インノックとアウトノック

 今のアーチャーは、ノックはシャフトに「突っ込む」ものと思っているでしょう。実際、アルミシャフとも含め、差し込むかかぶせるかはともかくとして、矢にノックは突っ込んで取り付けられています。実はこのようになったのには、必然があります。それはカーボンアローの登場です。
 1980年代後半以降、カーボンアローはアルミアローを駆逐して主流となるのですが、その一番最初はEASTONではありません。確かにEASTONが1984年にプロトタイプ(試作品)として初めて世に出した、今の「ACE」の原型となるアルミコアカーボン「AC(アルミ/カーボン)」シャフトがありました。しかしこれは陽の目を見ることなく、1989年にフランスの世界初オールカーボンシャフト「BEMAN」によって完膚なきまでに叩きのめされます。その後EASTONはBEMANを買収し、今に至ります。
 この時BEMANに取り付けられていたノックが、当時ではこれも世界初といってもいい今の「アウトノック」(シャフトにノックがかぶさるタイプ)の原型となるノックです。後にBeiterが今と同じ形状のBEMAN用ノックを作ったため、それが最初のように思われていますが、一番最初にBEMANに装備されていたのは、BEMANオリジナルのアウトノックです。
 この5年前、EASTON「AC」にこのようなノックは付いていません。ACにはそれまでのアルミシャフトと同じようにシャフトのノック側に、コアとなるアルミチューブを絞り込んで作られた「テーパー」形状が存在しました。BEMANの登場まで、ノックはこのテーパー部分に接着剤を付けてねじ込んで(回転させて)取り付けるものでした。
 EASTONが突っ込むタイプのノックを世に出すのは1990年代の「ACE」登場からです。それは今の「インノック」(シャフトにノックの軸を差し込むタイプ)の原型となるものですが、当時はノックに当たって次の矢が弾かれることを避けようと小さい形状だったのですが、それでは逆にシャフトを傷めることから今のような大きさに変化してきました。
 そしてここにも必然はあるのですが、EASTONがBEMANのようなアウトではなくインにしたのは、アルミコアと樽型から考えてもわかるようにシャフトの外径よりアルミシャフトの内径の方が精度が安定するからです。そしてBEMANがアウトにしたのは、寸法の安定以上にBEMANのシャフトが一方向のカーボン繊維で構成されていたため、インではシャフトの割れが起こる可能性があったからです。
 そこから始まった今の突っ込みノックを大別すると、「アウトノック」と「インノック」に加えて、これらの中間的な「ピンノック」(ノックはピンにかぶさってはいますが、ピン本体はシャフトに差し込む)の3種類に分けられます。
 では、どれがいいのかの前に、ノック以外の余談を少し。
 
 まずはレスト。リカーブ用のレストを大別すると、ツメの素材から「樹脂製」と「金属製」に分けられます。その昔、1980年代頃までは樹脂が主流であり、その後金属のレストが多く登場し今では完全にプラスチックがステンレスに駆逐され、樹脂製は初心者の練習用やレンジの備品用に追いやられているのが現実です。
 その理由は簡単なのですが、これらが拮抗していた1990年頃のまでの状況でこの2つのレストを比較すると、それぞれに長所短所があることがわかります。逆にいえばそれだけ、アーチャーがレストに対する要望が多様ということです。そんなレストに求める性能、機能はだいぶ以前にここに書いたとおりです。
 そこでこれまでいろいろな種類のレストを使ってきましたが、お気に入りはあってもすべての性能を満たしたものはありませんでした。どこかでいくらかの妥協を迫られます。では現在「金属レスト」が主流になった背景には、金属レストがプラスチックレストよりすべての点で優れているのかというと、決してそうでもありません。実は物理的な必然から、仕方なく金属製に移行したにすぎないのです。そのため、欠点や短所を持ちながら販売されているレストが多いのも事実です。
 では、樹脂製レストが駆逐された理由はというと、ここにも必然があります。弓のウインドウが深くなったからです。カーボンアローの一般化とNC旋盤によるアルミハンドルの台頭によって、発射時の矢のレスト部分でのトラブルを回避するためにハンドルのウインドウ(レスト)部分の深さが木製はもちろんマグネシュームダイキャスト時代のハンドルよりも大きく(深く)えぐられるようになりました。クリアランスの確保です。そのため、矢をセンターショットに保持するには、ある程度の長さの(以前より長い)ツメが不可欠となったのです。そのため樹脂の長いツメで強度と安定としなやかさを得るには、硬さあるいは太さを増さなければ不可能であるという最大の問題(大きな短所)を抱えることになります。確かにカーボン繊維を成型する(CFRP)方法をとれば、樹脂製でも金属を上回る性能を有することはできます。しかし、価格的に大きな短所を持つことは明らかです。
 そしてもうひとつ、スタビライザーです。スタビライザーも最近は矢と同じようにカーボンが主流で、カーボンシャフト(ロッド)でできています。そんなスタビライザーのネジ部分ですが、これもノックと同じようにインとアウトがあることに気づいていますか。先端(ウエイト)側か根元(ハンドル)側かでも違いますが、大きな力が掛かる根元のネジを見てみると、ネジの付いたブッシングがロッドに差し込まれているイン方式とロッドにかぶさるアウト方式です。スタビライザーの場合もノック同様に「真っ直ぐ」に取り付けられることが最も重要な点ですが、2番目はノックとは違う意味での「強度」です。スタビライザーそのもののたわみと応力集中によって、ロッドが折れたり割れたりしては困ります。
 真っ直ぐに取り付けられる(簡単に)というのは、ブッシング(あるいはノック)自体の精度の問題があるのですが、それをクリアーしたうえで相手側(ロッドあるいはシャフト)との勘合精度が重要です。1個1個が手作りなら問題はないでしょうが、量産となると取り付けられるロッド側の精度(バラツキ)とブッシングとの誤差の精度が求められるわけです。ではこれもクリアーしたとして(実際のスタビライザーには高価なものでも、真っ直ぐ付いていないものもありますが、、、)次に強度ですが、最近アウト方式のスタビライザーが増えたと感じませんか。
 ここで注意しなければならないのは、アウト方式の方が精度を出しやすかったり、強度を保ちやすかったりするかというと、そうではありません。精度とかぶさっているあるいは差し込まれている長さが同じであれば、アウトもインも違いはありません。ではなぜアウト方式が増えたのか。それは「装飾」とメーカーの都合としての製作のしやすさです。アウト方式ならロッドの切り口が斜めになっていても隠せます。切り口から割れてきても分かりません。接着面の荒らしも簡単です。ブッシングに文字を入れることを含め、性能とは無関係に(性能がなくても)豪華に仕上げることができます。だからアウトがインを駆逐しているのです。性能上の必然ではなく、製作上と販売上の必然です。

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