異なるモデルや異なるメーカーで、リムの重さを比較してもまったく無意味です。例えば芯材(コア)がウッド(天然木)かフォーム(発泡材)かで、重さは異なります。スカーフ芯の形状や素材でも違います。もし、軽いリムが高性能というなら、フォームコアが軽いに決まっています。では発泡スチロールと木の板で、どちらが強度があり、粘りがあり、反発力があり、耐久性があるかでしょうか。折箱を例に出さなくても、想像しただけでも分かることです。 |
そんな「軽さ」同様に、弓の性能を「速さ」ばかりで強調するアーチャーがいます。しかし矢速の速いリムを作るのは、そんなに難しい仕事ではありません。現在のリムの原動力(矢を飛ばす力)はCFRPです。CFRPの外観は、ちょうど黒いプラスチック定規のような板です。そこで、プラスチック定規で消しゴムを飛ばすことを想像してください。 |
同じたわみ量(弓ならドローレングス)なら、長い定規より短い定規の方がよく(速く)飛びます。ただし短すぎると硬く感じます。長すぎれば柔らかくても、的を狙うには弾道も高く思ったようには飛んでくれません。これが適切な弓の長さ(ドローレングスに対しての)が必要な理由です。ところが昔は消しゴムを当てる的が2m先だったのですが、今は50センチ先になったのです。実際の競技で的が近付いたのではなく、カーボンアローという道具のおかげで、的が近づいたのと同じ状況になったと理解してください。すると、たった50センチ先でいいなら、どんな定規でも長さでも的までは飛ばせられるのです。ぺらぺらの定規でも飛びます。技術も強さも、性能も経験も要りません。誰でもが的に矢が乗るようになったお陰で、みんな自分が上手くなったと錯覚するのです。 |
しかし、飛ばすことと当てることは違います。当てるには技術も性能も必要です。それが同じなら力の強い方が有利です。ではここでは、技術と力が同じとしてみましょう。(矢に性能差があるように思っているかもしれませんが、確かにアルミ矢とカーボン矢には性能差は歴然とあります。しかし、カーボンアロー同士であればアルミコアでもオールカーボンであっても、それは性能差というより自分に合っているか、スパインの選択が良かったかの問題の方がはるかに大きいのです。)すると的中の差は定規の性能になります。リムの「性能」とは何でしょう。性能=「速さ」はあまりに短絡過ぎます。 |
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Borderのリムを使っていると、練習場でも試合場でも派手なデザイン(模様)のリム以上に注目されます。そして多くのアーチャーが特徴的なリカーブ形状について聞いてきます。試合場でいちいち答えるのも大変なのでこれを書いているのですが、「それだけリカーブが強かったら(反り返っていれば)、矢速が速いでしょう。」的なことを自慢げに言うアーチャーがいます。リカーブとは本来の曲がりとは逆に曲がっている形状であり、飛ばすだけならむしろマイナスの形状です。野球でもボールを投げる時、素人は思いっきり手を振り回すだけです。それに対して、コントロールのいいピッチャーは手首を効かせて投げます。もちろんスピードもありますが、それ以上にスナップを効かすことでボールに抑えが効き、より正確に安定したボールが狙ったところに投げられるのです。リカーブとはスピードではなく、的中のための安定を作り出す形状なのです。 |
この時、たしかに「速さ」も必要です。しかし速いだけのリムは使いこなすのも大変ですが、使えたとしてもミスを拾いやすかったり、より大きなミスを招く可能性もあります。速さを生かすには、それに見合った捩れ剛性であったり安定性やしなやかさや収まり具合など、全体の調和や完成度がもっと重要なのです。そしてアーチャーの技術や人との相性も必要になります。そこが機械を機械で発射するコンパウンドとの違いであり、人が射つリカーブボウの性能なのです。 |
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では滑車の付いていないリカーブボウの速さを少し考えてみましょう。リカーブボウの場合、そのエネルギーはリムで作られ、そのほとんどはCFRPから生まれると言いました。ヤマハ亡き後、現在ではどこのメーカーも既製品のCFRPを使っています。ジャンクやチープな素材も含めて、ともかくはリム用に最初から設計したものではなく、出来合いの素材を使って組み合わせています。そこでここでは繊維の質や量は無視して、カーボン繊維の方向についてだけ話します。 |
