個人的な「感じ」−弓の強さのこと

 そこで、もうひとつ。身長176センチと聞けば、弓の長さは「68インチ」を薦めます。実際にはフォームやドローレングス(最近のクリッカープレートを使っての、アローレングスではありません。)に深く関係するのですが、66インチでは短すぎます。40年間やってきた、経験則のひとつです。もちろん授業料もたくさん払ってきました。
 では170センチと言われると、ちょっと微妙です。68インチでいける場合もあれば、絶対66インチの時もあります。160センチも微妙です。155センチと言われれば、絶対64インチです。
 しかし、最近は長いスタビライザー同様に、長い弓を勧める傾向にあります。ショップにすれば在庫を多く持たなくてよいという大きなメリットはあるのですが、使う側のメリットはなんでしょう。多くのアーチャーや指導者は、ショップのセールストーク同様にフックの角度がきつくないので薬指もしっかり掛かり、安定した射ち方ができると言います。ウソではないでしょう。しかし、少し前まではこのメリット以上に必要とされるメリットがありました。それは弓の性能です。いくら指がしっかり掛かっても、90mのサイトが取れなかったり(矢が届かなかったり)、70mで少しの風に流されては試合に出る以前の問題だったのです。
 ところが、矢がアルミからカーボンに変わることで、弓のポンド(強さ)は落ち、身長より高い弓を平気で使うようになりました。理由は弓の性能が向上したのでも、アーチャーの体格が立派になったのでもありません。単に軽い矢のお陰で技術やフォーム、性能に関わりなく矢が飛ぶようになっただけのことです。それも90mではなく70mが飛べば十分です。
 必要以上に長い弓を使うことは、弓に対してドローレングスが短くなるため、特にリカーブ部分が伸びず本来の弓の性能が十分に発揮できないことになります。しかし今はリカーブが伸びようが伸びまいが、矢が勝手に飛んでいくのです。このことは、弓の性能を見極め難くすると同時に、性能自体を必要としなくしてしまいました。ノウハウがなくても、カーブが美しくなくても、長さが合っていなくても、性能が悪くても、、、人件費が安く、コストが安ければ誰にでも弓が作れて、商売が成立する時代です。個人的には「ィヤな感じ」です。
 
 そんな状況の中でも(中だからこそ)、こだわりのあるマニアックなアーチャーもいるようです。茶色ではあっても「Border」を愛用する数人のアーチャーから早速メイルをいただきました。そんなやり取りの一部です。↓
 
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Subject: Re: ボーダー素人
Date: Tue, 05 Oct 2010 18:35:35 +0900
From: archer <******@a-rchery.com>

