個人的な「感じ」−弓のモデルチェンジで余談

 先月には届いていたのですが、試合があったので試せませんでした。新しいマイリム、ニューモデルのBorder「Hex6-W」です。
 ヨーロッパでは6月頃から新デザインで販売されていたようですが、これが最終仕様の「プロセレモデル」というか、「68インチ40ポンド」の「W」(ウッドコア)です。実際の供給は来シーズンに向けての年明けくらいでしょうか。
 市販モデルのデザインは変わったようですが、プロセレモデルの外観は、相変わらずの白ベースに「5」とあえて同じデザインにしました。小さく記したモデル名が「5」→「6」に変わっただけの、ちょっと見だけでなく、よく見ても分からないデザインチェンジです。リムはロゴや模様で当たるものではありませんから、奇をてらわないこの姿勢とデザインが好みです。
 まずはストリングを張ってみました。が、意外。ストリングハイトが高いのです。「5」で8-1/8インチにセットしてあったストリングをそのまま張ると、「6」では8-1/2インチとほぼ半インチ高くなりました。そこで不思議に思って、ストリングを外してリムの形状を比べてみると、長さが違うのです。
 その前に、なぜ意外で不思議かというと、もちろんすべてのリムやモデルを見ているわけではないのですが、経験的にBorderのリムは不思議なほど「均一」なのです。使った方なら分かると思います。普通多くの場合、同じ長さ、同じポンド、同じモデルのリムを同じハンドルに張った時、例えばストリングハイト、例えばノッキングポイント、例えばティラーハイト、例えばセンター出しが異なる(狂う)のが普通です。これは決して良いことではなく、これが普通では困るのですが、現実は普通が結構当たり前になっています。ところが、Borderは同じハンドルにそのまま付け替えた時、不思議とそのまま使える同じ状態が得られるのです。品質管理が良いとか精度が高いという範疇ではなく、「職人技」というか、作ることへの愛情のようなものを感じるのです。本当に不思議なメーカー(リム)です。
 そんなリムなので、ハイトが半インチも違うのが意外だったのですが、2つのリムを平面に置いて比べてみると、明らかに「6」の方が見かけ上の長さが心持ち長くなっています。そのためその分ストリングが短くなり、ストリングハイトが高くなったのですが、よく見るとBorderの特徴的なリカーブ形状自体が「5」と「6」では少し違っています。大きな違いではありませんが、2つを合わせてみると分かります。
 そこで余談交えての個人的な感じです。今の世の中、リムはほとんどすべてが「サンドイッチ製法」ですが、サンドイッチにするには素材を重ねて接着剤を付けた後に押さえる「プレス型」が必要になります。素材構成同様にリムの性能を決める重要なものです。靴屋の靴型(ラスト)と同じです。しかしプレス型そのままのリム形状ができあがるかというと、それはまた違います。押さえて成型されたカーボンやコアは当然それ自体の反発力で元に戻ろうとするため、完成時には形が異なることもあります。そのため、最初は素材構成の変更からくる微妙なリム形状の変化かと思っていたのですが、それだけではないようです。
 もうひとつ余談。これはメーカーによっても違いますが、リムを作る時にひとつずつリムを作るメーカーと例えば40ミリ幅のリムなら10センチくらいの幅のリムをプレスして、後でそれを半分に切って作るメーカーがあります。では幅の広いリムを半分に割れば同じリムで1ペアになるかというとそうではないのです。この後、ペア組みという工程があるのですが、同じに作って半分にしたリムでも反り方やポンドが微妙に異なるのが常です。ポンドが異なるのは、ティラーの差になっていいのでしょうが、形状が違えばそうもいきません。
 2つのモデルを合わせてみると、リム厚さ「5」>「6」、リム幅「5」<「6」とこちらも微妙ですが、明らかに中身が違うリムであることが分かります。後で重さも量ったのですが、片リム「5」164グラム、「6」150グラムと、「6」の方が「5」に比べて薄く、長く、幅広く、軽いリムになっています。どちらも68-40です。
 またまた余談。よくリムの「軽さ」を自慢するアーチャーがいます。軽いリムの方が矢速が速く性能が良い、と思っているアーチャーもいます。それは間違いです。実際リムの重さが矢速(反発力)に与える影響など、ここではないに等しいものです。軽さはリムの厚さ同様に、リムの基本性能やカーボンの寄与する(スピードや捩れに対して)割合を考える目安と考えるべきです。軽さ=高性能、では決してありません。
 例えば同じモデルのリムで30ポンドと40ポンドのリムを比べたなら、基本性能が維持されているなら(同じプレス型、同じ素材構成)30ポンドのリムの方が薄くて軽いのは当然です。方法はメーカーやモデルによって違いはあるでしょうが、カーボンやコアの厚さ(量)を変えなければポンドの違いを出せません。逆に今回のように同じポンドなら、例えばカーボンがリムの性能により多く寄与しているなら、その分コア部分は薄くならなければポンドが上がってしまいます。リム作りは、運動靴メーカーではないのですから、最初から軽いリムを目指すことはありません。また軽ければいいのでもありません。今回も、ただ結果的に軽くなったというだけのことです。当然、性能を目指した結果、重くなることもあります。
 もう少し余談。先日EASTONのカーボンアローについて聞かれました。チャート表の一部で柔らかい矢が必ず軽くならず、数値が逆転しているところがあるとの問合せでした。これなども、細くて柔らかい矢が必ず軽いとは限りません。同じ太さと肉厚で柔らかくするには、外観は同じで中のカーボン繊維を減らすしかありません(繊維の質を落とす方法もありますが)。当然その分、樹脂(プラスチック)が増えるので重くなってしまいます。これはEASTONに限らず、カーボン(CFRP)すべてに言えることです。CFRPとはカーボン繊維(ちょうどストリングをほぐしたような細い糸です)をプラスチックで固めた素材です。固まった板の寸法(厚さ)ではなく、中身が大事なのです。カーボン繊維の質(性能)と量と方向が重要なのです。
 
