カーボンシャフトの作り方と日本のメーカーの意味(下)

 このカーボンシャフトは何かわかりますか?
 これが一番最初に書いた、皆さんのカーボンアローの表面にも見えるであろう「縞模様」の正体なのです。プリプレグのシートをマンドレルに巻く際、ここでも圧力は掛けられますが、それだけでなくその後にラッピングテープと呼ばれるちょうどセロテープのような薄いフィルムでプリプレグを上から締め上げるようにぐるぐると巻き付けていきます。このテーピングと呼ばれる工程によって外径が整えられ中の空気が抜かれます。そしてテープを巻いた状態で炉に入れて柔らかいプリプレグを硬いCFRPへと焼き上げるのです。
 できあがったカーボンシャフトを炉から出してテープを剥がすと、表面は写真のようにテープで締め付けた跡がデコボコとしているのです。オールカーボンシャフトやスタビライザーロッドだけでなく、EASTONのアルミコアシャフトも同様に作られ、最初からツルツルのカーボンシャフトではないのです。
 この後加工として表面を研磨するのですが、デコボコをなくす必要はありますが不必要に削り込むと表面のカーボン繊維が切れてしまいます。最小限の研磨とこの研磨を見越した厚さのプリプレグを表面には配してはいますが、どうしてもテープの跡が縞模様として残るのです。スタビライザーなどはデザインとしてカーボン風に仕上げるため、この後にカーボン模様やデザインのシールを貼ったりもします。リムも同じです。
 ここで気付かれたかと思いますが、ストレートのシャフトはいいのですが、EASTONのACEやX10といった「たる型」形状をしたシャフトは前後をより深く削ってたる型(葉巻型)にしなければなりません。もちろん繊維は切れますが、これらのシャフトに縞模様が見つけにくいのはそのためなのです。
そしてもうひとつ。この研磨は旋盤のように両端の芯を支えて行うのでなく、一般に「センターレス研磨」と呼ばれる中心を押さえるのではなくシャフト外側に砥石を回転させて行う方法で削ります。この削った粉をきれいに取り除いていないから、ACEやX10は新品なのに手が黒くなるのです。
 このようにアルミコアシャフトは値段が高いだけあって、手間が掛かっています。しかしそれは企業秘密でしょうが、シャフトに記される記号や分類などの複雑さからも分かるように、オールカーボンシャフトの真直性(真っ直ぐさ)と重さ管理以上に難しく、選ばれた12本1パックではあってもどうしても外れる矢が混ざるのは(あるレベル以上の技術を持たないと分かりませんが)これらの理由からです。
 ちなみにアルミコアもオールカーボンも同じですが、どうしても外れる矢は存在します。シャフトは完璧に真っ直ぐで、重さもばらつきなく、ハネもノックも真っ直ぐに付いている。にもかかわらず毎回同じ方向に外れる、という矢があります。もちろんあるレベル以上の技術と感性を持たないと分かりませんが、これは机上の測定では見つけられない精度と品質に由来します。
 昔、カーボンアローが登場した頃に言われていたことですが、「バスタブテスト」と呼ぶアナログな測定方法がありました。シャフトの両端をチューインガムで塞ぎ、水を張った風呂の中にシャフトを静かに浮かべます。そして、これを軸を中心に回転させてやります。止まった時に上に来た位置に印を付けます。これを何度か繰り返し、毎回付けた印が上に来るシャフトはおかしい(偏っている)というわけです。f-x曲線をバネ秤で書くような、現実的でない原始的な方法ではあるのですが、言わんとすることは非常に重要です。
 スパイン測定も同じですが、両端を支えて真ん中に重さを掛けて、たわんだ量がスパインです。ではこのたわみ量が同じであれば、同じところに矢は飛ぶかといえばそうではありません。この机上の測定は静的スパインであり、実際のシューティングに求められるのは動的スパインです。机上の測定時にシャフトを360度周方向からたわませているわけではなく、このことがバスタブテストの意味することなのです。
 バスタブテストはシャフトの円周方向での重さの違いと均一さをいっていますが、もう少し具体的にいえば円周方向でカーボン繊維の量とその配置が同じでなければならないということをいっているわけです。実際にこれを見分けるのは机上や風呂場での測定ではなく、実射がもっとも手っ取り早く確実で安い方法です。高いお金を払って買った商品に外れる矢があれば安くはないでしょうが、測定方法としては最も安い方法でありアーチャーが最も信頼できる事実です。ただし、「あるレベル以上の技術」とは、例えば70mで毎回同じ矢が10点に入る射ち方をしたにもかかわらず、9点に行く。あるいは10点の中で毎回同じ方向に外れるということが感覚的に認識できる技術です。決してお間違いのないようにお願いします。
 
