もうちょっとグリップ

 スナップオングリップグリップの話はいろいろ書いていますが、、、
 人のことはどうでもいいのですが、自分のグリップだけは自分で100%満足しないと困ります。とはいっても、どこかにも書きましたが、ヤマハが最後に作った「MXグリップ」(その後は「NRX」と名前を変えますが)は自分の手に合わせて、なおかつ万人受けするように作ったグリップなので、これは30年たった今も100%自分にあったグリップで、今なお愛用しています。非常に良いグリップです。それが証拠に、このグリップを出した後HOYTをはじめ多くのメーカーがこれをコピーして、今なお韓国もコピーしているものが多くあります。
 そこでこのヤマハのグリップの裏話ともうちょっとグリップの話です。
 実は今回、愛用のPSE「X-Appeal」に取り付けているヤマハのグリップが、これも何個めかになるのですが磨り減ってきたのに加えてクラック(割れ)が出てきました。(サン・ピエトロのペドロの足のように、ほんとに使ってるだけで磨り減ってくるのですが) 原因はピボットポイント(グリップの一番深い底)付近の樹脂の肉厚が薄くなっていることに起因するのですが、理由は後で話します。
 それはともかく。試合中にでも割れてしまえば手のひらの肉が挟まって射てなくなってしまいます。そこで久々に同じグリップに交換しようとしたのですが、白いグリップの手持ちがなくなっていました。
 その前に、なぜPSEのグリップにヤマハのグリップが使えるかですが。PSEはコンパウンドの老舗中の老舗のメーカーで、HOYTなどよりはるか昔からコンパウンドを作っているメーカーです。(とはいっても、コンパウンドが発明された1969年からですが)それに対して、HOYTはコンパウンドでは後発でも、リカーブでは老舗中の老舗メーカーです。そこで最初のスナップオングリップを発表した1973年のモデルから独自の規格(サイズ)でグリップを作っています。それに対して、PSEがリカーブのハンドルを作り出したのは、1980年に入ってからでしょうか。その時PSEはリカーブの後発メーカーとして考えたのです。ずるいというか、賢いというか、金型に金を掛けず、それでいて当時世界でもっとも愛用されていたヤマハのスナップオングリップをPSEのハンドルにも使えるように、ハンドルのグリップ部分の厚さと形状をヤマハからパクッたのです。それ以来、オリジナルのPSEのグリップを持つ一方で、PSEにはヤマハのグリップが共通で取り付けられるというメリットが生まれたのです。PSEの作戦です。
 そんなわけで、愛用のヤマハグリップをPSEに取り付けて使っているのですが、ヤマハのグリップにも変遷があります。最初のYtslに装備されていたゴム製のグリップもYtslUに装備された樹脂のグリップも、実は日本国内では評判が良くありませんでした。その理由は、当時のヤマハは世界各国に弓を輸出していましたが、欧米人の大きな手には馴染んでも、日本人やそれに加えて女子アーチャーや高校生アーチャーには少し大作りすぎたのです。
 そこで作ったのが「MXグリップ」です。製品としては1982年に発表したEXハンドル用として作りました。それまでは自作で作って使っていたグリップを、ハンドルのモデルチェンジに合わせて再デザインしたのです。この時、手の当たるところは同じ形状ですが、それ以外の全体の形に世界で初めて「デザイン」を取り入れることを提案したのです。それまでのグリップは単にハンドルのサイズ(厚さ)に合わせてはめ込むだけの形でしたが、実際には手のひらが触らないところは押すこと(受けること)には無関係です。そこでそんな無関係な部分をもう少しお洒落にしたかったので、当時の意匠課その後「ヤマハデザイン」として独立する部署と研究課を交えて、新しいEXハンドルとそれに取り付けるMXグリップについて試行錯誤を繰り返しました。その結果が下部に少しアール形状を加え、不要なサイド面を逆アールで肉をそぎ落としたこのグリップです。その後Eollaハンドルにモデルチェンジする時、この下部のデザインはなくなりますが、手の当たる部分の形状は同じです。ということで、硬い樹脂になってからヤマハは3つの異なるデザインのグリップを持っていましたが、実はこれらの金型はすべて同じもので、そのつど金型修正を繰り返し生産を続けてきたのです。そのため、修正や金型の磨きによって今回のような部分的に肉厚が薄いグリップもあるというわけです。
 話を戻します。ヤマハのEollaやForgedに付けられていたグリップは、そのままPSEのX-AppealやX-Factorに取り付けられるのですが、その前のEX用のグリップはそのままではPSEには付きません。幅や奥の形状は問題ないのですが、外側のデザイン部分の形状が異なるからです。そこで今回は、Eollaのグリップの手持ちがついになくなったので、EXのグリップを加工してEollaと同じにしようという話です。盛る必要はなく、単純に削ってハンドルに合わせるだけのことです。
 「紙(布)やすり」だけでできる簡単な作業です。ただし、不要な部分を削るには少し時間と手間が掛かるので、今回はこんなハサミも使ってみました。まずはマジックペンで大雑把に切り取る部分を書き込み、ハサミで切り落とします。この段階ではグリップを奥まで入れて確認することはできないので、少しずつ削り取って、取り付けては確認することを繰り返します。
 大雑把に形ができてグリップが奥まではめ込めれば、後はやすりで荒削りと細かいやすりで仕上げの磨きを掛ければできあがりです。どうです、昔の「デザイン」が最新ハンドルで生き返りました。
 と、それだけの話なのですが、、、実はこれからも分かるように「グリップ」は見た目や持った感じ(引いた感じではありません)で印象が大きく変わります。それは先入観にもなります。しかし、実際のグリップの役目とは、引いた時に手のひらと親指のグリップに触っている部分のみで決定付けられます。ここを錯覚してはいけません。
 そのうえで、「良いグリップ」とはの話です。他でも書いていますが、10人いれば10の手があり10の射ち方があるのですから、同じものが10をカバーするのは不可能かもしれません。ただし、注意しなければならないのは、手はグリップに合わすものです。自分がこれと思ったグリップを取り付けたなら、そのグリップに手を合わせます。ということは、良いグリップであれば良い押し方(受け方)ができるということであり、大きさはともかくとして良いグリップなら10をカバーすることも可能です。そんなグリップを30年前に作ったのですが・・・。
 ただし、押し方ではなく手の大きさはいろいろあります。そこで「大きさ」と「滑ること」(テープまで巻いて滑らないグリップを作るアーチャーがいますが、良いグリップで正しく押せるなら、雨で滑っても手はグリップの中心に滑り込んでいくのですが)と、手に触れない「不要なデザイン」は除いて、グリップに必要な要素というか、グリップ選びのポイントを考えてみます。
 大きく3つが思い付きます。これらに優先順位を付けようとしたのですが、できません。これは3つとも重要であり、この3つすべてに満足があって初めて自分にとっての良いグリップということになります。ここでの妥協や不快感や悪いグリップの選択は決してするべきではありません。なぜなら、高価なハンドルやリム、そして矢を使っていたとしても、それらと「接する」唯一の部分(接点)がグリップだからです。
 
