ちょっと「公差」のこと

 以前、ハンドルのことで公差のことを書きましたが、今回ちょっと矢の調べごとがあったので追記します。
 「公差」をWikiで調べると、抜粋ですがこうなります。
 
公差(こうさ、tolerance)とは、機械工学に代表される工学において許容される差のこと。
基準値と許容される範囲の最大値および最小値との差を許容差、その最大値と最小値の差を公差と呼ぶ。

寸法や特性や条件は、装置やプロセスの機能に大きく影響することなく一定の実用的範囲内で変化する可能性がある。性能を損なわずに固有の変動性と不完全さに対する妥当な余裕を許すべく、公差が指定される。

公差は、標準値への係数やパーセンテージ、標準値からの最大偏差、許容される値の明示的範囲などで指定され、標準規格書などに記される。あるいは、標準値の数値的正確さで暗に示される場合もある(有効数字)。公差は対称的に 40±0.1 などとされることもあるが、非対称に 40+0.2/-0.1 などとされることもある。
 
 今回、ちょっと訳あってEASTON社の「ノックピン」(ACE用)を測定しました。といっても、個人で計ったのではなく、新潟県燕市のいつもポイントやパーツを作ってもらう金属加工の専門家にお願いしました。 金物製作の日本の技術は世界でもトップクラスであると同時に、使われている機械類もほとんどが日本製です。もちろんHoytもPSEも日本製のNC旋盤を使っています。
 ではその前に、例えばこのような3〜4ミリ程度の製品を作る(あるいはできた物に)のに、どれくらいの「誤差」(公差とは少し意味合いが違いますが、使う側としては同じことです)があるものだと思いますか? 1/10ミリ、1/100ミリ、1/1000ミリ??? バラツキなんかないと思ってる人も多いのかもしれません。
 これがノック側とシャフト側の円柱部分の直径の生データです。ランダムに選んだロットナンバー「75950」と「70182」のノックピン2パック(各12個)の測定値です。
 
□測定機器 ミツトヨMDC-25J
□測定状態 常温
「75950」
ノック側 シャフト側 重さ
φ3.226 φ4.237  8gn
φ3.239 φ4.248  8gn
φ3.241 φ4.247  8gn
φ3.234 φ4.240 10gn
φ3.241 φ4.246 10gn
φ3.221 φ4.231 10gn
φ3.227 φ4.232 10gn
φ3.237 φ4.245 10gn
φ3.231 φ4.237 10gn
φ3.234 φ4.239 10gn
φ3.228 φ4.238 10gn
φ3.230 φ4.236 10gn
「70182」
ノック側 シャフト側 重さ
φ3.237 φ4.245 10gn
φ3.236 φ4.245 10gn
φ3.229 φ4.241 10gn
φ3.239 φ4.246 10gn
φ3.241 φ4.246 10gn
φ3.238 φ4.248 10gn
φ3.238 φ4.244 10gn
φ3.237 φ4.245 10gn
φ3.232 φ4.239 10gn
φ3.231 φ4.230  8gn
φ3.230 φ4.241  8gn
φ3.228 φ4.242  8gn
 
 EASTONがこの製品の図面上の寸法(基準値)をどこに設定し、公差(許容差)をどう設定しているのかは不明です。しかし結果として、この製品の公差(=最大値最小値)は「75950」でシャフト側「0.017ミリ」ノック側「0.020ミリ」、「70182」ではシャフト側「0.018ミリ」ノック側「0.013ミリ」です。
  この数値がEASTONの狙い通りのものか(加工図面に対して、この寸法値が範囲内か範囲外か)は分かりませんが、作る側の専門家の意見では「寸法公差として考えた場合、この数値は決して悪くない数値です。NC機械の初動寸法値と安定寸法値の差は±0.02くらいはありますから。うちのポイントは±0.01として製作しています。」というものでした。
 ということで、通常これらの製品には「コンマゼロ2」(0.020ミリ)程度のバラツキが存在するのは普通です。ただし、相手がある場合(はめあい公差)やより以上の精度を求められる部分についてはこの限りではもちろんありません。例えば「±0.005ミリ」で製品を作ることもできますが、作る側にすると削るというより砥石で研ぐレベルの精度管理であり、当然コストは跳ね上がります。それが妥当な要求かは、また別の話です。
 ちょっと寸法の横の「重さ」を見てください。今回、重さについては「グレイン」の精密秤がなかったので、小数点以下を切り捨てた数値になっていますが、お分かりのように寸法誤差と重さの誤差は一致するとは限っていません。
 1グレインは「0.06479891グラム」です。
 Grainは穀物からきた単位で、1グレインは麦1粒ほどの重さになります。カタログで見ると、このノックピンは8グレイン、ピンノックは2グレイン。Gノックは7グレイン、ダイヤモンドベインは一番小さいサイズで1枚3グレイン程度です。そこに1グレインの公差(誤差)を認めるか認めないかはアーチャーの勝手です。完璧を求めることも必要です。しかし、5グレインの違いもわからず、10グレインでも的面で許容できる射ち方のアーチャーはいっぱいいます。それに1グレインや2グレインは製品の公差だけでなく、接着剤の量だけでも変わる範囲です。完璧を求めるのもいいのですが、そのくらいに射ち方でも完璧を求めてもらいたいものです。射ち方にも公差があるのです。あなたの許容差はどれくらいですか。
 ちなみに、1円玉=1グラム=約15グレイン ですぅ。