カーボンシャフトの作り方と日本のメーカーの意味(中)

 皆さんが使っているカーボンアロー、カーボンリム、カーボンサイト、カーボンスタビライザーなどには、「カーボン(炭素)繊維」が使われているので「カーボン」の名称が付されていますが、厳密には100%カーボンでできているかというと、そうではありません。例えばカーボンリムは芯になる部分にウッドコアやフォームコアと呼ばれる木材や発泡材があり、それにカーボンが張り付けてあります。
 しかしカーボンアローはもう少し厳密に「オールカーボンシャフト」とEASTON社が作る「A/C(アルミコア)シャフト」に大別されています。こちらはオールカーボンといえば、芯になる他の素材は含んでいません。アルミコアはその名のとおりアルミを芯にしてそこにカーボンを貼り付けています。
 では、この「カーボン」とは何かです。カーボンはカーボン繊維(フィラメント)を指しています。この繊維はストリングを一番細い状態までほぐしたような、非常に細い黒い糸です。しかしそのままで性能を発揮するのではありません。
 矢も弓もパーツも繊維そのままで使うのではなく、繊維を樹脂(プラスチック)の中に入れて固めたものを使います。それが板状であったり、パイプであったりするわけです。この固めたものを「CFRP」と呼びます。「arbon iber einforced lastics」、読んで字のごとく、樹脂で固め強化された炭素繊維なのです。繊維がガラス繊維であれば、昔からある「C」が付かないFRPです。バスタブやボートに使われています。
 
スタビライザーとバナメイエビの見分け方
 
 まずはここ↑を読んでください。これが分かれば、「カーボン」だからいいのではなく、カーボンの質(グレード)や量、そして繊維の方向や長さがいかに重要かがわかるはずです。これは知っていて損のない知識です。
 
 そこで「日本のメーカーの意味」なのですが、例えばカーボン繊維をどこが作っているかというと、世界の75%が日本製ともいわれています。それ以外はヨーロッパやアメリカになります。これも以前に書きましたが、□国の方から「カーボンをコンテナ一杯」売って欲しいとメイルが来ました。その意味が分からなかったので、日本石油のカーボン部門の方に聞いてみると、そんな「コンテナ」という単位がこの業界ではあるのだそうです。
 後でお話しする、製品を作る際に出る半端なCFRPは産業廃棄物として処分されますが、そんなゴミをコンテナ単位で□国や○国は買っていき、向こうでそれがラケットや釣竿に化けて、また日本に入ってくるというのです。そんな製品ではカーボンのグレードや繊維の向きや品質はどうでもいいのです。カーボンさえ入っていればカーボン製で売れるのです。
 そこで2012年、アメリカの「Victory」の矢が日本の「三菱レイヨン」の傘下に入ったわけですが、厳密に言うとVictoryはアメリカの「Aldira社」の矢のブランドです。本体はアメリカでの最大手のゴルフシャフトメーカーです。そことOEM(他社ブランド製作)を含め日本でトップともいえる三菱が一緒になったのです。
 とはいえ、アーチェリーの市場規模を考えれば、ヤマハの時と同じでゴルフ部門の一部ではあります。そして現在、アーチェリーのシャフトはベトナムの工場で生産されています。
 しかし、重要なのはこれらの素材やノウハウ、そして設備や品質管理、研究が日本のコントロールの基にあるということです。
 で、以前からこの最新の工場を見せて欲しいと話していたのですが、ちょうど先日時間が取れ工場見学が実現しました。場所は愛知県の三菱レイヨン豊橋事業所。ここで炭素繊維の最新の研究から生産が行われています。
 日本の最先端技術の現場です。後の遥かかなたの山から↑スパイ(?)が写真を撮りに来るそうです。工場しか写せませんが、プラントの配置などを調べに来るのだそうです。なので、セキュリティーはもちろん、すいませんここから先の写真はありません。
 工場長や開発部長に案内いただきました。ほんとに楽しい数時間でした。ヤマハにいた時も同じような西山工場で弓は作られていたのですが、あれから20数年。カーボンの技術は大きく進歩していました。ほんとにおもしろかったです。
 アーチェリーのシャフトもゴルフシャフトも基本的には製法は同じです。
 ここの工場では、広島の工場で生産されたカーボン繊維の元になるアクリル繊維が運び込まれます。その段階ではまだ糸は黒くなく、透明の糸です。それがここでカーボン繊維へと焼き上げられます。そして「プリプレグ」へと加工されます。