大きく分けてCFRPには「ロービング」と「クロス」と呼ばれる素材があります。ロービングとは一方向の繊維のみをプラスチックで固めた素材を指し、クロスとは布のように立て横に編まれた、あるいは重ねられたカーボン繊維を固めたものです。そこで非常に大雑把な説明ですが、例えばカーボン繊維を糸だと思って、それが10本あるとします。これでCFRPを作ると、左がロービング、右がクロスのCFRPということになります。実際にはこの糸を固めるプラスチック樹脂の反発力や強度があるのですが(これこそが定規の部分です)、ここではそれは無視します。 |
ロービング |
クロス(直交クロス) |
まずロービングの繊維方向をリムの長さ方向に使ったとしてください。ここでは上にチップがあり下方向がハンドルの差込部分です。リムの根本からチップに掛けて繊維が走っている状態です。 |
このリムの反発力を「100」とすると、横(直角)方向の反発力は「0」です。実際に横にたわませるとペキペキと折れるわけです。このことは横方向にロービングを使ったなら、その繊維はまったくリムの反発力には寄与しないことを意味します。わかりますか。反発力も強度も繊維方向が最大であり、それが重要なのです。となれば、リムの長さ方向にロービングを配すれば、最も反発力が得られ矢速の速いリムが作れるのです。繊維量を増やせばポンド(引き重量)が上がってしまうので、繊維自体の性能の良い(グレードの高い)反発力の大きい素材を使えばスピードは簡単に上げられます。 |
では、なぜそうしないのか。確かに1970年代に初めて登場した頃のカーボンリム(この時はCFRPだけでなく、FRPとのコンポジットでした)や今でもノウハウのないメーカーが作るリムがそうなのですが、スピードを求めてロービングを多用するリムは、ねじれ剛性が不足します。使っていてねじれ易いこともありますが、発射した時に安定感がなく、方向性が定まりません。また硬さだけが強調されて、奥の硬さもそうですがエイミング時の振動を拡大させたりもします。 |
矢の方向を決めるのは発射の勢いではなく、発射台そのものです。ではどうするかといえば、CFRPが同じであるなら、リム幅を広くしたり、芯材(コア)を工夫するしかありません。しかしそれだけでは、今のCFRPの強力なスピードをコントロールできません。必然的にCFRPの中身を変え、CFRP自体が安定を持つことが必要になります。 |
右のクロスを見てください。ロービングでは10本使われていた縦方向の繊維を5本に減らして、横方向に5本入れました。こうすれば、リムの反発力はロービングの半分(50)になりますが、横方向にも「50」の力が得られます。これでリムは縦割れを起こさず、強度を得ると同時にねじれにも強くなります。しかし実際のリム作りで、このような使い方はほとんどしません。なぜならリムは細長いからです。4センチ程度の幅に対して、長さは60センチ以上もあります。 |
上のように、縦横90度に配したクロスを「直交クロス」と呼びます。しかしリムには、ほとんどの場合「斜交クロス」を使用します。斜交クロスとは、もともとのCFRPは同じで切り方(使い方)を45度斜めにしたものです。 |
斜交クロス |
リムに貼った時に繊維が「+」ではなく「×」45度斜め左右に配されます。リムが細長いために、直交はほとんど意味を成さず、斜交を使うことでねじれへの強さ(ねじれ剛性)と全体の強度を得ることができるのです。しかし反発力だけを考えれば、ロービングの半分(50)です。 |
ロービングを多用したり、カーボンを増やせばスピードは簡単に出ます。とはいっても、リムはロービングだけ、あるいはクロスだけで作られるのではありません。これらの組み合わせに加えて、芯材(コア)やリム幅、リカーブや全体形状が重要になります。特に芯材は、プラスチック定規なのか発砲スチロールなのか天然木なのかは、CFRPを支えるうえでも非常に大切です。ねじれ剛性もあり、反発力があっても、矢に抑えが効き、エイミング時の振動も吸収し、安定感があり、ストレスなく使い心地が良いなどなど。。。。これらすべてがリムの性能であり、メーカーのノウハウと愛情(ポリシー)なのです。それがなければ、世の中にいっぱいあるカンカン、シュンシュンのリムができあがるのです。 |
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ところでもうひとつ余談。最近のリムやハンドル、そしてスタビライザーなどの表面にカーボンクロスらしき模様が見えるものがあります。多くのアーチャーはこれが本物のカーボンと思っているようですが、実はこれらの多くは「もどき」のシートであり印刷です。昔、専門家にこの見分け方を聞いたことがあるのですが、きれいに目が通っているのが偽物で、本物は目が飛んでいたり潰れているところがあるとのことでした。美しいものには棘がある。美しい外観に騙されないように注意しましょう。デザイン(表面)と性能(中身)はまったく別物ですから。 |
(もう少し、続く) |