 では、射ってみることにしました。今回もストリングハイトが半インチ高いことを除けば、ノッキングポイントもセンターショットも、センター出しもまったくチューニングをしなおすことなく射てるセッティングでした。ポンドはハカリを持っていませんが、これは弓の個性にもよるのでここでは無視しますが、いい感じです。多分感じでは「5」と同じ、実質ポンドで42.5から43.0の間でしょう。ともかくは、そのまま使える状態なので、そのまま射ってみました。
 50mで的中はまったく見ずに(見えなかったのですが)射った1回目がこれです。ストリングハイトが半インチ上がりながら、何度射ってもこの位置にグルーピングします。サイト位置でいえば結果的には普段より約3ミリ上がります。ノッキングポイントもティラーハイトも同じことを思えば、すごく初速は上がっているようなのですが、それを感じさせない落ちついた安定したリムです。この時ハイトを下げても試したかったのですが、使っているストリングはほとんど捩っていない状態だったので、諦めました。
 また余談です。これも先日「ストリングの原糸はどこのがいいですか?」と質問されました。個人的にはファストフライトが好きなのですが、ここでも多くのアーチャーが勘違いをしています。ファストフライトを含め、現在使われているのは「高密度ポリエチレン」という素材です。メーカーやブランドは違っても、この素材(仲間)です。これをケブラーやダクロンといった違う素材と比べるなら、性能差は歴然と出ますが、同じ仲間であれば正直違いは誤差の範囲です。というとショップやメーカーから怒られてしまいますが、そんな彼らが宣伝する違い(優位性)のほとんどは、矢速や耐久性です。しかしアーチャーはそれこそが誤差の範囲だと知っているはずです。
 なぜなら、ストリングもリムも矢もすべての道具を含めてアーチャーが試合場で矢速に変化を与えられる最も大きな要素(方法)は何だと思いますか。「ストリングハイト」です。試合中に矢やリム、ティラーハイトは変えられません。ストリングを細くも、ノッキングポイントもプランジャーの硬さも同様です。そんな中で唯一、最も簡単に最も大きく矢に与えるエネルギーを変化させられるのが、ストリングハイトなのです。高性能を謳うリムを使うより、最新のストリング素材を使うより、ハイトを半インチ下げる方が矢速は圧倒的に速くなります。だから、ストリングハイトを下げて、弓を短くすることほど素人を簡単に騙す方法はないのですが、このことは逆に言えばストリングハイトが変化すれば、そのまま的中位置が動くことを意味します。そしていくつかのストリングは、1日の試合を通して微妙ではあってもハイトを変化させたり、明らかに熱に弱いと感じさせる素材もあります。雨や炎天下、雪の中でも、そして1日を通してハイトが変化しない(温度の影響を受けない)ストリング原糸こそが最良と考える理由です。ところが、温度に対する影響を宣伝するストリングはほとんどありません。
 だから、同じ条件でハイトが半インチ高くなってサイトが3ミリ上がるのは、結構すごいことです。あなたの弓を単純にストリングを捩って、ハイトを半インチ高くすれば分かるはずです。ところが「6」は、サイト位置が上がること以上に、そんな速さを感じさせないシューティング感覚の方が驚きでした。
 (続く)

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