 この「プリプレグ」は非常に重要なキーワードです。ぜひ覚えておいてください。プリプレグとはCFRPが完成する前の「半硬化状態」の素材をいいます。カーボン繊維に樹脂を含浸させたシート状のもので、ちょうどテレビで紙漉(かみすき)で和紙を作るのに食物繊維を木枠の中で漉いているのを見たことがあるでしょうが、実際には機械で行われますが、まだ乾燥した紙になる前の状態と同じです。
 30年くらい前はヤマハでもFRPのプリプレグを作るのに、紙漉のように職人技で作っていました。できあがりはちょうど、シップ薬のような状態です。
 ところが今回の最初の大感動は、今のプリプレグは凄い状態です。厚さはコンマ1ミリ程度、薄いものは0.07ミリくらいの曲がりはしますが、ほぼ乾燥したようなシートなのです。もちろん繊維は真っ直ぐにとおり、シートの中の繊維の量(樹脂との比率)も細かく管理されているのです。真っ黒な模造紙の中にカーボン繊維が規則正しく取っているような素材です。

 このプリプレグからシャフトは作られます。VictoryのオールカーボンシャフトもEASTONのACEやX10も、アルミコアの有無を除けば基本は同じ作り方です。一般に「シートローリング」や「シートラッピング」と呼ばれる製法で作られています。
 この方法は巻き寿司のように、芯(コア)にプリプレグのシートを巻き付けて作ります。海苔は1枚ではありません。VAPであれば、サイズ(スパイン)によって異なりますが、繊維の量や繊維の向きが異なるシートを7層前後巻き付けます。巻き付けるのはもちろん専用の機械でですが、ここで「マンドレル」も覚えてください。マンドレルとは巻きつける時の芯になる、無垢の金属の棒です。もちろん精度は要求されます。
 ここで余談ですが、最終的には硬化したカーボンのパイプ(シャフト)をマンドレルから抜くわけです。その時スムーズに抜けるように、マンドレルには「離形剤」を塗ってから最初のプリプレグを巻き付けます。離形剤はシリコンのようなものです。細いシャフトほどしっかり塗る必要があります。しかしできあがったシャフト内部を離形剤を落とすほどに洗浄するのは不可能です。そのため、オールカーボンシャフトはホットメルト(マツヤニ系接着剤)でポイントを普通に付けたのでは、抜けやすくなるわけです。ポイントの付くシャフト内部を荒らすように削るか、よほどきれいに洗浄する必要があるわけです。それに対して、アルミコアでは、相手が金属なのと離形剤の量が少ないので、比較的付きやすくなります。
 そこで、もうひとつ。EASTONはアルミの会社なのでアルミをコアにしていますが、折れた矢のカーボンを剥がしたことのある方なら分かると思いますが、アルミコアのアルミシャフトは非常に薄いアルミチューブです。そのため、多分ですが、アルミコアだけをマンドレル代わりに使っているのではなく、アルミコアの中にマンドレルを入れたうえでプリプレグを巻いているようです。
 ここで2つ目の感動です。巻き寿司の海苔を巻いた時、最後に海苔が重なる部分ができます。海苔は繊維です。重なれば部分的に繊維の量が増える所ができてしまいます。これがどうなるのかがずっと疑問だったのです。
 その疑問が今回の工場見学で解消しました。その答えは、次回で。。。

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