ありがとうございます。
いろいろアドバイスをいただき、、、お詫びと報告と疑問です。。。
先日、2日の土曜日に初めて「HEX5H」と「CXB」をレンジに持参。射と
うとまずは普通のリムっぽい「CXB」にストリングを張ろうとしたところ、
まったく長さが合わず「66インチ」のリムではないかと思い、ずっと使用して
いるNリム「NX−X」を机上で合わせたところ、「HEX5H」「CXB」とも
に短かったので、どちろも「66」と勝手に判断して、先の相談とアドバイスを
いただく結果になっていました。土曜日の段階では、「HEX5H」にはストリ
ングを張っていませんでした。
で本日5日火曜日。朝1時間ほど同じリムを持ってレンジに行ってきました。
まず同じように「CXB」に今「NX−X」のリムに使っているストリングを張っ
てみたのですが、土曜日のとおりまったく長さがあいません。(「66」ストリ
ングを持参するのを忘れました。)
そこで同じように3種類のリムの形状と長さを机上で比較したものが(写真
**)です。ここまでは土曜日と同じ結果(写真**がCXBに張った写真です)
と判断なのですが、、、ここからです。
ちょっと勇気を出して、「HEX5H」に同じハンドル同じストリングを張って
みたのです。するとどうでしょう、張れました。そしてストリングハイトもティ
ラー差も、ノッキングポイント高さも「NX−X」とほぼ同じです。センター
ショットはスタビが少し左を向きましたが、問題のない範囲で通っています。と
いうことで、「HEX5H」の実射テストができました!
ここで疑問。手持の「HEX5H」は「68」で「CXB」は68でない
(66)と考えていいでしょうか? この答えは最後になるのですが。。。
なかなかいいリムです「HEX5H」。好きです。今風です。ぜひWoodコア
を射ってみたいですが。で、最初まったく同じセッティングとサイト位置で
50mを射ちました。むちゃくちゃサイトが上がりました。1センチ以上あがっ
ての右上です。ただし、このリム「68−40」表示ですが、「NX−X」と同じ
リム角度だと「44」ポンドくらいあります。(スケールは持ってませんでし
た。)サイトが上がったのはポンドのせいもあります。スタッキングポイントは
結構深いと思います。奥は硬くありません。ただ逆に引き出しは硬いです。f−x
曲線でいえば立ち上がりが大きく、スタッキングポイントが深く、エネルギーを
大きく取っているのでしょう。どちらがいいかは好みですが、飛ぶことは事実です。
ここからポンドを今の「NX−X」に合わせるためにリムを寝かせていって気づい
たのですが、このリムが表示より高いポンドになっているのではなく、
「HEX5H」が多分寝かせることが前提でポンド表記をしている気がします。
結果、ネジを「3回転半」緩めてほぼ同じ感じになったのですが、それくらい寝か
せた方がいい感じです。理由はリカーブが極端に大きく湾曲しているので、普通
のリムのようにリム自体が起きているとリム根元の硬さだけで、一番大事なリ
カーブが伸びるには至らないのでしょう。そのため、リムをある程度寝かすと、
自分では見えませんがリム全体のしなりとリカーブの伸びが作られるような気が
します。その意味で、長さはともかく、ポンド表示は間違っていないような気は
します。
また、そこまで寝かせても張った状態では特に寝ている感じはなく、問題ありま
せん。(写真**です)ほぼ同じドロー感覚ポンドで50mで約8ミリサイトが上
がりました。速い感じはありません。今風の、そしてコンパウンド風の発射感で
すが、矢には抑えが効いた感じがあり不安定さはありません。
ドローイングは立ち上がりが硬いのと、奥はよく言えばスムーズ、悪く言えば手
ごたえのない感覚です。エイミング時の微振動は少しサイトに戻ります。
と、今日はここまでなのですが、もう少し本気で射ってみようと思うリムでし
た。(写真**)50mでこのくらいはチューニングなしで集まりました。右の
穴は高さだけ修正しての最初の左右位置です。たぶんまだポンドが高く、右に行
くのだと思います。
で、最後にこのリム、68のストリングを張った状態で「きをつけ」の状態で弓
を立てると、上のチップが「唇」までです。これはこれまでのリムでは「64」
インチの弓です。「68」インチは鼻からほとんど目の高さになります。
どう思います??? 確かに長さは図面での展開上の長さで、基準はあってない
ようなものですが、、、68のストリングでも66の高さです。これは先のリム
を寝かすことと同じように理解するべきでしょうか? フルドロー時はリカーブ
が伸びているのでしょう、指の角度は特にきつくは感じません。68です。
面白い経験です。
メーカーはこのリムを68であり、角度は寝かすようにというのでしょう
が・・・ それは了解したとして、、、「CXB」は張れないんだから、
「66」じゃないでしょうか?
とりあえずは54射の感想です。

