ハンドルとリムの長さの組み合わせ

 たくさんのお問い合わせや質問をいただくのですが、ちょっと知り合いの方とのやり取りです。私信です。
 
(2011/09/22 7:59), *********** wrote:

> もう一つ教えて下さい。
> 66の場合、一般的に25インチハンドルにショートリムを付けて66とするよう 
> ですが
> 23インチハンドルにミディアムリムを付けて66とする方法があると思うのですが
> そのメリットデメリットを教えていただけないでしょうか?
> 女性には23インチにミディアムが弓全体が軽くて良いと思うのですが・・・。
> 宜しくお願い致します。

 Subject: RE: 弓の長さ
 Date: Thu, 22 Sep 2011 19:36:15 +0900
 From: archer@a-rchery.com
 
いやー、話せば長くなります、、、また、京都でゆっくり飲みませんか?!
で、もともとテイクダウンのハンドルは、その後すべてのメーカー、モデルのスタンダード(基準)となるのが、1972年にプロトタイプがデビューしそれに続いて販売されたHOYT「T/D1」「T/D2」です。これらのハンドルはすべて「24インチ」1サイズしかありません。1サイズのハンドルに対して、66インチ用、68インチ用、70インチ用の3サイズの異なる長さのリムが作られていました。ともかく、スタートは「24インチ」です。今の25インチではありません。
だから当時まだHOYTを追いかけていたヤマハも、1975年に発表した最初の競技用テイクダウンハンドル(Ytsl)は24インチです。HOYTと同じように、24インチハンドルに「Sリム」を取り付けて66インチとしました。すべては「ショートハンドル(24インチ)+Sリム(21インチ)」=66インチになるのが基準で基本でした。問題はこの先です。

HOYTはハンドルを共通にして、リムを長くすることで68インチも70インチも作ったのですが、これはアメリカをはじめとする欧米のリーチが長い選手には非常に有効な手段でした。しかし、当時まだ世界を追いかけていた、日本人のように非力で矢(ドローレングス)が短い選手には、「リムが十分にしならない=性能を発揮できない=飛ばない=当たらない=勝てない」という大きな問題がありました。
そこでヤマハは、日本人に合った弓を考えました。その根底にあったのが、川上源一さんの「日本人が日本の弓を使って、世界の頂点に立つ」という想いでした。その元で伊豆田さんが考えたのが、26インチ(ロング)ハンドルです。HOYTをはじめとする欧米メーカーとはまったく逆の発想です。リムの長さは同じで、ハンドルの長さを変えることで66インチ以上の弓に対応したのです。68インチを例にとれば、HOYTは「ショートハンドル(24)+Mリム(22)」ですが、ヤマハは「ロングハンドル(26)+Sリム(21)」というわけです。
こうすれば短いドローレングスで、68インチの弓でもリムはしっかりたわみ、スタッキングポイントまで引くことができ、本来の性能が発揮できます。またスタッキングポイントを不要に深い位置に持っていくことがなく、66でも68でも同様のポンド数が得られることで、日本人にとっては68インチへの選択肢が拡がったのも事実です。同時にこの発想は、すべての欧米人が30インチの矢を引くわけでなく、また女性アーチャーを考えれば、世界的に受け入れられたことは当然の結果だったと思います。1977年には、ヤマハはHOYTに並び、初めて世界の頂点に立つことになります。

