」ではないでしょうか。(スタビライザーの穴以外でもっと精度が要求される穴があるわけですが、スタビライザー以外でブッシングが付いている穴がハンドルにありますか?!) |
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ではもうひとつの場合。これは精度でもハンドル側の耐久性でもないのですが、不幸にしてセンタースタビライザーのネジが折れた場合はどうでしょう。この場合もブッシングがあれば復旧し易い、という素人考えがあるのでしょうか。しかし実際に折れたネジを穴から外すのに、それがブッシングだったから外せて、直接ハンドルだったから外せなかったということがあったでしょうか? |
ここで一番引っかかることが出てくるのです。「素人考え」です。普通の素人が素朴に考えるなら、ネジは直接切る方が真っ直ぐだし、折れたとしても保証の有無は別にして購入店かメーカーがちゃんと直してくれる、とは思わないのでしょうか? ひょっとするとこれは「素人考え」ではなく、「玄人考え」ではないのでしょうか。ここで言う玄人とはアーチェリーのベテランでもトップアーチャーでもなく、それを売りたいと思っている人やその修理やメンテナンスを行う人という意味です。 |
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例えばアーチェリー大国アメリカにおいて、滑車の付いていない弓は全体の10%にも満たないでしょう。そしてそんな弓で紙に書いた丸い輪を決まった距離から射つなどというアーチャーは、さらにその中の10%でしょうか。現に我々が所属する全日本アーチェリー連盟は登録数が公称1万人程度です。ところがアメリカでの同様の団体NAAへの登録数はそれを下回るのです。日本は1万人がすべてですが、アメリカではそんな団体に所属せず、例えば趣味でハンティングや3Dそして裏庭でアーチェリーを楽しむ潜在人口が、ほんの一握りのオリンピックアーチャーの後ろに何十万人と存在しているのです。日本で言うなら、釣り愛好家を考えると分かり易いでしょう。それが証拠にアメリカでショッピングモールのスポーツ用品店を覗いてみれば、どこでも銃器売り場の横にパックになったコンパウンドボウと矢のセットがルアー用品と一緒に見つかるはずです。ところがリカーブボウやターゲットアローを探すとなれば、それは至難の業です。 |
ではそんなアメリカでの何十万本もあるコンパウンドボウにブッシングが付いているかというと、付いていない方が普通ではないでしょうか。リカーブボウ以上に大きな力が加わるセンタースタビライザーの根元にブッシングはないのに、クレームはほとんどありません。では今我々が見るブッシングが付いている弓はというと、そのほとんどが木製ワンピースボウの時代からリカーブボウを専門を作ってきたメーカーです。あるいは後発であっても、この特化した市場だけを狙って弓を作るメーカーの製品です。それに対してのアメリカの多くの弓はコンパウンドから始まったメーカーによって作られています。それらは木製やマグネシュームのハンドルを経験していないからこそ、アルミニュームハンドルに直接ネジを切っても大丈夫なことを知っているのです。そしてそんな巨大なマーケットだからこそ、全体の数%にしかならない特殊な市場を意識して生きることを考えなくても十分にビジネスとして成り立ちます。ところがその小さな特殊なマーケットだけを相手に商売をしようとするメーカーにとっては、日本こそが上得意様なのです。日本のために、日本で売れるように作ることがたとえコストアップになっても生き残る手段なのです。 |
とはいえアーチェリーに限らないのですが、いろいろな製品には日本人あるいは日本向けに作った「日本仕様」的なものがあります。このブッシングの有無も精度や耐久の問題ではなく、直接スタビライザーのネジがハンドルに当たるのは嫌だという繊細で神経質なアーチャーにとっては重要なことです。そして木製ワンピースボウの時代からブッシングに慣れ親しんできた日本人にはアピールできるポイントではあります。 |
しかしここに書いてきたようにこのような配慮はユーザーサイドだけでなく、実はショップや業者サイドへの配慮でもあるのです。精度や耐久性を表で謳いながら、実は修理のし易さやコストの軽減を図っているのかもしれません。ユーザーには関係ないことですがアーチェリーの輸入品の場合、ネジが潰れようがハンドルやリムが折れようが、それがよほど特別な場合(現物を調査しての原因究明が必要な場合など)でない限りほとんど100%その商品を原産国に送り返すことはありません。送り返すには高額の送料と場合によっては税金までかかってしまいます。そのためこれはワンピースボウの時代からずっと写真で済んでいることで、今の世の中ならなおさらメイルで添付ファイルを送れば済むことです。 |
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世の中にはたくさんの嘘や錯覚、セールストークがあることは十分理解しています。その一方で、個人のこだわりや思い入れ、信仰があることも十分承知しています。しかし状況はどうあれ、我々が愛好しているアーチェリー、あるいは日本のアーチェリーという競技が非常に特殊な環境下で進行していることをしっかり認識しなければなりません。そうでなければ素人も玄人も、信頼性を失ってしまいます。。。。 ということで、ちょっと引っかかりました。 |