続:弓の長さとF-X曲線+スタッキングポイント

 日々たくさんのメイルや相談をいただくのですが、最近たて続けに「弓の長さ」についての話を聞きました。近年、長すぎる弓を薦める指導にも、長すぎる弓を使う選手にも注意は喚起してきたつもりですが、この辟易する状況にこのあたりで一矢を報いておこうと思います。
 身長、キャリア、技術、目的、、、いろいろな条件はありますが、仮に矢の長さが28インチに満たない程度の男性のアーチャーに弓の長さを聞かれれば、間違いなく「66インチ」の弓を薦めます。もし26インチに満たない矢の長さの女の子なら、間違いなく「64インチ」を薦めます。どうですか??? もし68インチや66インチを薦める、あるいは使っているというのなら、その根拠を説明できますか?
 この説明に最近、「フック」(指の掛け)や「弓の奥の柔らかさ」や漠然とした「安定」をもって答える指導者たちがあまりにも多いのです。「短い弓はストリングに角度が付いて薬指が掛からないから」とか「奥が柔らかい方がクリッカーを鳴らし易い」と平気で言うのです。インドア競技ならいざしらず、アウトドアである程度の成果を目指そうというなら、それは安易な選択であり、本末転倒です。
 この最近の状況は、ちょうど靴屋に靴を買いに行ったら、26センチの足にもかかわらず、この方がゆったりしていて楽でいいですよと薦められ、28センチの高価な靴を買わされてきたようなものです。売る方は楽です。小さい靴なら足が入らないとか指が痛いといわれるかもしれませんが、大きな靴なら少ない在庫で誰にでも売りつけられます。それで転んでも、靴のせいではなく、客の歩き方が悪いのです。いい話でしょう。
 では26センチなら何でもいいかといえば、甲高幅広の3Eがあったり、素材や形状はさまざまです。それと同じように弓にも特徴があります。それを表すひとつの指針がF-X曲線です。ところが最近はF-X曲線も知らない店員(指導者)がいるのです。となれば「スタッキングポイント」など知るよしもないのです。
 
 結論から先に言います。あなたのドローレングスでフルドローに構えた時、その位置はスタッキングポイントかそこを少し過ぎた所で使うのが正しい弓の長さです。
 
 スタッキングポイントとは、ストリングハイトのポイントから引く直線とF-X曲線との接点として求められるポイントです。(これがドローイングの限界点ではありません。お間違いのないように。) なだらかであったカーブが立ち上がる境目にスタッキングポイントがあります。スタッキングポイントは同じ弓、同じドローレングスであっても、リム差し込み角度やストリングハイトを変えれば基本的には動きます。しかしよほど特殊なチューニングなどをしない限り、おおよその位置は決まっています。それが例えば68インチの弓であれば矢の長さが28インチでの使用付近にあるというわけです。
 だから騙されてはいけません。この弓は奥が柔らかいからと長目の弓を薦められても、それがスタッキングポイントの手前であればどんな弓でも柔らかく感じるのは当たり前のことなのです。
 ではなぜスタッキングポイントがあるのか。それはリカーブボウのリカーブ形状(リムの先端部分が逆に反り返った弓)が最善であるとの前提に立てば、弓はまずドローイングの最初はリムのハンドル側から湾曲しだします。そして最後に逆に反ったリカーブ部分が伸びだすのです。そこでもし長すぎる弓を使えば、リムの根元は曲がっていても、まだリカーブが伸びださないところで使っていることになります。一番大切なリカーブ形状本来の目的が達せられていないわけです。弓は当然メーカーやモデルによって異なりますが、基本はリム全体が美しいカーブを描き、無理のない自然な動きをすることが必要です。当然ここにはリカーブの働きも含まれています。スタッキングポイントを超えて、初めてリカーブが伸びだし性能を発揮すると考えればよいでしょう。その結果、F-X曲線で作り出される(内在する)エネルギーも最大となります。また軽い弓だと逆にリリースがしにくいように、カーブの立ち上がりはアーチャーにシャープさを与え、矢には効率的なエネルギー伝達を行います。
 しかしこれは一般論であり、実際にはノウハウやコンセプトのないリム、技術やポリシーのないメーカーが多数あります。例えばスタッキングポイントを過ぎると極端にF-X曲線が立ち上がってしまうカンカンの弓がそうです。ところがそんなリムでも長すぎる弓を薦めれば、さも柔らかくスムーズなように感じてもらえるのです。
 ではどんなコンセプトがあるのか、と聞かれるでしょう。覚えているアーチャーは少ないでしょうが、昔ヤマハのリムはストリングハイトを変化させてもスタッキングポイント位置がほとんど動かないように設計していました。また現在唯一の日本のメーカーでは、これはヤマハもそうでしたがスタッキングポイントを過ぎても極力なだらかなF-X曲線を描くように苦心しています。「奥が柔らかい」とはこのことを言うのです。これによって性能が担保された状態で、チューニングの範囲は広がります。こんな簡単そうなことにも何十年ものノウハウと日本の技術が注がれているのです。
 
 なぜ、こんなことになってしまったのか。最大の理由は、カーボンアローです。飛んでしまうのです。
 もしあなたの弓で矢が90m、女子なら70mを飛ばなかったら、どうしますか?! (飛ぶことと当たることは別のことです。飛んで、当てる話をしています。) アルミアローの時代がそうだったのです。28インチに満たないドローレングスのアーチャーなら、表示ポンド数で40ポンドくらいは、女子で160センチに満たない身長の女の子なら表示ポンドで37ポンドくらいはないと、試合に出て戦うことはできなかったのです。当てる前に、矢が的まで届かないのです。ところが今は35ポンドでも90mは飛ぶし、女子においては30数ポンドで試合に出られるのです。なんでもありです。
 言葉を変えれば、カーボンアローの出現は、初心者と競技者の垣根をなくしてしまったのです。昔、試合に出るか出ないかは、まず矢が飛ぶか飛ばないかでした。そして飛ばすためには、正しいフォームや技術とともにそれなりの体力と道具が必要でした。ところが今は、技術やフォームもなく、弱い弓であっても矢が飛ぶお陰でみんなトップアーチャー気取りです。薬指が掛からないから長い弓を使うのではなく、自分に合った弓を薬指もしっかり掛けて引けるようにするのが指導であり、練習です。
 そんな中で「日本人が、日本の弓で世界の頂点に立つ」とは、非力で体格の劣る日本人が世界で戦うためのヤマハのポリシーだったのです。心・技・体、そして道具が一体になって日本人を応援する方法論です。
 飛ぶから良いのではなく、同じ条件でより以上のアドバンテージを得ることこそが、勝つためのノウハウであり、テクニックなのです。弓の長さの選択とは、「性能」の選択です。練習やチューニングの前に、まずは自分にあった靴を履きましょう。大きい靴でゆっくり歩くことはできても、全力疾走はできません。ご注意ください。
 154センチに66インチの弓は、長すぎるでしょう。。。。 リカーブが伸びていますか??! 弓が美しくたわんでいますか?!

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