70ポンドのリムの作り方

 コンパウンドではなくて、リカーブの弓で「70ポンド」のリムを見たことがありますか?!
 Border HEX6.5(BB2) ウッドコアモデルのM68-70、表示ポンド70のリムです。今コンパウンドは試合での上限が60ポンドと決められていますが、リカーブは制限がありません。これは試合で使える競技用のリムです。とはいえ、昔コンパウンドにポンド制限がない時代に100ポンドの弓を引かせてもらったことはありますが、日本で象は射たないのでリカーブの70ポンドのリムを見たのは初めてです。
 どうしても作って欲しいと頼まれたのですが、その方も他のメーカーでは断られたので当方に相談が来ました。作ることはそんなに難しくはないのですが(?)、問題は「保証」です。結論としては保証はしないということで、了解のうえで作りました。リムが折れるからと思われるかもしれませんが、当然その保証もありますが、実際にはこの強さに対応(耐えられる)したハンドルが世の中では一般的でないからメーカーも断ります。ハンドルがいっぺんに折れることはありませんが、当然これだけの高ポンドになれば金属疲労によってハンドルの寿命が縮まります。リムが折れる折れないだけでなく、全体としての安全面から保証できないという話です。そこでメーカーとも話し、双方その点は理解いただいたうえで作ってもらいました。
 ところでこのリムは一般的な「サンドイッチ製法」で作られています。一般的な市販品と同じ作り方で、強さが70ポンドだというそれだけのことです。市販のハンドルにセットします。
 では、皆さんは自分が使っているリム、仮にそれが表示38ポンドだとしましょう。同じモデルの40ポンドとは何が違うかを考えたことがありますか。当然強さが違うのですが、その2ポンドの違いはどこから出てきたかを考えたことがありますか? 考えることはほとんどないでしょうが、言われてみれば不思議なはずです。違いますか。
 この強さの違いは「素材」の違い、と思うのは間違いです。素材、特にカーボンそのもののグレードや種類が違えば性質も性能も変わり、同じモデルにはなりません。では、素材は同じで「中身」が違う。例えば、カーボン層や繊維の量が違うというのはどうでしょう。ところがこれもあまり正解とはいえません。カーボンの量が変われば、素材の種類変更同様に性質が違ってきます。デザイン(プリント)は同じでも、厳密には違うリムになってしまいます。余談ですが、カーボンの性質や量が違う組み合わせで、同じプレス型でリムを成型しても、できあがった形状は微妙に異なります。それだけカーボンなり素材の力がリムに働いているからです。その力がリムの反発力や性質にもなるわけです。
 では、あなたと同じモデルのリムで、あなたの表示ポンドと2ポンド違うリムはどうしてできるのか。2ポンドのために素材や構成をメーカーは変えません。性質、性能が変わる以前に、そんな生産効率や歩留まりの悪いことをするはずはありません。それに実は、仮に38ポンドのリムを狙って作ろうとした時、できあがったリムには「±1ポンド」かそれ以上の誤差ができるのは結構普通のことなのです。だからこそこんないい加減なことが一般化しています。そしてデフォルト(基準)のない世界では、1ポンド程度のリムの違いは十分許容され誤差の範囲になってしまっています。
 しかし、実際にはもう少し良心的に対応する方法もあります。職人技の世界であり、悪いということでは決してありません。ひとつの方法です。ポンドアップはできませんが、できあがったリムを弱くするなら、リムのサイド面にうまくサンドペーパーを掛けてやれば1ポンド程度はダウンすることはできます。廉価なリムでは表面にサンドペーパーを掛ける方法もありますが、表面の繊維が切れササクレてくることもあります。そのため上級モデルではリムは表面にシートを貼りササクレを抑えているものもあります。
 では、できあがる前の製造段階ではどうでしょうか。40ポンドに仕上がるリムから38や36、そして34などといった低ポンドのリムを作り出すことは物理的には難しくなります。そんなに削ったなら、カーボン本来の性能が発揮できず、耐久性も含めそれこそまったく別のモデルになってしまうからです。
 そこでカーボンの性能を維持しながらリムの性格を変えずにポンド(強さ)を変える一般的な方法は、「芯材」の厚さを変えることです。最近はフォームと呼ばれる発泡材が増えていますが、フォームやウッドにかかわらずこの芯になっている部分の厚さを変えるのです。そうすれば、本来の設計段階で望んだ性能や性質を保ちながら、弓の強さを変えることができます。ちなみにポンド変更までいかなくとも、上下リムのバランス(ティラーハイト)調整のためにサイド面を研磨することは一般的なことです。
 
 ここまでが一般的な40ポンド前後のリムの話です。ところが70ポンドというと、一般的な限度を超えてきます。普通の同じ作り方ではそんなに高ポンドは作れません。ウッドコアで芯材の板を厚くするだけでポンドを上げるなら、カマボコ板とはいいませんが結構な厚さになります。それに、それでは弓の強さが木の硬さになります。
 そこでここからはメーカーに確認したことではありませんが、現物を見てみましょう。ちょうど同じモデルので使っていた黄色いリムがあったので、これと比較してみます。
 黄色い方は同じ68(M)インチの「40ポンド」のリムです。リム幅は同じなのですが、厚さが明らかに違います。先端部分4.3ミリ:3.8ミリ、中程5.8ミリ:4.6ミリ、根元8.0ミリ:7.0ミリ。しかし、目視で見る限り木芯の厚さはさほど変わりませんが、カーボン層の厚さが違います。
 重さを量ってみると、片リムで70ポンドが186.5グラムに対し、40ポンドは156.6グラムしかありません。「70ポンド」にするためにカーボン層(量)を増やしていることは明らかです。
 そこで最後になりますが、実はメーカーが弓(リム)を作る時。初心者用ではなく上位モデルにおいては、これも意外かもしれませんが強い弓(高ポンド)より弱い弓(低ポンド)を作る方が非常に難しいのです。幸い上位モデルで低ポンドを使うアーチャーはあまりいないので仕様的にも設定がなくメーカーは助かっています。なぜならこの高ポンドの例でも分かるように、ポンドを落とすには芯材の薄さにも限界がありますが、それ以上にカーボン部分を減らさなければポンドが落ちないのです。そうすると性能自体が維持(発揮)できないばかりか、耐久性が確保できなくなるのです。強い方はなんとかなっても、弱い方はなんともし難いというのが現実です。
 もうひとつ余談です。弓の性能や性質をテスト(評価)するのに、シューティングマシンや実射を行う時。あるいは皆さんが他人の射っているのを見たり、自分で射って試したり評価する時があります。そんな時、強い弓が性能を発揮する(判りやすく表す)のでは決してありません。42ポンドのリムが38ポンドより矢を速く飛ばしたり、捩れにくいのは当たり前のことです。そうではなく、強くもなく弱くもない普通のリムにこそ、その弓の性質と本質そして性能が現れるのです。比較するなら同じポンドで、どちらが速く、どちらが安定して、どちらがスムーズかなのです。そこを勘違いすると、騙されることになります。ご注意ください。。。
 ということで、実際にこの弓を射たせてもらってはいませんが(多分引けません)、問題なくターゲット競技でお使いいただいているようです。決して熊や猪ではなく、同じ紙の的を射ってです。(^_^.) ドローレングス27インチ。毎日練習されて、この春には70mの試合に出られるそうです。楽しみです。

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