ちょっと AMO のはなし

 「A.M.O.」(アモ)というのを、聞いたことがありますか?
 ちょっと昔のアーチャーなら知っているかもしれませんが、最近はあまり聞かなくなった言葉です。
 「AMO」は元々、Archery Manufacturers Organization の頭文字を取ったもので、アメリカのアーチェリー用品メーカーは必ず入っていると思っても間違いのない、「アーチェリー生産者組合」のような組織です。
 では、何をするところかというと、個々のアーチャーましてや日本のアーチャーがそれを実感することはほとんどないのが現実です。普通の人がJIS やISO といったネジ規格を知らなくても、オーブントースターの掃除ができるのと同じです。しかし電気屋さんには大事な問題です。
 AMO がしていることはたくさんあるのですが、その中でもオーブントースターの掃除を頼まれるオジサンアーチャーに関係することは、例えば、スタビライザーのネジ寸法を決めたり、サイトのエクステンションベースのネジ穴の間隔を決めたり、矢の長さの計り方を決めたり、、、などがあります。言われてみればそうなのかと、実際の生活では当たり前のように過ごしていることばかりです。
 多くのメーカーがこの組織に参加することで、規格が統一され「スタンダード」(標準)が生まれます。お蔭でアーチャーは互換性という名の元に、不自由のない生活が送れるのです。
 しかし、例えばYAMAHA もアメリカではAMO に参加していても(輸出用はそれに準じても)、国内モデルはミリ(ISO)ネジを使ったりと、すべてが統一されているわけではありません。ましてやヤマハのように大きなメーカーでなかったり、アメリカ以外の国のメーカーであればなおさらのことです。
 このように縁の下の力持ち的存在でアーチェリーの基礎部分を支えるAMO ですが、基礎部分ゆえに末端のアーチャーには無縁のスタンダードも多くあります。
 例えば、「アローレングス」(矢の長さ)。昔のアーチャーは矢の長さをショップに指定する時に、シャフトの長さやポイントの先端ではなく、ポイントの肩(先端の細くなりだす部分)までの長さを言ったのを覚えていますか。
 これなど、実はAMO の多くはターゲットアーチェリー以外のアーチャー(それを市場とするメーカー)で占められています。コンパウンドボウが入ってくるのも、もっと後になってからです。そのためターゲットポイント以外のブロードヘッド(ハンティング用のカミソリのようなポイント)やノークリッカーを前提に考えられているためです。
 それにメーカーとすればクリッカー位置のためではなく、矢の硬さ(スパイン)を測定するためのスタンダードが必要です。半インチ刻みで矢を選ぶわけでないアーチャーにとっては、さほど意味を持たないスタンダードともいえます。
 では、AMO が現場のアーチャーに最も貢献した(活用する場面のある)スタンダードは?
 リカーブ、コンパウンドに関わらず、間違いなく「表示ポンド」(アーチャーが使用する時の「実質ポンド」ではない測定値)でしょう。
 このスタンダードは、1960年代からあります。最初それは「弓を引き、ハンドルの端(的側のハンドルウインドウの端)からノックとストリング接触部分までの長さが28インチになった時のポンド数」を弓に表示するようになっていました。
 しかしこの規格は、ハンドルが木製から金属に変わり、さまざまな形状のハンドルが登場するに至っては、スタンダードであり得ないことは明らかです。そこで近年、スタンダードはピボットポイント(グリップの底)から26インチ引いた位置へと変更され、現在はそれが26 1/4インチになっています。
 
 このように統一規格(スタンダード)も時代と共に変化するのですが、実はAMO 自体も変化しています。
 2003年から「AMO」はメーカーだけではなく、販売ディーラーなども包括する「ATA」(Archery Trade Association)なるより大きな組織へと改編されています。そのため、活動の内容も規格の統一だけでなく、アーチェリーの普及やレベルアップ活動など広範囲なものになっています。
 そこで日本の現場のアーチャーに関わる「スタンダード」を確認したのですが、現時点(2006年1月)ではまだAMO 当時のスタンダードがそのまま継承されているようです。そこで興味のある方は↓これをご確認ください。

AMO Standards 2000 (PDFファイル)
  

 ということで、リカーブ、コンパウンドに関わらず、「PSE」も「HOYT」もアメリカ製の弓はすべて、この規格に基本的には適合していると考えて間違いありません。(エヌプロダクツやプロセレクトの弓もこれに準拠しています。) ただし、ヨーロッパや韓国のメーカーについては準拠しているのでしょうが、確認はしていません。
 しかし、しかしです。実は、先のドローレングスの測定基準位置が変わったように、リカーブボウがテイクダウンになりそこに「ユニバーサルモデル」なる汎用接合方式が一般化した現在、ややこしい状況が生まれているのも現実です。
 ATA は現時点でリカーブボウのユニバーサルモデルに対し、同一接合方式であってもそのハンドルとリムの角度に対してスタンダードを設けていないのです。(というより、ユニバーサルモデル自体をスタンダード化していません。)
 このことはハンドルとリムに互換性があっても(例えば異なるメーカーのハンドルとリムが組み合わせて使える)、その表示ポンドに基準位置も統一性もないことを表しています。またこのことは、同一メーカーのハンドルとリムを組み合わせた場合であっても、メーカーが指示しない限り、表示ポンドがどのセッティング位置で与えられたものかユーザーには分からないのです。
 そんな何でもあり的状況下で、ATA に参加する大手メーカーの弓が自らのスタンダードを遵守しない状況も見受けられます。残念なことではありますが、それほど現実は複雑であり、なんともアメリカ的であるということでしょうか。

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