弓のうんざり「3rd Axis」(4th)

 「日本の弓で日本人が世界の頂点に立つ」。この意味を忘れてはなりません。誰が最高の性能や精度を自国より先に他国に提供するでしょうか。
 どんな製品にでも高いお金を出して買ってくれる上得意様に、定番になるかどうかも分からない試作品を商品として先に売りつけることはあってもです。
 そこで、オマケのうんざりです。
 矢が飛ぶか飛ばないかは、冷静に判断すれば「サイト位置」(サイトの高さ)でわかります。それともう一つは、「矢速」(矢のスピード)です。実はこれらも、カーボンアローのお陰で、誰でも矢が的に届いてしまうことで分かりづらくなっていますが、正直多くの弓では以前の弓よりサイトが下がって(矢速が落ちて)います。
 例えば同じ40ポンドの強さで弓を引きリリースする時、安定性や精度は別にして単純に速く飛ぶ方がアドバンテージは大きくなります。同じスピードなのに片方は40ポンドでもう片方は42ポンドなら、40ポンドのリムの方が有利に決まっています。昔はこれが的に届くか届かないか、少しの風で流れるか流れないかという目に見える基準で素人のアーチャーでも分かったのです。ところが今ではどんな射ち方でも的に乗ってしまうがために、素人では判断や比較ができなくなっています。
 ではそんな状況で速く飛ぶ弓を作ろうとする時、何の苦労もなく簡単に素人や子供を騙せる(?失礼)方法があります。それは弓の長さです。同じ「68インチ」と謳っていても、実際には少し短めのリムにすれば矢速は速くなります。Hoytのこんなリムもチップ側を短くして失敗(?)したモデルです。
 リムを作る時、たい焼き方式もそうですが、サンドイッチ方式の場合はリムの全体形状を決める「プレス型」(リムの接着の時に押さえ付ける型)が存在します。これで押さえて全体を成型した後でサイド面を削ったりチップや差込部分の加工を施します。そこでメーカーとしてはいくつかのプレス型を持つのですが、実際にはできるだけ共通で使用して後加工でモデルを変えることが一般的であり効率的です。
 例えば、こんなまったく異なるモデルのようですが↑、差込部分を見れば後加工で長さや寸法を変えていることは簡単に想像できます。それにダンパーを付けるために開発されたかのようにメーカーが説明するマウント(ブッシング)も、加工時にリムを押さえセンターを決めるために必要な基準点であり、リムを工具に固定するための穴であることも容易に想像できます。当たり前ですが、こんなうんざりモデルと通常モデルはリムを合わせれば同じプレス型で、単純に長さだけが違う(切り落とす部分が異なる)ことは一目瞭然です。これらは異なるモデルですが、同じプレス型で元は同じです。
 