そして1982年、Ytslに続くYtslUを経て、「EX」でヤマハはHOYT「T/D2」を一気に抜き去ります。性能、デザイン、機能すべての面で世界のトップブランドとなります。ここで忘れてもらっては困りますが、この時代はまだ「カーボンアロー」ではありません。1987年にカーボンアローが登場するまでは、「アルミアロー」こそが最新兵器でした。だからこそ、そんな重くて太い矢を風の中で90m飛ばし、的中を競うためには、弓の「性能」が不可欠だったのです。ましてや非力で矢の短い日本選手にとっては、それを補うには世界一美しいフォームや技術だけでは不足でした。同じホールディングウエイトでHOYTより速く飛び、より安定した的中が得られる道具が必要だったのです。
そんな中で「カーボンリム」が世界で初めて市販されるのは、1976年のヤマハからです。ヤマハはYtslCarbonリムと1978年のYTSLUハンドルで、HOYTにやっと追いついて並びます。しかし、追い抜くのは1982年のEXハンドルでです。その後もヤマハはEXに独自のポンド調整機能などを付与した「EX-α」などを投入しますが、焦ったのはHOYTです。
1983年にHOYTはEASTONに買収されます。ところがEASTONは資金力はあっても、ノウハウとホイットおじさんほどの夢と情熱はありません。しかしどうしてもヤマハを追い落としたかったのです。そこで新たに投入したのが「GM」ハンドルです。今の○○製と同じように、EXの外観をそのままコピーした会心作です。実際には十分なテストもせずに作ったために、後にハンドルのねじれや強度不足でマイナーチェンジを繰り返すモデルですが、この時唯一革新的なことをHOYTは行いました。
GMからHOYTは、ハンドルの長さを新たに「25インチ」としたのです。それまでの24インチをやめたのです。当時は今のアルミをNCで削り出すハンドルではなく、マグネシュームを溶かして型に入れるダイキャスト製法です。ヤマハの24と26の2サイズのハンドルに対し、その中間の25ですべてをカバーすることは大きなコストダウンです。(当時は23インチのハンドルはまだなく、64インチの弓も25インチハンドルで対応していました。)しかしそんなこと以上に、HOYTには切羽詰った事情がありました。
どんなに頑張っても弓(リム)の性能、その最たるものが矢速に代表されるスピードですが、それすらヤマハを越せなかったのです。当然でしょう。当時ヤマハは東レの最新カーボン素材を弓用に整形、加工して最新の技術とノウハウを持って弓を作っていたのです。そこでHOYTが使った姑息な手段が、ハンドルを長くすることでした。ヤマハが10数年前に使った方法を、目先の数値のために節操なく使ったのです。これほどユーザーを騙しやすい(説得しやすい)方法はありません。最近の、知らない間にリムの長さが短くなっているのと同じです。性能はともかく、ハンドルを長くする(リムを短くする)ことで。同じドローレングスならリムのたわみが大きくなるため、矢速が単純にアップするのは当然です。

と、ホームページが書けるほどに前置きが長くなってしまいましたが、、、最終的にヤマハがアーチェリーから撤退するのが2002年。最後の10年はヤマハも何もしていない状態でしたが、結果的にはヤマハが撤退することで、HOYTが作ったGMの仕様が現在に至っています。それを許容した最大の理由が、接合方式の特許です。GMの後、HOYTはその接合方式を特許とせずオープンにすることで、ヤマハ包囲網を築くつもりだったと思います。しかし、その計画は予想に反した結果になります。オープンパテントには多くの後発○○メーカーが飛びつきますが、結局ヤマハが消えればヤマハの接合方式だけでなくヤマハとHOYTが築き守ってきた世界のスタンダードも、低価格の前にもろくも崩れ去るのです。
ヤマハが撤退して10年。この世界は無法地帯と化しています。ハンドルとリムが同じメーカー、同じモデルで組み合わされるとは限らないのです。なんら基準や規格が存在しない、あるのは唯一ユニバーサルと呼ばれるHOYTの接合方式だけです。

