弓のうんざり「3rd Axis」(2nd)

 ついでのうんざりです。ヤマハの「サイエンスレポート」の3ページで、もう1つの大きな疑問が湧いたはずです。
 物を作る時、その「性能」を維持(発揮)するためにはどうしても守らなければならない(譲れない)部分があります。それが設計(図面)という作業であればなおさらです。
 先のハンドルとリムの取り付け角度などは最たるものです。これが決まらなければ、あるいは動いてしまうのであればハンドルにしてもリムにしても図面が書けません。ところがここ以外にも弓には同じように重要な部分があります。
 リムとハンドルの差し込み角度を決めたうえで、それがピットポイントからどの位置にあるか? HoytならFormulaハンドルにおいての「RX」と「HPX」でこの位置が異なることをメーカーが言っていますが、これによってグリップの深さや弓の安定度が変わってきます。弓の性能とあわせて性質を決定付ける非常に重要な部分です。
 同じリムを差し込み角度が同じであっても、この位置関係が異なるハンドルで使えば(他社のハンドルであれば異なる可能性は高まります)、リムが持つ本来の性能や性質は異なったものになります。当然ポンドも変わるでしょうし、ポンドを合わせればリムの差し込み角度を変えなければなりません。考えただけでも、うんざりしませんか。


 同じように「ピボットポイント」(グリップの一番深い位置)の位置も非常に重要です。確かに多くの弓はヤマハの位置関係(セットアップポジション)をコピーしてはいます。しかし微妙な違いも存在します。仮に「差し込みポイント」も「ピボットポイント」も、それが最良だとメーカーが言うのであれば、差し込み角度の絶対位置(デフォルト)同様、それらにあわせて作られたそのハンドル専用のリムがなければなりません。ハンドルとリムはワンピースボウのようにセットで設計され使われてこそ、本来の性能が発揮されるのです。しかしこんな重要なことについてもメーカーは語らず、ほとんどのアーチャーは考えもしません。
 なぜなら、リムの1stAxis(差し込み角度)は自分で動かせても、ピボットポイントもリムの差し込み位置もアーチャーの自由にはならず、ここだけはメーカーの与えるままです。ユーザーはこの部分だけはメーカーの仕様を買うしかないのです。
 デザインや色、重さや価格でハンドルを選んでも、ピボットポイントや差し込み位置でハンドルを考えるアーチャーは稀です。

 ところがこれらの「セットアップポジション」の中で唯一、非常に重要であるクッションプランジャーの位置「アロープレッシャーポイント」だけは違うようです。Hoytは1983年に犯した過ちを今年再び犯しました。設計の基本、そして基準となる位置を、差し込み角度と同じように、ユーザーが勝手に「上下」に動かせるというのです。
 「前後」はたとえピボットポイント上にある弓の前後の中心線を外しても、矢のスパイン調整を優先させることはあります。理論上の理想の位置より、実際に矢に与えるエネルギー量の変更の選択です。しかし「上下」はまったく違います。これを動かすことは、基本設計の変更です。ここをユーザーが動かせば、メーカーの意図する本来の性能は担保されません。性能そのものが変わります。
 最初から意図などしていないのかもしれませんが、こんな自己矛盾とメーカーのプライドのなさといいかげんさにもうんざりです。
 
 しかたがないので、次に弓の「2ndAxis」(2軸)です。
 これは「センター調整」機能と呼ばれ、ポンド調整と同じようにアーチャーの手によって行われます。というか行わなければ始まりません。ハンドルへの上下リムの差し込み角度を左右に振る(変更する)ことで、弓全体のセンターショットをセンタースタビライザーを含め一直線上に合わせます。ところがこの当たり前のように思っている2番目の機能にも大変なうんざりがあります。こんなことをしなければならないこと自体がうんざりなのです。
 「1stAxis」が性能の問題なら、「2ndAxis」は精度の問題です。
 このセンター調整という作業自体はテイクダウンボウができてから生まれたものですが、最初からあったのではありません。1972年に登場したテイクダウンですが、1980年代中頃でもまだこの調整は必要とされていませんでした。Hoytが初めてそれらしい機能を搭載したのが1980年代後半、ヤマハがハンドルではなくリム側にこの機能を搭載したのは1995年のことです。それも可動幅は0.2ミリです。ところが今は1ミリ以上動かせて、それを必要とするリムまであります。
 では、ワンピースボウの時代を含め、テイクダウンボウ初期の時代までこの調整が見逃されていたのかというと、決してそうではないのです。こんな調整を行わなくても、リムはハンドルに真っ直ぐ取り付けられていました。
 ワンピースボウの時代は木製の1本ボウなので、当然リムの根元を動かすことはできません。メーカーは1本1本の弓を職人が削って、センターを出しティラーを調整しポンドを合わせていました。Hoytを含め、それらはすべて芸術品の域に達していたのです。そしてテイクダウンに時代が変わっても、当初メーカーはそのノウハウを生かしリムは1ペアずつ職人技で仕上げられていました。どのハンドルとどのリムを組み合わせても、センターもティラーも狂いはありません。
 ところが、2000年代以降のテイクダウンボウは違います。ヤマハがなくなってからのアーチェリー界は、Hoytとヤマハで守り育ててきた崇高なスタンダード(世界標準)が、○国や△国のスタンダードに取って代わられます。Hoytもホイットおじさんの夢ではなくEASTONの一ブランドとして、精度とノウハウと技術を低コストと量産にトレードしました。メーカーは「センター調整機構」のお陰で、マスターハンドルで最後の確認を行うにしてもより大きな誤差を容認できます。それに自社メーカーのハンドル以外の曲がっているハンドルであっても、メーカーではなくユーザーの責任でセットしてもらえるのです。それに在庫は偶数ポンドだけでいいのです。メーカーもショップもこれほど助かる話はありません。
 1990年代に入ってもヤマハにはセンター調整機能は付いていません。Hoytもヤマハもポンドは1ポンド刻みです。あのメーカーのプライドと責任はどこに行ったのでしょうか。
 そんなアーチェリー界にも、いまだに職人技とプライドを持って弓を作り続けているメーカーもあります。リムを変えてもハンドルの再調整の必要がなく、同じストリングでセンター調整、センターショットもそのまますぐに射てるリムもあるのです。
 しかし「ポンド調整」と「センター調整」が当たり前と教わり高価な弓が良い弓と宣伝される現在においては、本当のスタンダードがない以上「本物」を素人が見分けることは難しいのが現実です。それに「機能」が付けば、あとはユーザーの責任であり、メーカーは悪くないのです。
 ところで、あなたは○国や△国の自動車やパソコンや家電製品を買いますか? 100円ショップならともかく、何十万円のお金を払って買う商品をです。あっ、それしかなければ、、、買いますかぁ。仕方ないですね。悲しいことですが・・・。
 
 こんなうんざりはまだましなのでしょうか。この後に3番目の大きなうんざりが登場します。
 ちなみにコンパウンドボウはどうかというと、リムポケット(リムとハンドルの取り付け部分)は、1stAxis方向(ポンド調整)以外は動かないようになっています。センター調整と同じ意味を持つカムの傾き(リーン)は、リムの振りでは行わずヨークケーブルのバランス、リムとの間にあるスペーサーの間隔変更、または異なるスプリットリムの組み合せ、ケーブルガイドのオフセット量を変えることの4つのうちの1つ、あるいはこれらの組み合わせで行うようです。

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