 そこで、矢速をアップさせる簡単な方法があります。弓の全長は同じで、リムを短くせずにハンドルを長くするのも方法です。曲がらない部分(ハンドル)が長く、リムが短い方が同じドローレングスならリムは大きくたわみます。しかし逆にリムにバタツキが出たり、奥が硬くなったり、安定性に欠けたり、場合によっては耐久性にも影響します。
 これは1972年にHoytがTD1を出した時から始まります。Hoytは1983年にGMを出すまでハンドルの長さは一貫して「24インチ」でした。そしてこれが後に世界のスタンダードの長さとなります。しかしそれを追うヤマハは非力で体格的に欧米人に劣る日本人向けに24インチのハンドルだけでなく「26インチ」のロングハンドルを世界で最初に出します。(詳しくはこちらを) Hoytがハンドル1サイズ×リム3サイズでスタートしたのに対し、ヤマハはハンドル2サイズ×リム3サイズで対抗しました。
 ただし、ヤマハがハンドルを長くしたのは単に矢速をアップするだけではなく、日本人の体格に合わすべく設計されたものです。先の「ヤマハサイエンスレポート」の4ページを参考にしてください。
 日本人のようにリーチの短い選手でもリムがしっかりたわみリカーブが伸び、短いドローレングスで高性能を発揮するように最初から設計されたリムであり組み合わせです。この発想はアルミアローの時代においては、非力な選手だけでなく欧米の選手においても矢速をアップさせる点から受け入れられました。その結果1982年のEXでは、ヤマハは日本だけでなく世界においてもHoytに完全に追いつきます。
 そこで矢速でも性能でも追い詰められたHoytは、EXのコピーとも言える形状のGMで24インチのスタンダードを捨て、「25インチ」ハンドルというヤマハの中間サイズのハンドルを出します。リムの性能でヤマハを超えられないHoytの苦肉の策です。
 しかしそれから数年、日本をはじめとする比較的体格の小さい国のディラーからHoytに要望が出されます。Hoytが25インチハンドル1サイズにこだわったために、ヤマハにある「64インチ」(Sハンドル+Sリム)をカバーできなかったのです。そこでHoytが急遽作ったのが今のショートハンドル「23インチ」ハンドルです。これは基本設計から新たに作られたものではなく、単に短くしたハンドルにそれまでの25インチハンドル用のリムを取り付けるだけのやっつけ仕事です。しかしそれでも2002年のヤマハ撤退によって24・26インチハンドルが消えた後、現在のスタンダードとして「25インチ/23インチ」ハンドルは生き残りました。
 問題はその先です。現状のスタンダードの組み合わせで、一番長い弓は「70インチ」です。25インチハンドル+45インチのLリムです。しかし2m近い体格の選手で32インチを超えるようなドローレングスでは70インチは短い場合があります。そのため数年前に登場した「27インチ」ハンドルは欧米の選手には救いです。72インチの弓ができたのです。
 しかし実際には、23インチハンドルをやっつけ仕事で作った時と同じような無理が27インチハンドルにもあります。25インチハンドルで設計されたS/M/Lのリムはすべてそのままで、ハンドルの長さだけが後で追加されています。
 うんざりは「27インチ」ハンドルができたことではありません。うんざりはHoytが27インチハンドルを違う目的に使ったことです。
 「Formula」を作ったことで、それまでの25インチハンドルのFormulaでは結果的にはウインドウの長さが短くなり、インドアや高ポンドでは30mのサイトが取れなくなることくらいは予想できたはずです。日本人の低ポンドや中級者ですら、カーボンアローでは近距離でサイトが隠れて見えなくなります。ましてや体格の勝るトップ選手においては使うことができません。
 そこで仕方なく、ここでもやっつけ仕事でFormula「27インチ」ハンドルを追加します。というより27インチハンドルの流れに便乗します。結果、必然的にウインドウが広くなり、矢速もアップし表向きは問題解決のようですが、弓の全長に対してリムの組み合わせが1サイズずれてきました。全長が2インチ伸びた分、日本人をはじめとするリーチの短いアーチャーが使う「64インチ」ボウがなくなります。
 そこでまたその場しのぎのやっつけ仕事です。これまたイレギュラーな「エクストラショート」なるSリムより短いSSリムを作るのです。お陰で基本設計はすべて25インチにもかかわらず、ハンドルだけが長くなりリムへの負担(無理)も増します。
 それでも今ある「23インチ」のショートハンドルは廃番とし、本来のスタンダードをFormulaに揃えるというのです。本末転倒です。