そこで質問の答えは、「なんでもありだぜ!」ということにはなってしまうのですが、最後に大事なことをもう1つ。
たぶんどのメーカーも1つのリムが、2サイズのハンドルに対応するようには作っていません。取り付けられない、使えないという意味ではなく、メーカーの意図する性能が発揮できるかという意味です。そのためメーカーは一応、ハンドルとリムの組み合わせ表を作っているはずです。多分それによれば、最初の質問のように66インチの場合は24インチハンドルとSリムを組みなさいということです。
弓を作る時、基準になるハンドル(マスターハンドル)とリムの長さは当然ありますが、ユーザーには関わりのない、しかしメーカーにとっては非常に大事な測定基準があります。ストリングハイト(マスターストリング)とドローレングスです。なぜユーザーに関係ないかといえば、表示ポンドと実質ポンドの違いです。ストリングハイトとドローレングスは実際の使用では千差万別です。しかしメーカーが作る段階では、どこか1つの基準を設けて測定するしかありません。すべてのメーカーが採用しているかは知りませんが、それが一応これです。
そろそろ分かってもらえると思うのですが、自分の弓の長さを決定付けるのは自分の「ドローレングス」なのです。近年、カーボンアローに変わったことで低ポンドでもへたくそでも70mを矢が飛ぶようになりました。するとショップやメーカーは在庫を少なくしたい意図から、68インチを薦めます。逆に言えば、150センチの身長や26インチの矢でも64インチの弓は薦めてくれません。弓が長くても、リムがしならなくても、性能が発揮できなくても、矢が飛んでくれるからです。その時の説明には、「弓が長い方が、指がしっかり掛かる」というのもあります。いいでしょう。弓の性能や技術など無関係に矢は的に当たってくれるのですから。しかし弓にはそれぞれ性能があることを忘れないでください。そしてそれを発揮できるかどうかは、ドローレングス=リムのしなり が決定付けることを知ってください。「23インチハンドルにミディアムリムを付けて66とする方法」もあります。その場合は、リムがしっかりしなるくらいの条件(少なくとも28インチくらいは引く)で使う場合でしょう。でもそんな性能は無視(分からないことも含めて)して、ハンドルの軽さや引きの柔らかさやフックなどを優先するなら、それもありでしょう。

ただ、昔日本が世界を目指した時がそうだったように、すべての条件が同じであれば、勝つためにはアドバンテージが必要です。まして体格やリーチで劣るなら、それをカバーするだけの何かが不可欠です。そのひとつが道具の性能であることも忘れてはいけません。日本製の弓がなくなった今、だれも他国の選手に自国より先にいいものを使わせてなんかくれませんよ。

ということで、とりあえずは、、、、

追伸:もっとややこしくなるので、ここではリムの差し込み角度については触れていません。このパンドラの箱を開くと、何がなんだかわからなくなるので、次回ビールを飲みながらで、よろしく!

(2011/09/22 23:05), *********** wrote:

> 弓具の件でいろいろ質問で済みません。
> 本当は私も1本さげて京都まで呑みに伺って教えていただきたいところですが、
> 貴重なお時間を申し訳ないなあと思いつつ、
> メールでいろいろ質問させていただいています。
> 回答にあまり時間をかけていただくのは申し訳ないので、
> 乱暴な言い方かも知れませんがひとことで言ってしまうと、
> 引き尺の少ない人は短いリムで、
> 引き尺が長い人は長いリムが有利と考えれば良いでしょうか?
> 要するにスタッキングポイントまで引ける事がその条件でしょうか?

> ・・・・と、ここまで書いたところで次のメールを頂きました。
> とても良い感じで扱っていただいて有り難うございます。
> どちらが良いかは要するにスタッキングポイントが支配的で、
> そこにうまく到達できる引き尺があるかどうかで決まると考えて良いでしょうか?

 Subject: RE: 弓の長さ
 Date: Fri, 23 Sep 2011 20:25:30 +0900
 From: archer@a-rchery.com
 
そうですね。ともかく最近は長め(長すぎる)の弓を使う傾向にありすぎます。弓の長さは「ドローレングス」で決定付けられるものです。そうでないと、弓の性能は発揮されません。いくら矢が飛ぶからといって(70m届くといって)、安易に長い弓で楽をすることは、せっかくのアドバンテージを放棄することになります。
ノックの底からプランジャーまでの長さが28インチあるなら、68インチの弓でしょう。しかし27インチしかないなら、これは66インチか68インチかは微妙です。モデルにもよるでしょうし、アーチャーの技術にもよります。しかし自信を持って68インチを薦めるには躊躇します。微妙です。26インチなら絶対66インチです。64インチもありになってきます。
弓の性能とは、実際に矢に伝わるエネルギーは別にして、少なくともデータ上は「F-X曲線」で表されます。それでもわかるように、そこで「スタッキングポイント」は重要な意味を持ちます。個人的には、スタッキングポイントを少し過ぎたあたりでホールディング(クリッカーが鳴る)するのが好きですが、ともかくはスタッキングポイントまでは引かれないと、エネルギーは最大にはなりません。
ということで、あとは飲みながら。
よろしくお願いします!

copyright (c) 2010 @‐rchery.com  All Rights Reserved.
I love Archery