個人的な「感じ」−弓の素材のこと

 1972年テイクダウンハンドル、1975年ケブラーストリング、1976年カーボンリムとアーチェリーの世界は新しい製品の登場が世界記録と高得点を導き出してきました。それは世の中の最新ハイテク素材の先取り(実用化)であり、それだけ道具に依存する割合が高いスポーツともいえます。そしてこれらの最新、高性能素材は、当然のようにひとつの道具に留まらず、多くのものに使われていきます。
 例えば、今の世の中に不可欠の高剛性、高強度、高弾性、超軽量の「カーボン」素材も、アーチェリーにおける最初の登場は1975年のカーボンロッド(スタビライザー)からであり、翌年にはカーボンリム、1978年にはエクステンションバーに、そして1987年にカーボンハンドル、1989年にはカーボンアローへと派生し、今ではアーチャーの使い勝手の良さであると同時に高得点への不可欠の道具となっています。
 ところが、そんなアーチェリーの進化と高得点への歩みの中で、2つの素材だけが目的を異にします。新素材ではあっても、「性能向上」とは言えないという意味です。それが「アルミ」と「フォーム」です。
 1972年、それまでの木製ワンピースボウを完全に駆逐することになる「テイクダウンボウ」の登場は、分解式であることからの持ち運びの便利さだけでなく、グリップやリム、サイト、レストなどすべてのパーツを共通に同じ条件下で瞬時に交換できるメリットを生み出しました。この時の素材は「マグネシューム」です。最初1960年代後半に登場したテイクダウンハンドルは「アルミニューム」であり、それが普及に至らなかった最大の原因は重さでした。木に比べてアルミは、あまりにも重過ぎたのです。ところが同じ金属で同じ製法であっても、マグネシュームは軽量であるばかりか、減衰率も大きく振動吸収性に優れ、強度もあるという高性能を持ち合わせていました。そんな高性能をゆえに、当然のごとく数年で世界を100%制覇したマグネシュームハンドルがなぜ、1980年代後半に再び登場した「アルミハンドル」に大逆転されることになったのか。決して、より高性能なアルミ新素材が登場したのではありません。単にメーカーの都合であり、コストダウンのメリットからなのです。
 ちょうどその頃、素材ではなく、それを加工する機械としての「NCマシン」(NC製法)が世の中に登場したのです。それまでの溶けた金属を型に流し込んで成型する方法(ダイキャスト製法)とは異なり、ハンドル1本1本をアルミの棒から削り出すというものです。それもコンピューター制御で、データを書き換えれば形状やデザイン変更が現場で簡単にできるというのです。NCマシン自体は数千万円でも、マグネシュームのように数百万円の金型をいくつも作り大量生産でコストを回収する必要はありませんでした。少量多品種といった製品には小回りの効く便利な道具です。このメリットを最初に活用したのがコンパウンドボウであり、そのメーカーでした。モデルチェンジの激しい、それでいてモデル数の多い、そして強度不足などにすぐ対応しなければならない、コンパウンドボウにとっては最良の機械が登場したのです。それに幸いなことにコンパウンドアーチャーは、アルミの重さなど気にもしませんでした。これを期に多くのNCマシンを導入したメーカーだけでなく、1台のNCマシンがあれば町工場でもリカーブのハンドルメーカーに誰もが簡単になれる時代に突入したのです。
 それを確実なものにしたのが、2002年のヤマハ完全撤退です。マグネシュームの金型を作れる、大量生産による低コストを目指した大企業の撤退は、アーチェリーの世界をアーチャーの意向とは無関係にNCマシンへと移行させてしまいました。決してアルミハンドルは、リカーブボウにおいての高性能への進化ではありません。しかしそんなメーカーの都合であっても、アーチャーに見える部分は「アルミハンドル」の台頭でしかないのです。
 もうひとつが「フォーム」コアと呼ばれる合成樹脂の「発泡材」が、それまでの自然の木材からできた「芯材」に取って代わろうとする現実です。すでにフォームもアルミ同様にそれまでの木を完全に駆逐する勢いです。しかしこれもアルミ同様にメーカーの都合とコストダウンでしかありません。
1990年代前半、NCマシンによるアルミハンドルが台頭しだす中、最初のフォームコアリムは登場します。最大のメリットは、自然の木材より合成樹脂の方がはるかに安いということです。それに加えて、良い木材が入手できなくなったことも事実です。
 芯材とはいえ、どんな木でも良いというものではありません。高性能なカーボン(CFRP)に隠れがちですが、それこそリムの「芯」になる重要な部分です。以前ヤマハが芯材に使っていたカエデ(メープル)の1枚板を専門家に見せたことがあるのですが、驚かれたことを覚えています。こんな木は手に入らないというのです。ピアノメーカーであり多くの木材を保有する大企業だからこそ、こんな良い部分を自前でアーチェリー用に切り出せるというのです。現に天然木にこだわっていた他のメーカーでは、複数の幅の狭い板を樽のようにわざわざ貼り合わせて芯材を作っていました。それは性能というより、1枚板では調達できない事情もあったのです。そしてこちらも2002年、世界標準を失ったアーチェリー界は何でもありの時代へと突入していきます。
 フォームコアの性能を「軽さ」でいうアーチャーがいます。そこから生まれるスピード(矢速)が性能だというのです。しかしこの部分での重さはスピードには無関係です。接着力や耐久性で語るアーチャーもいます。しかし、それならなおさら合成樹脂が天然木に勝てるとは思えません。コンビニ弁当と平等院の、、、、
 