 こんな場当たり的な対応でも、唯一リムが短くなったお陰で単純に矢速は速まりました。あとはセールストークとカタログの文言をを考えれば、誰も文句は言い(え)ません。
 
 ところが、本当のうんざりはこれではないのです。サイズ変更に伴って3rdAxis同様の禁じ手が登場しています。「ストリングハイト」(BraceHeight)です。
 ハンドルの長さや形状が変わっても、リムの「1stAxis」の基準角度は設計上不動でなければなりません。そのうえで、そこからドローレングスやストリングハイトも決定付けられます。ところがどうでしょう。最新、最上級モデルの25インチあるいは27インチハンドルのストリングハイトが、リムが同じにもかかわらず23インチのショートハンドルより低くなっています。それも1インチ近くもハイトを下げることを推奨しているのです。
 「ストリングハイト」はリムの基本性能以上に弓が矢に与えるエネルギーを変化させられる部分です。ほんの少し下げるだけで、リムを短くしたりハンドルを長くする、あるいはストリングの太さを変える以上に矢速アップに貢献します。それにリムへの負担が小さくなるので、折損などのトラブルも減ります。メーカーにとっては弓の性能を除けば良いこと尽くめというか、望ましい状況(方法)なのです。
 しかし「性能」こそが弓の命であるからこそ、メーカーの都合を後回しにして研究開発を行うのです。ストリングハイトは下がればストリングが矢に触れている時間と長さが長くなります。その分、矢は弓(アーチャー)の影響を受け、的中精度は低下します。リリーサーで射つコンパウンドとは異なります。
 ストリングハイトを上げて同じ矢速を確保することこそが性能でありメーカーの技術力であり、的中性能を向上させる方法です。ところがストリングハイトを1インチも下げれば、矢速もサイト位置も1ポンド以上アップした効果が出ます。しかし、矢はストリングの動きを拾うことでミスが出たりグルーピングがバラツキます。リリース感覚も変わります。それは今使っている弓でストリングハイトを1インチ下げればすぐに分かることです。だからこそ飛ばなくてよいインドア競技では1インチ以上ハイトを上げて、的中精度の向上を目指すのです。
 以前、ハンドルを太く重くして耐久性を上げることは性能ではないと書きましたが、このストリングハイトの問題でも同じことが言えます。
誰でもわかるハンドルのこと(上)
誰でもわかるハンドルのこと(中)
誰でもわかるハンドルのこと(下)
 昔々、ワンピースボウの時代、ストリングハイトは「9〜10インチ台」でした。これは当時ストリングの素材が「ダクロン」(ナイロン)で、伸び率が非常に大きかったからです。発射時にストリングが伸びることで、ストリングハイト位置より2インチ近く下がった所でノックがストリングから離れるため、矢への影響が大きかったのです。それが1975年に「ケブラー」(アラミド繊維)が登場してからは「9インチ台」に下がりました。ストリングが伸びなくなったのです。そして原糸の耐久性や重さの違いはあっても、ケブラーから現在まで伸び率はほとんど同じです。
 しかし問題は1980年代から現在に至る「高密度ポリエチレン」のストリングになっての2000年頃からです。伸びないストリングでプレス型も同じリムにもかかわらず、ストリングハイトは徐々に下がって「8インチ台」になったのです。確かにカーボンアローによって矢速もアップし矢離れも良くなっています。それならなおさらストリングハイトを上げて的中精度をアップさせるリムを作るべきです。それが性能です。
 にもかかわらず突然、リムは同じで、ハンドルのセットアップポジションも大きく変化していないにもかかわらず、なぜか今年からは「7インチ台」というのです。ハイトをここまで下げればハンドルが長くなった分のリムへの負担を軽減できます。矢速も大きく向上します。しかし、アーチャーのミスは確実に矢に伝わり、扱いにくい弓になります。これは何ら進歩ではなく、メーカーの都合と怠慢に他なりません。個人的にはこの推奨ストリングハイトは無視するでしょう。7インチ台は異常です。矢速が速まっても確実に的中精度は低下します。同じリムでなぜ下げる必要があるのでしょうか。
 ストリングハイトが高く、それでいて矢速が速いリムこそが高性能で的中精度を約束する弓であり、メーカーの技術力とノウハウを誇れるのはそこにあります。ホイットおじさんHoytはどこに行ったのでしょうか。○国メーカーもよろこんで便乗し追随すること間違いありません。うんざりです。
 
※ここに書かれているのは個人の感想であり、実際の性能や精度を保証するものではありません。

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