 ここで前回最後の疑問の答えです。正解は、海苔が重なる部分はありません。もちろん隙間もありません。
 日本のプリプレグの精度や品質はもちろんですが、このシートを裁断してマンドレルに巻き付ける、そして焼き上げるといった最新の日本の技術は個人的に思っていたものより遥かに高いレベルでした。ノウハウも含め、全方向に対し均一なカーボンシャフトを作る技術は凄いものがあります。
 そこで「日本のメーカーの意味」として、いろいろな測定やアドバイスをもらうのですが、こんなEASTONのシャフトに関するコメントがあります。もちろんこれ以外にもデータなどもあるのですが、、、これだけ高いシャフトを買っている日本なのに、こんなことすらどの代理店も教えてはくれないでしょう。代理店も知らないのです、アメリカのメーカーの製品だからです。
 
>EASTON「ACE」はアルミコアに、シャフトの長手方向に配向したプリプレグを積層するシートラップ成型で、これは初期型でも最新型でも変わっていません。樽型にしているのは、積層数を一部で一層だけ増やしているだけです。「X10」は細いですが、プリプレグの積層数が多いです。細いので剛性を高くし難い分、カーボンの積層数を増やして剛性を高くしていると思われます。アルミコアの厚さは厚くなく、初期型とかの方がアルミは厚いです。製法としては、アルミコアにプリプレグを巻き付けて成型するので、至って単純です。
「Fatboy」は、「オールカーボン」ではなく、ガラススクリムクロスも使用しています。特徴は、積層数が少なく、上記とは異なり、周方向に繊維が配向するようにプリプレグを巻き付けていることです。ただし、これは単独で巻き付けるのが難しいために、ガラススクリムクロスと貼り合せて巻き付けています。最外層にシャフトの長手方向に繊維が配向されたプリプレグが積層されていますが、他よりも圧倒的に薄いです。それゆえ、太くても柔らかいシャフトになっていると推測されます。
 
 こんな短いコメントだけでも、思うことはいろいろあるはずです。
 そこで最後になりますが、今回の工場見学中だけでなく、これまでの会話の中に何度も出てきたことがあります。「カーボンとアルミ。金属を貼り合わすことは絶対にありません。」と現場の技術屋さんは口を揃えて言うのです。例えば最新のF22であろうがBMWであろうが、CFRPを使う製品でそれを金属に貼って使っているものは皆無です。○国の初期のカーボンハンドルがいくつもすぐに消えたように、剛性が異なる素材を貼って曲げれば剥がれるのは当たり前。熱膨張率がまったく異なる素材を引っ付けても、温度変化で自然に剥がれるのは当然です。
 ただしEASTONはアルミメーカーです。あれほど薄いコアのアルミパイプを作るのもすごいことです(たくさん作るから安くなるのですが)。アルミにこだわる理由は良く分かります。しかしこの業界の常識だけは知っておくべきです。アルミコアシャフトは耐久性が良さそうに思いますが、使っていてどうしても外れる矢が出てくることがあります。シャフトは真っ直ぐで、割れてもいないのにです。オールカーボンならクラック(ひび)が入ってて耐久性がないと思うかもしれませんが、確認はすぐできます。ところがアルミコアはアルミがへこんでもカーボンは復元します。しかし剥離を起こしたその部分は外からは見えません。射つ以外に確認ができないのです。だから最初からではなく、真っ直ぐでも、使っていて当たらなくなる矢が生まれるのです。道具のせいか射ち方のせいかを見分けるには、あるレベル以上の技術が必要です。
 見極めが必要なのは矢だけではありません。アルミより重くて太いカーボンハンドルが、CFRPのポテンシャルを生かしきれていないことも知るべきです。CFRP本来の性質や性能を生かせば、アルミより軽く、細く、それでいて強いハンドルができます。硬いだけでスピードの出ていない、そして壊れやすいリムも同じです。簡単にたわむスタビライザーもそうです。CFRPと銘打って、それはどう考えてもおかしいと感じませんか。
 まぁまぁ、悲しいかな日本にメーカーがないのですから。それはまた次の機会にしましょう。。。。

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