 と、ここまで書いていたら、ちょうど待ちに待っていた荷物がスコットランドから到着。「HEX5」のウッドコア(木芯)モデル「HEX5W」です。
 今の世の中、ウッドコアモデルが減る中、そのほとんどがグラスリムや中級者向けモデルになりつつあります。そんな中で同じモデルでフォームコアとウッドコアがある数少ないモデルが、この「HEX5」の「H」(フォームコア)と「W」(ウッドコア)です。その意味で同仕様(たぶん)で射ち比べられるのを、楽しみにしていました。
 「フォームコアとウッドコア、何が違うの?!」といった質問をよく受けます。すいません、射つ前に個人的な「感じ」を先に言います。やっぱり「フォームコア」は嫌いです。というか、「ウッドコア」の滑らかでしなやかな感覚はいいです。射った時の「カンッ!」というあの感じ、今のアーチャーはそれしか知らないでしょうし、それが当たり前と思っているでしょうが、、、どうがんばっても発泡材が木のしなやかさと粘り、腰の強さと反発力、そして耐久性を上回ることは現時点では不可能と信じ込んでいます。逆に言えば、軽い粘りのないフォームコアだからこそ、多くのモデルがあんなカンカンしたリムに仕上がってしまうのです。(すいません。40数年射ってきて、そんな先入観の中での個人的な「感じ」です。マグネのおとなしさと静かさ、ウッドの安定感と落ちつきを体感できない現状では、昔話と思ってもらっても結構です。)
 外観はロゴマークの色が違うだけで、どちらも「68−40」(今回70インチのリムも頼んでみましたが)です。ストリングも同じ、ねじり回数も同じでまったく同じストリングハイト(8 -1/8インチ)になりました。ティラー差もほぼ同じです。最終的には少しセンター調整をしましたが、同じ状態でも気にならない程度にセンターが通りました。ポンドも引いた感じ、同じ差込角度でピッタリです。こんなことは本当に珍しいことです。
 重さは手で持った感じ、明らかに「W」が重いです。とはいっても、ウッドリムの重さです。リムの形状は、同じプレス型を使っていることがわかります。ただし、「W」の方が「H」よりサイド面の削りが少なく、心持ちリム幅が広くなっています。参考までですが、今回「HEX5H」のHoytFormula用の最新リムも送ってもらったのですが、写真でもわかるように「H」と「W」の違いがあっても、リカーブ形状はまったく同じで根元部分の切り落とし長さが違うことが一目瞭然です。どのメーカーもやることは同じです。
 どちらにしても先の「H」も今回の「W」も、このモデル自体がだいぶ強めにポンドが出るように(意識的にリムを寝かすように)作ってあります。他メーカーリムに比べれば、同じ差し込み角度で使えば、表示ポンドで2ポンドくらい強いかもしれません。
 そんなことを思いながら、1時間ほどでセッティングもできたので、あとは実射です。
 射ちました。「H」は10月から3ヶ月使ってきたので、アウトドア、インドアともに試合でも使いましたが、ちょうど今回はインドアの試合が4日後だったので、アルミ矢のチューニングからはじめ、その後アウトドアでカーボン矢もテストしました。
 個人的な「感じ」ですが、正直やはりウッドコアの方がいいです。カンカンした感じがなく、木の感触です。射った時もそうですが、ストリングを弾いてみるだけでブン(?)って感じです。そのぶんシャープさは薄らぎますが、落ちついた感じです。捩れ剛性やしなりの感じは、そんなに変わりはありません。奥も非常に柔らかくスムーズなリムです。何よりも気に入ったのが、「H」で一番気になっていた奥の柔らかさ(やけにスムーズ)がちょっと違うのです。決して硬くはないのですが、狙っている時の落ち付き感がいいです。
 先入観とは別で、これは「好み」です。どちらもいいリムですが、もしノーマークの「H」と「W」が置かれていて、射ち比べてどっちを使うと言われたら、無条件に「W」を選ぶであろうくらいの違いがウッドとフォームにはあります。  (続く)

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