個人的な「感じ」−弓の剛性と弾性のこと

 「剛性」とは、曲げやねじれの力に対しての変形のしづらさの度合いのことをいいます。「弾性」とは、加わった力が取り去られた時、曲がったりねじれたりしていた形が元通りに戻る性質のことです。
 プールにある「飛び込み板」を想像してください。人が乗ればたわみ、飛び込めば元の真っ直ぐな板に戻ります。この板の剛性を高めるには、2つの方法があります。まず1つは、板のサイズを変えることです。厚くするか、幅を広くすれば、板は硬くなり曲がることはなくなります。剛性が高まったわけです。しかし、これでは弾性は高まらず、同じです。
もうひとつ剛性を高める方法があります。板の素材を変えることです。弾性の高い素材に変えれば、最初と同じサイズで板は硬くなり、なおかつ弾性も高まります。素材を変えない限り、弾性は上がりません。素材が同じでなら、サイズを大きくすれば剛性はアップします。
 リムの場合、剛性は強さや硬さ、弾性は反発力やしなやかさと考えればいいでしょう。これらは同じようで、違う性質です。
 例えば、ここに同じ「40ポンド」のFRP(グラス)とCFRP(カーボン)のリムがあるとします。どちらも狙っている時の身体に掛かる負荷は同じです。ところがそこから発射された矢は、CFRPのリムの方が圧倒的に速く飛びます。CFRPは非常に弾性が高く、FRPの5倍から10倍くらいの弾性率を発揮するからです。しかし、CFRPといっても、実際にはどんな素材が使われているかは非常に重要な点です。CFRPと呼ばれても、中身によってはFRPとCFRPほどの違いも存在します。あるいはその素材の性能が100%矢に伝わるかといえば、それも違います。一般には60〜70%とも言われますが、どれだけ矢速に反映できるかも、リムの性能(形状や素材の種類や組み合わせ)にかかわってきます。
 周りにある初心者用や練習用、備品用の弓を思い出してください。ワンピースボウ、テイクダウンに限らず、それらのリムは必ず幅が広いはずです。場合によっては、低ポンドなのに分厚いはずです。
 理由は簡単です。同じ素材であれば、厚いリムの方が剛性は高くなり、曲がり難く(強く、硬く)なります。また、幅の広いリムの方が「ねじれ剛性」は高まり、ねじれ難くなります。「低価格」と「耐久性」を最優先に求められるそれらのリムは、FRP(グラス)製です。高価なCFRP(カーボン)は使わず、性能は無視して1枚のFRPを貼り合わすことがほとんどです。その1枚もコストダウンのために剛性や弾性の低い(安い)素材を使います。この時、練習用であるがために弾性が高い必要はないのですが、ねじれ剛性は確保しなければなりません。ねじれたり簡単に折れては困るからです。そのためにFRPは同じで、芯材の幅を広くしたり厚くすることで、剛性アップを図っています。また、ほとんどの場合が決して安くはない木芯(天然木)を使うのは、フォーム(発砲材)より剛性、弾性ともに高いからです。
 では競技用はどうでしょう。「HEX5H」を使っていると、それを見た周りの人が「リカーブ形状」の次に言うのが、リム幅の「細さ」です。特にリカーブからチップに掛けての細さは市販品の中では最も細いかもしれません。このリムは「40ミリ幅」を、まだもう少し削り込んでいます。今もほとんど多くのリムは「45ミリ幅」です。この言葉は一般には使いませんが(というか、ヤマハの現場で使っていた名称です)、40ミリや45ミリは製品の幅を言っているのではなく、張り合わす前の素材段階での幅を称して、そう呼んでいるものです。どちらがいいというものではないのですが、昔のワンピースボウの頃からどのメーカーも多少の違いはあっても「45ミリ幅」です。ヤマハもHoytもです。
 先の初心者用のリムも、剛性アップのために必ず45ミリかそれ以上の幅のリムです。しかし、競技用や上級者用は違います。こちらはある程度の性能(スピードと剛性のバランスや耐久性)が求められるため、CFRP(カーボン)が多様されます。初心者用と同じ素材ではありません。いろいろな性質の板を組み合わせ(貼り合わせ)ることによって、高剛性、高弾性、高強度などの特徴(性能)を持つリムを作ることができ、幅の狭いリムも可能になります。ヤマハでも「40ミリ幅」の試作や選手対策用のプロトタイプを作っていました。そして、今も幅の狭い競技用リムはあります。
 プラスチック定規の根元を持って、先端を弓なりに引っ張って曲げてみてください。定規全体がきれいにたわむのではなく、根元側が最も曲がるはずです。同じ素材で同じ幅なら、全体を美しいカーブにすることはできません。そこで必然的に先端を細くする(テーパーをかける)ことで、全体をたわませることができます。アーチェリーに限らず、古来からの多くの弓がそうなっているように、これは先達の知恵なのでしょう。
 今回「HEX5H」のリム幅が狭いのも、リカーブ部分の形状から通常の幅ではリカーブが硬くなりすぎるのではないかと想像できます。しかし以前に書いたように、リムの先端をひねったり上下にたわませてみると、個人的な感じでは、十分な剛性と共に適度な柔らかさ(しなり)があることも確認できます。
 余談ですが、リム幅が狭いと空気抵抗が減って矢速がアップするというアーチャーがいます。それはリムの重さが反発力に影響するので軽いリムが良いというのと同じくらいに、性能(矢速)に対しては意味のないことです。
 リムの場合お決まりのサイズに対して高性能(高弾性や高剛性)な素材を使ったのでは、とんでもない強さ(高ポンド)になってしまいます。寸法ありきではなく、40ポンドならその強さに対して性能を保持できるサイズや形や組み合わせがあってしかるべきであり、それが最も重要な点です。常識的に考えても、高性能な素材を使えば、薄くなったり細くなったりするものです。高性能が本当に弓全体の性能に寄与するのならですが。  (続く)

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