 
 弓の性能を語る時、仮にドローレングスが28インチだとして、「40ポンド」表示の弓を使うとします。この時「64インチ」「66インチ」「68インチ」の3種類の長さの弓(リム)を用意したとします。「64”−40#」「66”−40#」「68”−40#」です。これらのリムを同じ28インチドローで射てば、どれも70mは十分に飛んで的にも当たります。だからどれでも同じで、68インチが一番フルドロー時のストリングが作る角度が大きいので、指の掛けが楽で安定する、、、から「68インチ」という発想が今です。確かに性能を無視して、素人に弓を薦めるには安易で簡単で納得させ易い方法です。
 ではなぜもっとしっかり指が掛かる「70インチ」を薦めないのか。在庫がないからかもしれません。しかし、70インチでは70mを飛ばすには目に見えて(素人にも分かるくらい)矢に勢いがなく、サイト位置が低くなりすぎるからかもしれません。それを考えれば、ストリングの角度以外に、68インチと66、あるいは64インチでは違いがあることが分かるはずです。それが性能なのです。例えばリムの短い弓の方がよく(速く遠くに)矢は飛びます。同じホールディングウエイトで矢が速く飛べば、滞空時間も短く弾道も低くなります。同じ条件で、風の影響を受け難くなるわけです。これは大きなアドバンテージであり、弓の性能から得られたメリットに他なりません。このメリットを指の角度と相殺してそちらを選んだのならそれはそうなのですが、気をつけなければならないことは弓の長さは単なる「外観」であり性能ではないということです。もしこの外観が性能に影響を及ぼすとするなら、それはドローレングス以外にはありません。ドローレングスにより弓の長さは決まるものであり、よほどの身体的、精神的アドバンテージを有しない限り指の角度でドローレングスを選択するのはインドア競技だけです。
 そんな「性能」(リムの特徴)を決定付けるものは何かといえば、素材であり組み合わせであり、形状です。それらこそがメーカーの持つノウハウであり、技術力であり、弓への考え方なのです。
 ところが、ここに来て近年、大きな問題が起こりました。メーカーが決して開いてはならない「パンドラの箱」を、自らの手で開いてしまったのです。最初はヤマハ追撃の切り札だったのですが、それを逆手に韓国メーカーが参入してからは、自業自得では済まない大問題です。
 すべてのアーチャーにその弓が持つ性能を平等に分け与えるには、性能を決定付ける条件が守られなければなりません。その最大の絶対条件は、ハンドルに対するリムの取り付け角度です。ハンドルとリムが昔のワンピースボウのように同じ位置で固定されていて、初めてその弓の性能が担保されます。(性能を担保する条件には「ストリングハイト」も含まれるのですが、こちらは動かす範囲が限られるため影響が少ないというか、逆に微調整のために使うことになります。)ところが今のハンドルはそこが可動式になっているばかりか、「ユニバーサル方式」や「ILFタイプ」の名の下、同じメーカーのリムとハンドルが必ずセットされる保証すらもなくなったのです。また、同じメーカーのハンドルとリムであったとしても、メーカーはその適正な位置(デフォルト位置)を説明していません。それに加えて、ほとんどのメーカーは「10%のポンド調整可能」とも自慢します。当然、表示ポンドやモデルによって異なりますが、表示40ポンドのリムでは「4ポンド」強さを変えられると言っているのです。非常に大雑把な言い方をすれば、ポンド調整ネジ(リムボルト)「4回転」相当と考えればいいでしょう。大体「1回転=1ポンド」です。移動幅でいえば「1回転=約1ミリ」とすれば、根元で4ミリ角度が変わることになります。
 これに調子付いたメーカーは、「2ポンド」もの強さの幅をリムにも与えました。4ポンド調整可能なハンドルなら、どのメーカーのリムでも2ポンドくらいは楽に調整できるという訳です。これで在庫は半分になり、歩留まりは一気に向上です。
 どのハンドルとどのリムを組み合わせても、ハンドルの可動範囲内でリムに表示されたポンドが得られれば、それでOKというわけです。クレームでも、表示間違いでもありません。ただしこうなれば、すべての状況で本来の性能を担保することはまったく不可能です。メーカーは責任とプライドを放棄したも同然です。4回転のポンド調整は、弓を引くまでもなく、ストリングを張った状態を見ただけで全体のカーブが「何か変」と見える範囲です。
 そこで話を戻します。最初これまで「NX-X」用にセッティングしていたリム角度そのままで「HEX5H」をセットしたのです。するととんでもなく強く(ポンドが高く)、自分が使える範囲ではありませんでした。経験則でいえば44ポンド近い表示リムと同じくらいです。ここでも先の「CXB」の長さ間違い同様に、ポンド間違いかと考えたのですが、、、、
 4回転の可動範囲と2ポンド幅のリム、そして統一されていない基準角度の中では、もう何を話しても見えてこないのですが、仮に「40ポンド」のリム(表示ではありません。40ポンド表示のリムは「2ポンド幅」がありますが、38.1〜40.0の場合もあれば、40.0〜41.9あるいは39.1〜41.0の場合もあるのです。これはメーカーやモデルで異なります。しかしそれは公表されていません。そして基準角度も分かりません。。。)があったとして、そのポンドに性能が担保される位置があるとした時、それが締め込んだ位置(リムを起こした)か緩めた位置(リムを寝かせた)かは、メーカーやモデルによって異なります。この前提を理解したうえで。。。
 この「HEX5H」は「強い」(ポンドが高い)だけでなく、やけに「硬い」のです。経験則と個人的感じです。そこでひょっとしてと思って、ポンドを合わせるのもあるのですが、思いっきりネジを緩めてみたのです。最終的には「NX-X」のセッティングより「4回転」近く寝かせてみました。すると、使える範囲の強さになったこともありますが、それに加えて硬さが消えてきました。
 想像ですが、少なくともこのリムに関していえばある程度リムを寝かせた位置が表示ポンドを表す位置であると同時に、メーカーが発揮したい性能がそこにあるのではないでしょうか。メーカーに聞いたわけではありませんが、リムが起きているとリカーブがきついためリカーブそのものが伸びる(性能を発揮する)までには至らないようです。
 逆にこの締め込んだハンドルに再度「NX-X」リムをそのまま装備すれば、表示ポンドより4ポンド近く低くなるばかりか、リムが寝すぎて本来の性能はまったく発揮されません。初心者用の練習弓です。  (続く)

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