個人的な「感じ」−弓の作り方のこと

 前回の話を書きながら、ちょっと思うことがあったので、直接Borderに聞いてみました。
 
We would like to say our Hex H limbs are not made from a foam core they are made from a light weight epoxy matrix material.
 
 やはりと言えばやはりですし、宣伝と言えば宣伝なのですが、、、これまでに書いてきたように、「H」の射った感じや引いた感じは最近流行りのフォームコアのリムよりもウッドコアに近いものです。
 が、そんな個人的な「感じ」を確認しようと思ったのは、リムのサイド面に見える素材がフォームらしくなかったからです。
 ところで、「WPC」を知っていますか? 1970年代最初、木製ワンピースボウの最終モデル「Hoyt 6PM」やWing社やBear社の木製テイクダウン、そしてヤマハの「Ysl」などに使われていた、少しカラフルな木を覚えていますか。あれが「ウッド・プラスチック・コンビネーション」の頭文字を取った、天然木に樹脂を含浸(注入)させて作った当時の最新素材です。今では楽器や床材などに一般的に使われているようですが、強度アップと品質の安定を求めた素材です。それをBorderでは今回「HEX5H」の「スカーフ芯」に使っているようで、2011年シーズンからは他のモデルにも採用するとのことです。
 「スカーフ芯」とは、リムの差し込み部分に貼り合わされている、リム本体の芯材とは別のクサビのような芯のことです。英語で芯材を「Core」、スカーフ芯を「Butt」と言うようですが、実はスカーフ芯も芯材同様「カーボン」に隠れて目立ちませんが、リムの性能を支え、発揮するのに大切な部分です。芯材がリムの性能を支えるなら、スカーフ芯はリム全体の強度や精度を支えます。ところがそんなスカーフ芯までもが、最近はフォームに取って代わるモデルが目に付きます。(ちなみにスカーフ芯や芯材という呼び名は、ヤマハで使っていたもので他の呼び名があるのかもしれませんが、知りません。)
 ちなみに「W」のスカーフ芯には、アフリカ原産の非常に硬い木の「セデュア」(オバンコール)や「ブビンガ」を使っています。
 ところで、最近「フルカーボンリム」となぜか呼ぶ、芯材もスカーフ芯もない(?)最新の(?)リムが出てきました。その前に、、、
 「カーボンリム」が初めて世界に登場したのは、1976年ロサンゼルスオリンピックでのHoytのプロトタイプです。市販品として世界で販売されたのは、1977年のヤマハ「Ytsl Carbon」です。
 とはいっても、これらのリムが「カーボンリム」と呼ばれたのは、それまでが「グラス(FRP)リム」であり、そこにカーボン(CFRP)という最新高性能素材を加えたことによるものでした。そのためグラスリムはFRP100%であっても、カーボンリムはCFRP100%ではありませんでした。当初はFRPとCFRPのコンポジット(複合素材)だったのです。そしてこのどちらのリムにも、芯材として「木芯(天然木)」が使われていました。もちろんスカーフ芯にもです。
 そこで当然、メーカーが次に目指したのが、CFRP100%の「オールカーボンリム」です。これが世界ではじめて商品化されたのが、1983年のヤマハ「Super Custom」です。しかしこのリムも、カエデの芯材とカリンのスカーフ芯にCFRPを貼り合わせて作られていました。この伝統的ともいえる作り方は現在のリムに引き継がれ近年、芯材は「フォーム」と呼ばれる合成樹脂の発泡材やBorderのエポキシの板に変わってきたというわけです。
 しかし今ではBorderはもちろん、どのメーカーも上級機種でFRPを使うものはなく、すべてがCFRPだけを使います(本当はCFRPの中身が大事なのですが、それはともかくとして)。そのためこれらのリムはわざわざ「オールカーボン」とは呼ばず、単に「カーボンリム」と称しています。
