シャフトの最大直径は9.3ミリ

  全日本アーチェリー連盟競技規則 第205条(リカーブ)・206条(コンパウンド)

7. 矢はターゲットアーチェリーで使用される矢という一般通念および語義に適合している限り、どのような形式のものも使用することができる。
 ただし、標的面またはバットレスに不当な損傷を与えるものであってはならない。シャフトの最大直径は9.3mmを超えてはならない。シャフトの直径が9.3mmの場合、そのポイントの最大直径は9.4mmあってもよい。
 
 FITA(WA)の公式試合においては、使用できるシャフト(矢)の太さが決められています。直径が9.3ミリ以内でなければなりません。EASTONのアルミシャフトの基準でいえば、太さ23径までのシャフトなら使用ができます。そのことについて書かれているのがこのルールです。
 ちなみに1980年代までは太さの制限はなく、その後最初は「11ミリ」まで認められ、それが現在の「9.3ミリ」になったのは2001年からです。この太さ制限が行われるようになった背景には、インドア競技の18mでパーフェクトや1点が順位を分けるまでにレベルが高まってきたことがあります。そんな中で選手はオンライン(上位得点へのシャフトのタッチ)を稼ぐために極端な大口径アルミシャフトを競って使い出しました。とはいってもアーチャーの引く弓の強さにも限りがあるため、スパインの合わない硬い(太い)矢を無理矢理使うわけにも行きません。そこでメーカー(EASTON)は、それまでは肉厚14径までしかなかったシャフトに13径や12径といった薄いシャフトを作ることでスパインを同じに保ちながら、外径の大きい矢をどんどん作ったのです。それに対する歯止めとして生まれたのがこのルールです。
 
 ところがよく読むと、奇妙なことに気づきませんか?
 シャフトの直径が9.3ミリで規制されているのに、ポイントはそれより0.1ミリ大きくてもいいのです。この文言が入ったのは、2001年に11ミリが9.3ミリに縮小されるのに合わせてです。そして時を同じくしてインドアでも使える大口径のカーボンアローが使われだします。11ミリの時にポイントに対する言及はありません。
 では現在、一般的なアウトドアに使う5.6ミリのカーボンアローに9.3ミリのポイントを付けて試合に行くとどうなるか?
 行ったことがないので分かりませんが、多分その時には審判が集まってきて、前の1行「標的面またはバットレスに不当な損傷を与えるものであってはならない」を盾に射たせてもらえないでしょう。この文言は太さ制限のはるか昔、1960年代からあったルールです。アルミアローの時代にはシャフトより太い(大きい)ポイントは認められませんでした。ルール上、ポイントの外径はシャフトの外径と同じでなければならなかったのです。今もアルミアローを見れば分かるとおりです。
 ところが、5.6ミリのシャフトには5.7ミリではなく6.0ミリのポイントでもOKです。多分。審判はこんなことを考えたこともないし、シャフトの名前やハネの色は見てもポイントの直径を確認することなどないでしょう。(失礼ならお許しください。) 
 なぜなら、現在市販されているEASTONのACE純正ポイントで、先端部分の最大直径と最小直径の差は大きいもので約0.4ミリあります。ともかく今、皆さんが使っているポイントはカーボンアローであるなら、そのほとんど全部がシャフトよりポイントの外径の方が大きく作ってあるのです。言っておきますが、ルールとは市販品やEASTON製であるからそれに抵触しないということではありません。
 ルールができた頃の「不当な損傷」とは、例えばブロードヘッド(ハンティングで使用するカミソリの刃のようなものが付いた先端)のようなものを想定していたのでしょう。しかしブロードヘッドはポイントの大きさや形状にかかわらず「ターゲットアーチェリーで使用される矢という一般通念および語義」に適合しません。そう考えてみるとこれほど曖昧な文言、奇妙なルールはないと思いませんか。このルールは、なんら厳格に矢のサイズや形状そしてポイントの大きさを規定していないのです。EASTON(Hoyt)のアーチが掛かったハンドルを、一般通念および語義に適合している弓というのと同じことです。
 では、「不当な損傷」とは何か。畳が傷む、畳の寿命が短いということも「バットレスに」含まれるでしょう。しかしこれは2次的な問題です。競技としての最大の問題は、「標的面に」です。それも的紙が傷むというより、得点の判定基準となるシャフトより大きな穴が先に的面に開くことです。しかしこのことは今のオンラインの判定同様、同的の選手は忙しくなりますが「想像上の分割線」(第210条11)で判断はできます。
 ところが、矢は先端のポイント部分で的面に留まっているのではありません。場合によってはシャフトの中央付近まで的面に刺さって止まっています。それを思えば、EASTONの樽型シャフト(シャフトの中央部分が膨らんだストレートでないシャフト)の方がはるかにルールと得点判断をややこしいものにするはずです。それに樽型が本来の「ターゲットアーチェリーで使用される矢という一般通念および語義」に適合するかといえば、この方が個人的には疑問です。ポイントを大きくしなくても、シャフトの中央が膨らんでいるツチノコか葉巻状の矢を作れば確実にオンラインを稼げます。インドアだけでなくアウトドアにおいてもです。しかしこのことに関してのルール上の記載は一切ありません。
 カーボンアローが一般に登場するまでは、シャフトはすべての部分が同一外径で、ポイントはシャフトの外径より大きくはありませんでした。これが「矢という一般通念および語義」のはずであり、ストレートでないシャフトやシャフトより太いポイントは、明らかに「標的面に不当な損傷」を与える道具として使用は認められませんでした。にもかかわらずそんな一般通念が変わったのが、EASTONの社長ジム・イーストンがFITAの会長をしている頃からです。
 とはいっても、オンラインを稼ぐ目的でポイントが大きくなったのではありません。カーボンアローが登場した当時の技術と品質とコストでは、商品としてのカーボンアローの耐久性に不安があったのです。カーボンアロー=CFRP=カーボン繊維とプラスチックの複合材です。具体的にはシャフト切り口でのササクレや割れに加えて、摩擦熱や磨耗によって起こるであろう問題を危惧したのです。そこでそれらを安易に少しでも回避する方法として、シャフトより太いポイントは考え出されました。あるいはポイントがかぶさる形状で問題を解決しても、なおさらポイントはシャフトより大きくならざるを得なかったのです。
 
 当たり前のことですがルールは公平公正でなければなりません。そして誰が読んでも同じ解釈でなければなりません。ましてや、一企業の思惑や利益を代表することはもってのほかです。その大前提の下でカーボンという革新的素材を使いたいのであれば、「シャフトとポイントの外径は、すべての部分において同じでなければならない」という本来あるべきルールをもって、すべてのメーカーが努力するべきだったのです。
 あの時、企業努力を怠り、目先の利益に走ったメーカーとそれを良しとした組織の名残が今のカーボンアローの不均一な形状には残っているのです。遅くはありません。選手不在で試合のルールはコロコロと変えるのですから、技術が進歩した今、奇妙なルールはいつでも正すべきだと思うのですが、、、独占企業のことは百も承知で、皆さんはどう思いますか。

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