プロセレクトの「Victory」と「Aldila」の話

 「プロセレクトプロジェクト」の「PRO Select」ですが、この屋号(?)の由来は以前使っていたカーボンアローの名前から来ています。メーカー名はアメリカの「AVIA」社。そこの作るオールカーボンアローのひとつが「PRO Select」だったわけです。そのブランド名をお願いして使わせてもらいました。
 確か、インターネットもない1980年代中頃からです。今は亡き親友のシグ・ホンダからカート・デジナーを紹介されて手紙を書き、サンプルを送ってもらったのが始まりです。それ以来の友人ですが、残念なことにカートも歳で2010年の春にこの仕事を辞め、祖国ドイツに帰る決心をしました。会社はカートの友人でカイトメーカーでもある「GoodWinds」社に売却、当初はGoodwinds社でもアローシャフトの生産を継続する予定でしたが、結局は断念しました。
 「プロセレクトプロジェクト」の名は残っても、戦う武器(手段)がなくなってしまいました。最初からEASTONに勝とうなどとは思ってもいません。ただ選択肢をひとつでも提供したかったのです。そんな選択肢をなくし当初はあきらめていたのですが、いろいろな縁や運を重ねて辿り着いたのが現在のパートナーである「Victory」ブランドです。それが2011年2月のことです。
 
 当時も現在も状況はそんなに変わってはいないのですが、アーチェリーのカーボンアローの世界は大きなメーカーは4社です。EASTON、CarbonExpress、GoldTip、そしてVictoryです。これ以外にもOEM(他社ブランド製作)を含め、小さいメーカーなら星の数とはいいませんが、我われが想像する以上に多くのメーカー、製品が世界にはあります。
 そこでこの4社ですがここで勘違いして欲しくないのは、多くの日本のアーチャーが日本の現状がそのまま世界の現状と同じだと思っていることです。実は日本のアーチェリーは、特に世界最大のマーケットであるアメリカとは大きく異なっています。一言で言えば、日本には「ハンティング」という市場が一切ありません。それに「コンパウンド」という分野もアメリカは日本とはまったく異なり、とてつもなく大きな市場です。
 弓にしても同じです。例えば多くの日本のアーチャーはHoytが世界最大の弓メーカーと思っているでしょうが、世界最大はPSEです。Hoytより遥かに大きなメーカーです。いろいろな見方はあるでしょうが、HoytはMathewsやBowtecよりだいぶ下のメーカーです。ではなぜHoytを我われが崇拝するのかといえば、Hoytはリカーブやターゲットアーチェリーに特化したメーカーだからです。世界におけるリカーブやターゲットあるいは競技アーチェリーはアーチェリー全体の中では「隙間産業」(ニッチ市場)なのです。その中ではHoytは後発の弱小メーカー、そしてEASTONの会社です。ところが日本はこの隙間が全体であり、すべてという世界の中でも変わった国なのです。
 矢も同じです。EASTONがほぼ100%を占める世界は、隙間を100%押さえているにしかすぎません。EASTONが飛び抜けているのは、隙間に特化している現状とそこしか我われには見えていないという現実からです。EASTONもHoytも隙間を狙ってアーチェリービジネスで大成功を収めているのです。しかし、他のビッグメーカーはそんな隙間を相手にはしていません。それより遥かに大きなアーチェリー市場が世界、そしてアメリカにはあるからです。
 そこで今回の話ですが、最近世の中を見渡すとアメリカの会社のフリをした○国や□国メーカーの製品を見ることができます。メーカー名だけではわからない家電やパソコン、自動車やハイテク機器など、名前でブランドイメージや高価格を維持しようとするメーカーが多くあります。実は矢や弓のメーカーにおいてもあります。
 
 そんな中で、隠していたわけではないのですが、これをご覧ください。↓(PDFファイル)
 「Aldila社」とは「Victory」を傘下に収める、アメリカで最も認知されたカーボンシャフトを扱うメーカーです。そして今は日本の「三菱レイヨン」の100%グループ会社のひとつです。三菱レイヨンのカーボン繊維といえば「パイロフィル」が有名ですが、大昔1990年代にはパイロフィルで作ったカーボンアローがプロトタイプとして日本で試されたことをご存知のアーチャーがいるかもしれません。そして三菱レイヨンはPAN系炭素繊維では、東レ、東邦テナックスに続く、世界3位のメーカーです。
 ともかく今、アメリカの「Victory」社は日本のメーカーなのです。
 2002年のヤマハ撤退以来、現在では弓本体と矢のメーカーは日本にありません。いつも言うように、オリンピックでも世界選手権でもメーカーは自国の選手より先に他国の選手に最新や最上の道具を提供することはありません。このことも日本のアーチャーが忘れていることです。
 そこで今、プロセレクトプロジェクトとVictoryはささやかではありますが、日本のアーチャーのために何かを始めたいと考えています。昨年来、日本のスタッフとは何度も打ち合わせや試合を見に行き、今年1月にはアメリカでAldila社のスタッフとも有意義な時間を過ごしました。
 その第1歩が「VAP」による新たな選択肢の提供でした。今シーズンはデザインも変更し、新たなサイズも追加。より精度を高めるべく努めています。

              ALDILA  CEO  Pete Mathewson   and   Vice President   Dave Lopez
 そして2015年秋、第2歩目として日本のコンパウンドアーチャーのために新しいシャフトを作ってみようと考えています。
 50mに限定されたレギュレーション。あるいは距離の短いフィールド競技。そんな中で高得点を目指し、性能を発揮するカーボンアローをまずは日本のアーチャーに試してもらいたいのです。そしてVAP同様、選択肢が増えることでアーチェリー仲間がひとりでも増え、続けてもらえれば素晴らしいことだと思っています。
 日本人が日本の矢で、世界の頂点に立つ!! どうですか。ぜひ楽しみにお待ちください。

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