 そこで「フルカーボン」なのですが、さも凄いあるいはカーボンの量が多いような宣伝に使われていますが、これは「オールカーボン」に対する、あるいは<「フルカーボン」ではなく、リムそのものの作り方の違いなのです。現にフルカーボンは芯材に木あるいはフォームを使わないために全体に対するカーボン比率が多いのは当たり前なのですが、フルでありながら「グラス繊維」も混ぜています。なんらフルでもオールでもなく、カーボンリムの1種類にしかすぎません。これは「性能」や「量」の比較ではなく、「製法」の比較としてとらえるべきリムなのです。
 では「フルカーボン」と呼ばれる製品が最新製法なのかというと、これも違います。実は1995年にヤマハが世界で最初に製品化した「スーパーセラミックカーボン」に代表される、「パワーリカーブ構造」リムの作り方を真似ているにしか過ぎません。ほとんどのリムに使われる伝統的、古典的な「サンドイッチ製法」に対する、まったく作り方の違う「たい焼き製法」のリムということです。これはハンドルの「ダイキャスト製法」と「NC製法」にも似ています。金型にはコストが掛かりますが量産に向くことと、今後の展望として(これが本当は非常に重要なのですが)設計の自由度の高い製法といえます。
 ところで昔、1980年代最初だったと思うのですが、まだEASTON社がロサンゼルスのVanNuysにあった頃、Jim Eastonの自宅に行ったことがあります。プールのある大きな家でしたが、プールの横の物置で話している時、彼が1本の変わった弓を取り出してきました。見かけは子供用のオモチャの弓ですが、たしかリム幅は2センチほどで厚さは2ミリくらいのFRP(グラス)だけでできたワンピースボウです。強さが10ポンドもあるかないかの弓です。引けば、パンツのゴムを引いているような、何の抵抗もないペラペラの弓です。彼の説明によると、このペラペラの弓でフルドローでアンカーリングすると、テンションがほとんど掛かっていないので、フックやアンカーが真っ直ぐ引かれていないと逆にストリングをこねてしまうというのです。たしかにシャドーシューティングでのフルドローと同じでした。ドローイングやアンカーリングでの、悪い癖や不要な力が掛かっていることを発見したり修正するのに使うというのです。
 もし今の時代、CFRP(カーボン)を使って同じ形の弓を作れば、ドローウエイトは40ポンドを超えるでしょうし、同じような10ポンド程度の弓を作るなら、リム厚は1ミリにも満たないはずです。同じ形(寸法)で素材を変えるとは、そういうことです。FRPはガラス繊維を、CFRPはカーボン繊維をプラスチック樹脂の中で固めた素材です。例え同じ外観であったとしても、重要なことはそのプラスチックの中の繊維の量であり向きであり、種類であり質なのです。
 個人的な「感じ」ですが、例えば40ポンドという強さを前提にリムを作るのであれば、そして今の我々が違和感を感じないカタチや寸法を前提にするのであれば、カツサンドには分厚く美味しいパンが不可欠です。パンがあるからカツの味が生きてきます。たい焼きなら、見た目を立派な鯛にすればするほど、残念なことに中のあんこは少なくならざるを得ないでしょう。もしパンもカワもいらない、カツやあんこだけをいっぱい食べたいなら、サンドイッチやたい焼きではなく、カツレツやボタモチを食べることをオススメします。
 もう時効だから、いいでしょう。実はヤマハが最初にパワーリカーブを販売しだした時、その理念どおりにたい焼きの中にはあんこがいっぱい詰まっていました。ところが、予想に反して重く、奥が硬く、何よりも引いた時のカーブが美しくなかったのです。そこで結局ヤマハは、途中からシッポの中まであんこを入れるのはやめにして、ナイショで昔ながらのカエデの短い板を芯材として入れることにしました。ガラスやプラスチックだけで外観を真似ることはできても、美しいしなりや腰、反発力を得るのは正直難しかったからです。
 今でも試合場で、自然素材を使ったたい焼きを見ることがあります。あんこの量は少なくとも、はるか彼方からでもフルドロー時に美しくシッポをそり返しているのが一目瞭然です。個人的な「感じ」ですが。   (続く)

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