ハネと矢のつがえ方一家言

 1969年、アーチェリーを始めた年はアウトドアの試合でも、使われているのは「鳥羽根」がほとんどでした。それが「プラバネ」と呼ばれる文房具の下敷きのような硬いプラスチックでできたハネに代わるのは1970年代に入ってからです。理由は当然雨に強いことと、圧倒的に風に流されないことでした。しかし当時はまだクッションプランジャーも金属レストも出てきていません。プラバネによって的中精度は向上するものの、アルミ矢で入手できるサイズも少ない状況で、木製ワンピースボウのダクロンストリング使用ではレストでのトラブルは普通でした。よほどシューティング技術が優れ、スパインがあっていなければハネはレスト部分に擦っていきます。硬いハネはレストかウインドウに当たれば、そのまま矢は跳ね返され弾道は大きく逸れる結果になります。しかしそれでもプラバネのアドバンテージ(メリット)は不可欠であり絶大でした。
 そんな中、1970年代中頃に「ソフトベイン」と呼ばれる外観はプラバネのような腰を持ちながら、柔らかいハネが登場します。プラバネは的面で矢同士が接触するとハネが取れたり、ハネそのものが割れてしまいます。そんなハネの強度(耐久性)と接着力向上が目的でした。しかしそれだけではありません。ハードベインがソフトベインに変わることで、レストでのトラブルを的面(的中精度)に反映しにくくしてくれたのです。ちょうど同じ頃、クッションプランジャーが登場し矢飛びをチューニング(調整)することが可能になってきます。しかしそれでもレストやウインドウにハネが当たる現実は同じですが、ハネが柔らかいためシャフトを弾く(弾道を逸らす)前にハネがショックを緩和してくれます。そのためソフトベインは多くのアーチャーに恩恵を与えました。しかしトップアーチャーの間では変形しないハードベイン(プラバネ)は、的中精度においても重さにおいてもソフトベインよりアドバンテージが大きく、レストでのトラブルが起こらないことを前提に使い続けられました。そこで当然いろいろな形や大きさ、そして素材(硬さや腰の有無、耐久性など)の異なる多くのハネが登場し、それは現在に至っています。
 では現在主流となった「フィルムベイン」はいつ登場したのか。その原型は1975年に登場します。しかし最初、この特殊な形状をした2枚バネはあくまでインドア競技に限られました。詳しくはこちらに書きましたが、3枚バネで今のような形状のフィルムベインがアウトドアで使われだすのは1980年に入ってからです。
 しかしここで勘違いしてはいけないのが、素材が「フィルム」になったことは空気抵抗(厚さ)や重さでのアドバンテージを求める結果であって、それが偶然「スピンウイング」の登場と重なっただけであり、フィルムベイン=スピンウイング(この種の形状のハネの総称として使います)ではありません。現にフィルム製のスピンウイングと並行して本来の3枚バネ(形状としての鳥羽根、プラバネ、ソフトベインの延長)のカタチをフィルムで作ることは、マイロベインをはじめいくつかの商品や試作品で行われ世界記録も更新しています。また逆にフィルム製やハードプラスチック製のスピンウイングが現在あることも事実です。素材と形状は分けて考えなければなりません。フィルムそのものは薄く、軽いことが特徴であり求められるアドバンテージかもしれませんが、柔らかく腰がないことは必ずしも性能面でのアドバンテージではないのです。
 そのうえでもうひとつ、注意しなければならないことがあります。それは1989年を境とするアルミアローからカーボンアローへの移行です。とてつもなく重く(飛ばない)太い(風に流される)矢が、とてつもなく細く軽い矢によって弾道は低く飛翔時間が短く、断面投影面積が小さいことで圧倒的に風の影響を受けにくい矢になったことです。これはハネの素材にかかわらず、ハネそのものの扱い方を変えてしまいました。たとえばスピンウイングを例にとっても、アルミシャフトに貼られ世界記録を更新していたハネは長さが6センチ近くあり、ピッチを1度から2度付けることが普通でした。それがカーボンシャフトに変わることで、大きさがどんどん小さく、高さが低く、そして現在ではほとんどノーピッチで使われるようになりました。その理由はシャフト同様に空気抵抗を減らす方が効果的であることをアーチャーが試行錯誤の中から選んできた結果です。同様に3枚バネも昔ミニバネと呼ばれた小さいサイズのハネよりも、小さく低いハネが一般化しています。
