すごく大事な「弦サイト」のこと

 コンパウンドにあって、リカーブにないものは? 「ピープサイト」。では、リカーブにあって、コンパウンドにないものは? 「弦サイト」です。にもかかわらず、「弦サイト」(String Sight)という言葉すら知らないリカーブアーチャーがいます。言葉を知っていても、実行しない当たらない多くのアーチャーもいます。
 では、弦サイトとは何か? の前に、コンパウンドでは「ピープサイト」と呼ぶストリングに取り付ける「のぞき穴」があります。多くのアーチャーは、ピープサイトがコンパウンドボウと一緒に生まれた道具と思っているでしょう。その理由のひとつに、リカーブボウではピープサイトの使用が認められていないからです。ピープだけでなく、照準の助けとなる付着物(印)をストリングに付けることはできません。
 しかし実際には1960年代後半まで、リカーブボウにおいてもピープサイトが一般的に使われていました。PAAなどの団体ではFITAが禁止した後も認めていました。
 コンパウンドが発明されたのは1969年です。ピープはリカーブと一緒にあったのです。
 では、ピープサイトは何なのかですが、リカーブでピープサイトが認められないのは、「ダブルサイトが禁止」という意味です。例えばライフルにしてもピストルにしても、銃身の先に照星(凸)と手前に照門(凹)がありこの2つの照準点を合わせることで狙いを定めます。これによって的中精度は飛躍的に向上します。しかしリカーブアーチェリーの場合、このように2つの照準点を持ってはいけません。それがダブルサイト禁止の意味であり、ピープサイトは手前の照門にあたります。
 では1つの照準点(サイトピン)だけで的中精度を高めるにはどうすればいいのか。ルールに抵触しない範囲で、極力2点照準の状況を作り出すことが、当てるための必須条件になります。弦サイトはコンパウンドになくてリカーブに必要な道具ではなく、必要な技術(ノウハウ)なのです。
 ピープはストリングに空いた穴からピンを合わせてゴールドを狙えばいいだけですが、リカーブの弦サイトはもっと難しい技術(テクニック)になります。ただしここでもう1つ大事な技術があります。それは「アンカー」です。ピープの場合、穴の真ん中にサイトを合わせることで上下左右が同時に固定(?)されます。しかしリカーブではストリングの中の点からから狙うことができないため、上下と左右に分けて行うしかありません。その上下の固定(安定)があごの下に収まった「アンカー」です。アンカーは「錨」であり、そこにしっかり下ろすことで上下の安定が図られます。人差し指があごから離れたり、あごにかぶったりして毎回上下がずれれば、的中位置も毎回変わることになります。ただ、アンカーは他人からも見える部分であり、指導マニュアルにも載っている技術なので、注意や指導がしやすい部分です。
 ところが、左右を決定付ける「弦サイト」は、それがちゃんと行われているかどうかは本人の目にしか映らず、マニュアルにもあまり載ることがありません。そのため他人がそれを見極め、指導するのが非常に難しいのです。
 そこでまずは自分で確認してください。あなたは的をサイトピンで狙っている時、目の前に来るストリングはどこにありますか?
 これを合わせることが「弦サイト」なのですが、あなたはストリングのどちら側からサイトピンを見ていますか?
 昔は日本のアーチャーの80%以上はストリングの右から狙って↑いました。最近は少し減ったかもしれませんが、それでも右から見ているアーチャーの方が多いでしょう。
 右でなければならないことはありません。アメリカのアーチャーでは、ほとんどがストリングの左からピンを見ているはずです。これはその国のマニュアルにそう書かれているからだけであって、基本的にはどちらでも一定していれば問題はありません。右から見た方が、真っ直ぐ的と向き合えるメリットがあります。左からだと伸びやすいというメリットがあるでしょう。これは最初にどう教わったか、あるいはどうしていたかだけの問題です。ただし、中級者以上になれば、どちらにしても、毎回同じ位置に合わせる必要があります。それができていないと上級者にはなれません。なぜなら的中精度に直結する重要な技術だからです。
 ではもう少し具体的に、ストリングをどこに合わせればいいのかですが、注意することがあります。弦サイトはあくまで「エイミング」(ピンをゴールドに付ける動作)を補助し、より正確なエイミングを行うための手段です。弦サイトに気を取られて、一番大切なエイミングがおろそかになるべきではありません。それに、人間の目は遠近両方に同時に焦点を合わせることはできません。ぼやけて見えるストリングを、サイトピンを見る動作の中で「無意識に」「自然に」合わせるものだと理解すればいいでしょう。最初は意識がいります。しかし、ある程度できるようになれば、エイミング時に自動的に無意識に合っているというのが正しい方法です。毎回一定の位置ある弦サイトと、しっかり固定されたアンカーによって、ダブルサイトが禁止されているリカーブボウにおいて正確な2点照準が作られます。
 一般的にはストリングを右に置く場合は、ハンドルのウインドウ部分。左ならサイトのリングから少し離れたくらいの位置でしょうか。ストリングにピープサイトが付いていない以上、ストリングとサイトピンを重ねることはできません。
 そこで個人的には。弓を始めた頃から、ストリングの右から狙うように教えられました。そのため、47年間ストリングはサイトピン左側にいつも見えます。その位置は、ハンドルの左側に少し隙間が空いたところです。もっと近いアーチャーが多いと思いますが、隙間を空けることで合わせやすく(見やすく)なります。
 また、そのためにもストリングは黒しか使いません。オシャレや見てくれだけで原糸の色を選ぶアーチャーが多いと思いますが、ストリングの色は弦サイトのためにも、そして的中精度のために重要な道具なのです。

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