 まず最初に確認するのは、「リストの角度」です。
 手首の角度、そのまんまですが、俗にいうトップ押しやベタ押しと同義語のようで少しニュアンスは違います。最近は製品としてもあまりありませんが、同じモデルのグリップでいうなら、ハイリストかロウリストかミディアムか、ということです。手はグリップに合わせます。ロウリストのグリップでトップ押しは不安定です。ハイリストでベタ押しは、ピボットポイントを押せません。グリップに手を合わせたなら、それが一番押しやすく、受けやすく、そして最も手首にリラックスと安定が与えられ、不自然さと疲れがないことが必要です。これはグリップ全体の角度で決定付けられます。
 次に確認するのが、「グリップの太さ」です。これは持つ部分ではなく、押す部分、ピボットポイント(一番深い所)付近の幅のことです。ここは議論が分かれるというか、好みが分かれる部分でもあります。
 イメージで言うなら、グリップの代わりにアローシャフトを押すことと、スタビライザーロッドを押すことを想像してみてください。細い尖った点を押す感じが好きか、ある程度太い棒をしっかり支える感じが好きかといったイメージです。細いグリップを支持するアーチャーは、点を支える方がぶれてもそれが弓に伝わらないと言うでしょう。太いグリップを支持するアーチャーは、安定感と力強さを言うかもしれません。これは本当に好みです。ただどちらも大事なことは、手のひらがグリップにピッタリ合わさっていて、なおかつその面の中でピボットポイント(1点)が正確に支え、押されることが重要です。
 3つ目が「手のひらの形と広さ」です。これは手のひらの当たる部分の形状のことです。
 これも好みの部分ではあるのですが、最初のリストの角度やトップ押しなのかベタ押しなのか、どんな感じでピボットポイントを支え、押すのかで決まってきます。ただ、真ん中に滑り込む、あるいはその時にグリップが横にずれないといったことを思うと、例えば手のひらの生命線が当たる(引っかかる)部分の形状や親指の収まり方が重要になってきます。
 分かりますか。↑「上下」「前後」「左右」これらの3軸すべてが、自分好みでなければなりません。全方向を加味して自分に合ったグリップを選ぶか、作るしかないのですが、、、いつものとおり、良いグリップを見つける、巡り会うにはここでも授業料と経験則が必要になってきます。とはいっても、置いてある弓を見たり引かせてもらうのはタダです。ちょっと注意していろいろな市販のグリップを見て、引いたりしていると、最上級モデルや高価なモデルであっても「ちょっとこれは・・・」と思うグリップがあることにも気づきます。特に最近目に付いたのは、ピボットポイント部分の底に当たるところが縦方向に広かったり、普通に引いても自然に弓が傾くグリップがありました。
 自然にピボットポイントを真っ直ぐに押せる。手首にリラックスがある。支えていることに安定感がある。弓が傾かない。毎回同じように支え、押せる。雨でもずれない(グリップは滑ってもです)。などなど、もうちょっと、そんな良いグリップを探してみてはどうですか。もうヤマハのグリップはないのですから。。。
 それにしても、美しいグリップですね。

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