 矢は「独楽の原理」で回転することで安定を得ています。回転は飛翔の安定と的中精度の向上には不可欠な要素です。しかし回転が多ければよいというものではありません。一般に1秒間に7回転が必要十分条件といわれますが、90mの飛翔でも2秒はかかりません。例えば経験則として極端にきついピッチを付けた矢を射つと、回転が多いにもかかわらず逆に不自然なフィッシュテイル(蛇行)を起こします。
 スピンウイングはその性格上、非常に回転を起こしやすいハネです。3枚バネ以上にハネの内側に空気をはらみ、それをエネルギーとして矢を回転させます。だからこそ昔より小さく、ノーピッチで使用するのですが、矢の回転はノックがノッキングポイントから放れた時から始まります。それはストリングハイトの位置ではありません。ストリングがノックを押し出すため、実際にはストリングハイトより1インチ程度低い位置で矢は空間に開放されます。そこからレストまでは7インチ(18センチ)ほどの距離です。
 昔アルミシャフトの頃はシャフトも重くスピードも遅かったので、この間で矢はほとんど回転を起こしませんでした。ところが最近は軽く速いカーボンシャフトのお陰でこんな短い距離であっても矢が十分すぎるほど回転を起こします。スピンウイングではなおさらです。
 初心者教室で、矢をつがえる時は色の違う羽根(コックフェザー)を自分の方に向けてノッキングするように教えられます。これは太古の昔からそうでした。矢(ハネ)がレストを通過する時にハネがレストに当たらず、きれいにクリアする(させる)ためです。ところが近年、スピンウイングになってからはこれが通用しない場面がよく見受けられます。スピンウイングがリリースと同時に飛び散ったり、傷(クシャクシャに)がいったりするアーチャーの場合、ほとんどが同じ位置のハネではありませんか。右射ちなら、つがえて右上に来るハネ(上側のヘンフェザー)ではありませんか。
 そうなのです。昔は右上は右上のままレストを通過していった矢が、最近は18センチで60度近くも回転する場合があります。レストを通過する時に右上のハネがウインドウに直角に通って行くのです。それだけではありません。アルミシャフトは十分にたわんでくれたものが、カーボンシャフトではその挙動がシャープになりストロークも短くなっています。思った以上にレスト部分のクリアランスは狭く、矢はウインドウのギリギリを通過していきます。すると、右上のハネがレストでトラブルを起こします。射ち方が悪いと(ミスショット)なおさらです。
 それでも昔はシャフトが重かったのでハネが柔らかければ、ハネが逃げてくれました。ところが軽いカーボンシャフトは少しの擦れでも弾道が変わり、矢飛びを乱すようになりました。
 これを見てください↑。最近射ち方が悪いとは決して思っていないのですが、何かの原因で右上のハネがプランジャーチップ付近に当たっていくのです。これだけ当たると当然矢飛びや的中に悪影響を及ぼします。そこでストリングハイトを変えたり、プランジャーのセンターショットや硬さをいろいろ変えたりとするのですが、うまくいきません。スパインやポイント重量も変えてみたのですが、納得がいきません。そこでこの矢はここ数週間逆につがえて射っていた矢です。バイターノックは非対称形なのでノックをまわさなければなりませんが、今使っている対称形のノックなら単純に180度つがえ方をひっくり返し、コックフェザーを自分ではない方に向けてつがえるわけです。まともにハネがレストに当たったいくであろうと想像できる位置につがえて100射(回)近く射っているのに、コックフェザーはなんともありません。
 これは以前ここに書いたようなレスト部分でのクリアランスが広がったのではなく、単にハネの角度がうまくレストをクリアしてくれる結果です。抜本的な解決は別にして、これは一つの方法論でありチューニングであり、現実です。
 初心者やレストでのトラブルのないアーチャーは、初心者教室で習った太古の昔からのつがえ方をするべきです。しかし、ウインドウや同じ位置のハネに傷や問題を見つけた時には、自分に合ったつがえ方を模索する必要があります。特に回転の大きいスピンウイングにおいては、いくらフィルムが薄く、柔らかく、ハネ自体が脱落(取れる)するといっても、レスト部分でのクリアランスは確保するべきです。
 ということで正直最近、スピンウイングは最初から逆につがえた方がいいのではと思うくらいです。スピンウイングはハネがとれてもそんなに外れない。2枚バネでも射てると思って使っている貧しい(金をかけない)アーチャー諸君、ぜひご一考を。。。
 ところで個人的には、スピンウイングが好きでないのでなく、飛翔中に風をはらんで変形するハネが嫌いなのです。お間違いないように。。。

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